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森本達雄 『インド独立史』 (中公新書)

やっとインド史の本が2冊目か。手薄すぎるな。

この貧弱な読書リストでカテゴリ別にかなり数の偏りがありますね。

「史論・評論」や「近代日本」カテゴリは自分でも半ば「確信犯」的にやってるのでひとまず置くとしても、全体数の割りにロシア史の本が不自然に多かったりするのにひきかえ、イスラム通史は1冊、オリエントは実質ゼロ、ラテン・アメリカに至ってはカテゴリすら立てられない始末。

何とかしなきゃと思いつつ、簡単で面白そうな本が無いんだから仕様が無いと開き直る気持ちも無いではない。

話を戻して。

本書は内容については可も無く不可も無くといったところか。

特に面白いというわけでもないが、まあ基礎知識を得るには便利。

あんまり贅沢言ってたら、マイナーな分野で読む本が無くなるので黙々と取り組みましょう。

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塩野七生 『神の代理人』 (中公文庫)

ルネサンス期のローマ教皇4人の評伝。

特にレオ10世の章は面白かった記憶がある。

『ルネサンスの女たち』『チェーザレ・ボルジア』に比べれば、より取っ付きやすいテーマか。

機会があれば、私も再読したいです。

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ジョージ・オーウェル 『動物農場』 (角川文庫)

人間たちの虐待に耐えかねた、とある農場の動物たちが団結して反乱を起こすという寓話の形式を借りた、ソヴィエト全体主義批判の小説。

これは非常に面白い。

虐げられたものたちの反乱の成功が、そのまま新たな抑圧の原因になるメカニズムを明快に記している。

比喩のレベルが高く、ソ連が辿った道への痛烈な皮肉と批判となっている。

まだ読んでいない方は是非一読をお勧めします。

ただ本作の後に附せられているエッセイ数本はやや退屈。

薄くなり過ぎるかもしれないが、『動物農場』だけを収録した文庫本を出してくれないだろうか。

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大島直政 『ケマル・パシャ伝』 (新潮社)

第一次大戦敗北後の祖国を再建し、政教分離と近代化を推進して、トルコをイスラム圏での顕著な例外国家とすることに成功したムスタファ・ケマルの伝記。

ケマルを極めて高く評価しながら、現代トルコでの聖人礼讃風態度からは距離を置いた非常にバランスの取れた本。

やや古いが、文章は読みやすく、わかりやすい。

手軽に読めるトルコ現代史の良書。

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高坂正堯 『宰相吉田茂』 (中央公論社)

本書は確か大学入ってすぐくらいに読んだのだろうか。

戦後日本史としては少々読みにくかった記憶がある。

だが「ワンマン」「逆コース」という吉田のイメージを逆転させた力を持つ著作であり、重要性は高い。

本書の吉田への高い評価が現在と未来においても適当かは意見が分かれるだろうが、とりあえず一読はしておきましょう。

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班固 『漢書列伝選』 (筑摩書房)

すみません、買っただけです。

中国正史において、隔絶した傑作である『史記』に次いで重要と思われる『漢書』ではあるが、とてもじゃないがちくま学芸文庫の全訳は読み切れない。

本書は『漢書』のうち、『史記』と重複する部分を除いて、主要な十数人の人物の伝を集めたものなので、これならと思い買ってみた。

しかしほんの数ページ読んだだけで挫折。

時間を置いて、もう一度挑戦してみたが同じ。

ろくに読んでないので何とも言えない。

存在だけは紹介しておきます。

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ドミニク・リーベン 『ニコライ2世』 (日本経済新聞社)

帝政ロシア最後の皇帝で、革命後家族と共にボリシェヴィキに銃殺された悲劇の君主の伝記。

「暗愚の皇帝」というイメージを安易に受け入れてはいないが、ニコライが意志の弱さから多くの政治的失策を犯したことも認めている。バランスの取れた再評価の書というべきか。

時代背景にも多くのページが割かれ、19世紀末から20世紀にかけてのロシア政治史としても役立つ。

またツァーリズムを日本はじめ各国の君主制と比較した文が各所に出てくるが、それも興味深い。

総合的に見てかなりの良書。私は何で手放したんだろ。いつか買い直して再読するか。

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村上陽一郎 『ペスト大流行』 (岩波新書)

