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桑原武夫 責任編集 『世界の歴史 10 フランス革命とナポレオン』 (中公文庫)

一冊まるごとフランス革命とナポレオン時代だけに充てられた巻。

豊富なエピソードと流暢な描写でなかなか読ませるのは他の巻と同じである。

しかし読んでいてこれほど苦痛を感じる巻もまた無かった。

革命諸党派の消長はそれらが基盤とする階級間の力関係だけから説明されうるというガチガチの階級闘争史観はともかく、本書の全体的な革命観にどうしようもない隔絶した距離を感じる。

著者たちによれば、革命は人類の進歩の一大道標であり大いなる祝福であって、以後200年に亘る西欧文明と人類の自殺未遂の始まりではない。

ロベスピエールは20世紀の全体主義独裁者の不吉な前兆ではなく、早く来すぎた解放者である。

聖なるもの、高貴なものを泥土に踏みにじる快感に酔った挙句、自ら独裁と貧窮の中で悶え苦しむこととなった知識人と民衆への醒めた視線は無い。

卑しく醜い集団暴力の犠牲となって筆舌に尽くしがたい苦悩を強いられた国王一家をはじめとする人々に対する同情も無い。

旧体制のフランスが王政の下で、法と慣習と信仰に支えられた秩序ある自由を徐々に実現しつつあったのではないかという懐疑も全く無い。

あるのは人間性への無邪気な楽観と社会の合理的再編成に対する浅薄な信仰、そしてその手段としての暴力の必要性に対する確信だけである。

時代を考えればやむを得ないし、もっと教条的な本もあるのだがら、本書だけ槍玉に挙げてもしょうがないとわかってはいるが、とにかく酷い。

個人的には間違いなく本シリーズのワースト1。

再文庫