これは何のきっかけで読んだのかな。

たぶん栗本慎一郎『パンツを棄てるサル』(光文社)に引用されてるのを見たからだと思う。

ただ内容はあまり印象に残っていない。中世末期の黒死病の流行がメインテーマのはずだが・・・・・忘れた。

著者のネームバリューからして良書のはずであるから、機会があれば再読したい。

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斉藤孝 『スペイン戦争』 (中公文庫)

スペイン内戦に関する啓蒙書としては一般的で手軽に読める本ではある。

だが肝心の内戦観、フランコ観は凡庸というか平板というか退屈である。

以前記事にした『フランコ スペイン現代史の迷路』が出た以上、本書の意義が相当薄れたことは否めない。

スペイン内戦の基礎知識は欲しいが、『フランコ~』は著者の歴史観が気になってどうしても読み通せないという人だけどうぞ。

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タキトゥス 『同時代史』 (筑摩書房)

主著『年代記』に続くネロ死後の内乱時代を叙述したタキトゥスの史書。

出たときに買いました。即読み始めました。最後まで読み通しました。しかし苦しかった・・・・。

通読は『年代記』より相当難しい。まず『ローマ人の物語』の『危機と克服』の巻をしっかり読んで大体のことを頭に入れてから読み出したほうがいいでしょう。

そもそも欠損部分が多く、現存するのははじめの数章のみ。

内乱を収拾してローマ帝国の再建者となるヴェスパシアヌス帝の肖像など興味深い記述はあるが、あくまで余裕があれば読むというスタンスで宜しいんじゃないでしょうか。

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シュテファン・ツヴァイク 『権力とたたかう良心 (ツヴァイク全集15)』 (みすず書房)

何やら俗っぽいタイトルだが、ジュネーヴで神政政治を敷いていたころのカルヴァンの異端思想家への迫害をテーマにした著作で、『エラスムスと勝利と悲劇』の続編といった感じの本である。

『エラスムス~』でのルターと同じく、カルヴァンの偏狭さと過激さを強く批判する本だが、読んでも前作で感じたほどの不快感は無かった。

自分の中ではルターよりカルヴァンは人間味に乏しい魅力の無い人物だと思っているようだ。

興味深い本だとは思うので、機会があればどうぞ。

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曽先之 『十八史略 上・下』 (近藤出版社)

『十八史略』とは太古から南宋の滅亡までの中国史を、正史を中心にしたさまざまな史書から抜き出した記述で構成した本。

ごく簡略な史書で俗書と貶められてきたが、日本では初学者向けの入門書として江戸時代から重宝されてきたそうである。

だが現在、陳舜臣の『小説十八史略』はじめ、原作にさまざまな記述を水増しして書かれた本はあるものの、原作本文だけを忠実に訳した本というのがなかなか無い。

本書はその稀な例外である。

漢楚の争いや三国などよく知ってる時代はやはり退屈だが、後漢の建国や南朝の興亡などはこの程度の簡略な記述がわかりやすく面白い。

ただやたら版形がでかいのがかなわない。こういう本は文庫でいつでも手に入るようにしてもらいたいもんです。

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プーシキン 『大尉の娘』 (岩波文庫)

受験時代に「プガチョフの乱に題材を採った歴史小説は?」という一問一答式問題としてタイトルを覚えた作品だが、今の受験生も憶えさせられているのだろうか。

高3から大学2年にかけては人生で唯一文学らしきものを読んだ時期である。

やはり「古典」を読まねばと思っても哲学書などは読んでもわからず、じゃあとりあえず文学でもとできるだけ手にとってみた。といっても代表作を大体読んだと言えるのはチェーホフとドストエフスキーだけ。

この辺のロシア文学で世界史に関係する小説といえば何といってもトルストイ『戦争と平和』だが、読んだことはないし、これからも一生読めないままだろう。

なにしろ大学半ばから小説というものを全く読まない人間になってしまった。偏った読書生活を反省。

閑話休題。本書もその時期に読んだものの一つ。

ロシア文学でもかなり初期の作品だが、これはかなり面白い。

プガチョフの乱について細かな具体的知識が得られるわけではないが、当時のロシア社会の様相や雰囲気が非常に良くわかる。

世界史関係歴史小説では押さえておきたい作品である。

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河合秀和 『チャーチル』 (中公新書)

この大政治家の著作として『第二次大戦回顧録』があるが、河出文庫の全4巻の縮刷版ですら挫折した身としては、こういう手軽な伝記一つ読んで済ませたいものである。

内容は標準的で悪くない。特に面白いということもないが。

現在手に入るのは終章に「チャーチルと日本」という文章を入れた増補版だが、さほど感心する出来ではなかったので、旧版を買ってもいいかもしれない。

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渡辺啓貴 『フランス現代史』 (中公新書)

第二次大戦後の第四共和政・第五共和政フランス史。

新書版にしては史実が詳しく記され、基本的に大統領の任期ごとの章立てでわかりやすい。

できればミッテラン時代とシラク時代を少し削って、その分ド・ゴール時代に充てて欲しかった気がするがまあいいでしょう。

しかしどうも文章が面白みに欠け、データの羅列といった感がある部分が少なくなかった。

そのためか、先日再読しようと思って手に取ったが、四分の一くらいのところで耐え切れず、放り出してしまった。

まあ基礎知識を得るには良い本だとは思います。

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シュテファン・ツヴァイク 『エラスムスの勝利と悲劇』 (みすず書房)

宗教改革の激動の中で、狂信を排し寛容を主張した「最大の人文主義者」エラスムスを讃えた本。

それは結構なのだが、訳者解説で述べられているように、本書でエラスムスの敵役となるルターへの非難は、執筆当時のツヴァイクの反ファシズムの主張を込めて描くという意図がストレートに出すぎて、かなり一方的で歴史の実像を正確には反映していないように思える。

面白くないことはなかったのだが、以上のことが気になって気になって仕様が無かった。

まあ良質な歴史読み物ではあると思う。

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ナイジェル・ニコルソン 『ナポレオン1812年』 (中公文庫)

ナポレオンのロシア遠征を扱った戦史。

これは標準的叙述でよかった。

クトゥーゾフ将軍の戦略と戦争の過程がわかりやすく記されている。

大して長いものでもないし、いつか再読しようかなと思っている。

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高坂正堯 『一億の日本人 (大世界史26)』 (文芸春秋)

この文芸春秋の「大世界史」シリーズはなぜか日本史の巻がいくつかあるのだが、これは最終配本された戦後日本史。

これだけバランスが取れて豊かな内容を持った戦後史も珍しいのではないか。

敗戦から1960年代末までの歴史が実にわかりやすく叙述されている。

高坂氏の戦後史的書物としては『宰相吉田茂』(中央公論社)が有名だが、初心者はこちらを先に読んだ方がいいと思う。

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宮崎市定 『中国に学ぶ』 (中公文庫)

歴史・思想・時事・学界など多分野にわたるエッセイ集であるが、他の学者ならつまらない雑文集に堕すところ、御大の手に成るものだけに珠玉の一品となっている。

中国史学の発展や太平天国への評価、内藤湖南など先達への敬意に満ちた紹介など、実に面白くて役に立つ文章が満載。

一時品切れだったのが復刊になったのはいいが、値が張るようになったねえ。

もうちょっと勉強してもらえませんか、中央公論様。

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羅貫中 『完訳 三国志 全8巻』 (岩波文庫)

こちらは正史ではなく、小説の三国志演義の完訳である。

吉川三国志を読破したあと、元ネタの小説も読んでおこうかと買い求めた。

すらすら読めて通読は比較的楽にできたのだが、正直あえて読破する価値があったのかは微妙。

大抵の三国志本でごく簡略に触れられるだけの、孔明死後晋による三国統一までの物語が他の期間と同じ密度で記されていることが取り得か。

三国志マニア以外は特に読む必要は無いかも。

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森島恒雄 『魔女狩り』 (岩波新書)

これも大学の授業で読まされた本。

「暗黒の中世」ではなく、むしろルネサンスと宗教改革を経た近世初期に「魔女狩り」の狂気が最も荒れ狂ったこと、カトリック側に劣らず、プロテスタント側も多くの犠牲者を死に追いやったことが詳細に記されている。

半ば嫌々読み始めたものだが、今となると読んでよかったなと思う。

ヨーロッパ史の重要な一面を知ることが出来る。

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塩野七生 『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』 (新潮文庫)

悪名高いボルジア家の教皇アレクサンデル6世とチェーザレ・ボルジアの親子を主人公にした本。

チェーザレの人物像には確かに魅力を感じないでもないが、『ルネサンスの女たち』でも書いたように、どうもこの辺の群小都市国家の歴史はゴチャゴチャしていて読むのが面倒臭い。

何とか読み通したが、少々の忍耐が要る本であった。

まあ好きな人にはいいんでしょう。

私は多分再読はしないと思う。

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A・J・P・テイラー 『近代ドイツの辿った道』 (名古屋大学出版会)

大学に入ってしばらくした頃、以前から名前を知っていた有名な歴史家の本であり、立ち読みしたところ十分通読できそうな難易度だったので、やや高いなと思いながら購入。

早速読み始めたのだが・・・・・・、これはヒドイ。

ナチズムの勝利という破局が、ルター、ビスマルクの昔からドイツの必然的な道として用意されていたというドイツ史に対する一方的な告発の書。

金がもったいないと思って何とか最後まで読み通したが、途中腹が立って仕様が無かった。

史実の整理と叙述の仕方はさすが練達の歴史家だと思わせるものがあるが、本書に関して言えばその史観はあまりに硬直しており、的外れとしか思えない。

この人の『第二次世界大戦の起源』(中央公論社)は、ヒトラーを戦争計画者ではなく機会主義者として捉えて、大論争を巻き起こした本であり、いつかは読まなければと思っているのだが、それにひきかえ本書の極端な教条主義的見方は一体何なのか。

とにかく、これは私には到底合わない本であった。皆さんはご自身でお確かめください。

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シュテファン・ツヴァイク 『メリー・スチュアート 上・下』 (新潮文庫)

エリザベス1世のライバルであったスコットランド女王の伝記。

私が読んだのは十数年前に記念復刊された新潮文庫だったが、みすず書房の訳本の方が手に入りやすいし読みやすいかもしれない。

スコットランド、イギリス、フランス、スペイン等の国際関係と宗教改革後の抗争が絡まりあった当時の情勢を詳しく知ることができる。

主人公自身はさほど魅力的な人物には思えなかったが、通読する価値はある。

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アンリ・トロワイヤ 『アレクサンドル一世』 (中公文庫)

またまた中公文庫ロシア皇帝シリーズ。

細かな史実を知るには興味深い本だが、やはり著者のロシア史観が気に食わないのは他の巻と同じである。

本書だけでなく他の本でも、この皇帝のイメージは若い頃自由主義思想に理解を示しながら、その後神秘主義思想に凝って反動化し半ば隠遁しながら死去した不可思議な人物というものらしい。

しかし私はフランス革命の意義自体疑っているし、ロシアも立憲君主国になるべきだったとしても、可能な限り慎重かつ漸進的に進めるべきであったと思うので、それを弁えない急進主義者は弾圧されて当然としか思えない。

まあ父のパーヴェル1世謀殺による即位、ナポレオンとの友好と敵対、パリ入城とウィーン会議の駆け引き等の細かな経緯を知るには役に立つし、面白い本ではあると思う。

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村松剛 『ジャンヌ・ダルク』 (中公新書)

世界史に興味の無い一般の人でも名前を知ってる超有名人の伝記。

聖人礼讃風でもなく、偶像破壊的でもないバランスの取れた叙述。

淡々と史実を紹介していく本なので、基礎的な知識を得るには非常に良い。

薄い、安い、読みやすいと三拍子揃った良書。

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薩摩秀登 『物語チェコの歴史』 (中公新書)

標準的なチェコの通史。平易な記述で読みやすい。

古代から近代まで適切なページ配分で、あくまで基礎的な史実を初心者が面白く読めるように叙述するという『物語~の歴史』シリーズの基本に忠実な作り。

このシリーズで、チェコくらいの中堅国家の続刊が楽しみである。

ポーランド・ハンガリー・ルーマニア・ブルガリア・タイ・カンボジア・インドネシア等々・・・・・。

ただ、書き手は十分に選んで、編集者がきちんと仕事をしてもらいたい。

20世紀以前はほんの付け足し、後は大して興味深くない時事解説のような文章が延々続くという、『物語イランの歴史』の無残な失敗は繰り返して欲しくないものである。

(追記)記事はある程度まとまった数を事前に書いておいて、毎日午前6時台に更新するように設定しているのですが、どうも最近そうならず、気付いた時手動で更新する事態が頻繁にあります。少し前に同じことがあったとき、何かの障害かと思って放置してしまい、結局2日分一度に更新したことがありました。困ったもんですが、フリーで使ってるのであまり文句も言えませんね。更新時刻が変動して申し訳ありませんが、一日一タイトルのペースはこれからしばらくは守りますので、宜しければ是非お越しください。

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青木道彦 『エリザベス1世』 (講談社現代新書)

著者は元河合塾の講師だったらしい。十数年前の私の受験時代、直接授業を受けたことはないが、名前は聞いたことがあった。(例の『世界史講義の実況中継』という有名な参考書を書いた青木氏とはまた別)

内容は満遍なくといった感じ。即位までの紆余曲折、イギリス絶対主義の権力構造、宗教政策、スペインとの最終対決に至る外交政策、16世紀イギリス社会の経済状況と重商主義政策、側近たちの肖像と、特に隙は無い。

良質な入門書として十分使える。

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アナトール・フランス 『神々は渇く』 (岩波文庫)

矢野暢氏の『衆愚の時代』という本でその存在を知る。(矢野氏は京大の東南アジア研究の中心人物だったが、セクハラで告訴されて謹慎後、ヨーロッパに倉皇と立ち去り、現地で死去。)

フランス革命時、正義感の強い善良な青年が、その純粋さゆえに急進革命派に加わり、偏狭で残忍な行為に手を染めてしまい、破滅していく様を描いた歴史小説。

寛容の重要性と政治闘争の空しさを教える、非常に印象的で美しい小説である。

しかし巻末の訳者解説で、著者の社会活動の進歩性を強調して本書の反革命の意図を強く否定するのは正直的外れに思えてシラける。

「本書を反革命の書として持ち上げてきたものに災いあれ!」ってあんたが呪われろって感じだ。

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高坂正堯 『大国日本の世渡り学』 (PHP文庫)

タイトルはえらい砕けた感じだが、中の議論は結構ハード。

歴史の教訓の真の汲み取り方について触れた後、日米経済摩擦・近隣諸国との外交について歴史的な見地から考察を行っている。

こういうビジネスマン向けの時事解説のような本でもさまざまな知識と知見を与えてくれるのだからさすがだなあと思う。

私がイギリスを訪れてもっともすばらしいと思い、羨ましくさえあるのは、優れた歴史書が実に豊富だということである。それは読んでいて面白く、かつさまざまな教訓を与えてくれる。日本の歴史書が概して無味乾燥であるか、教条主義であるのと対照的である。

・・・・その歴史だが、私はこれまで歴史の勉強にずいぶん時間を割いてきたし、そのために読んだ書物の大半はイギリス人によるものだった。それらは実にさまざまなことを教えてくれた。・・・・

・・・・これまでのいきさつが判らなければ現在が判らないというのは、歴史を学ぶ意義の最小限のものでしかない。それであれば、ギリシャ・ローマとか、古代の中国といった現在とかかわりのない、あるいは自分たちとかかわりのない歴史を学ぶ必要はなくなるのだが、そうした歴史の方がむしろ歴史を学ぶことの主流なのである。

その意義について、再び判りやすいことから始めるなら、歴史は人々を勇気づけ、反省させ、あるいはヒントを与える。たとえば、ドゴールはその晩年、「ひとつの時代の終わりを意識しながら生きるのは奇妙なことだ。こんなことはローマの末期以来なかった」と述べた。それは彼が終わりつつある文明を支えているのだという自負心をもち、それ故に毅然とし勇気をもって行動したことを示している。

もっとも歴史は危険なものでもある。そのことは歴史の法則にのっとっていると自称する人々や国々の歴史をみれば判る。・・・・その理由は、歴史は人間が語るものであることにある。実際、物語でない歴史は読むに堪えず、歴史でさえない。ところがその際、事実を抽象するという作業がなくてはならない。そうでなくては、さまざなま人間の相互作用が生み出す複雑な事態の展開を一冊の本にまとめられるわけがない。

しかし、人間はまったく同じ思い出話をやらないものである。「おじいさんの釣った魚は、おじいさんが話すたびに少しずつ成長する」という言葉が示すように、人間は同じ話をくり返すうちに、面白いように、あるいは自分に都合のよいように、いつの間にか話を変えていく性向をもっている。歴史という話についても同じことがいえる。しかしそうなってしまっては自分を相対化するどころか、その偏見を歴史によって強化することになってしまう。

その危険から自らを守るためには「事実」すなわち歴史上の細かい点について注意を払い、正確に記憶することが肝要である。実際イギリス人の書いた歴史はディテイル(細部)に注意が払われすぎている感さえある。たとえば、中世の武器の細かい点を長々と語られると、そうした気持ちになる。

しかし、それが大切なのである。細部を正確にしておくことは、話しているうちに物語を作り変えるのを防止するもっとも確かな方法だからである。たとえば、物価の変動の数字を知らなければ、話をくり返しているうちに、少々のインフレが大インフレになってしまうかも知れないが、数字を知っていればそれほど作り変えるわけにはいかない。また歴史は推理小説に似たところがあって、小さくみえる事実が全体を解明するカギとなることが少なくない。したがって、事実を正確に認識し、記録し、記憶しておくことは、まず現場をそのままの形で保存して、それを検証し、探偵が現実をそのままの形でよくみようとするのと同様重要なのである。推理小説はイギリスで生まれ、イギリス人の大いに好むところである。そしてイギリスの歴史家は、自分たちのやっていることを推理小説の探偵の仕事と同じだと誇らしげにいう。それが歴史家の原型であって託宣を下す神官や、正統書を渡す家元のようになっては、歴史はかえって人を誤らせるのである。

私のもう一人の先生である猪木正道先生はそのことを教えて下さった。先生は二言目には「事実」という言葉を口にされたが、事実、年号や統計やある官職についていた人名の記憶力は抜群であり、今なおそれは変わらない。私などはその点でときどき間違ったが、そのつど訂正された。それらは、一見ささいなことで全体の筋書きに関係がないようであっても、よく考えてみるとそこでの誤りが全体的判断の歪みに通ずることがしばしばあった。

日本では高校までの歴史教育において、物語ではなく、年号やら人名やら地名やらをやたら暗記させられるので、それへの反発から、そうしたものが軽視されがちで、歴史観といったものがとりわけて重視されるが、実は細かい事実に誠実でなければ歴史は危険な学問になってしまうのである。

この書物は、私が勉強し、研究したことをそのまま素直に書いたという性格のものである。一方では、現在の国際関係を研究し、なにがおこっているかを知り、そして将来について考えてみるのが、私の仕事である。それは仕事、もしくは勉強という言葉が妥当するように、骨が折れ、そう楽しくはないものである。現在おこっていることを知るのは案外難しい。いろいろなことが出たら目のようにおこっているようなところがあり、重要なできごとと思ったものが詰まらぬものとなったり、その逆のことがおこったりする。それに、われわれの生活に関係のあることだから、腹を立てたり、喜んだりするのを抑えるのも難しい。

しかし私の研究時間のほぼ半分は歴史の書物を読むことに費やされる。それは趣味といってよいほどの楽しさを含んでいる。直接かかわりがないから気楽だし、結果が判っているから物語も頭に入りやすい。それでいて、ときどき思いがけない発見があって、知的に興奮しもする。私はこの二つの作業を組み合わせて今日まで仕事をしてきた。

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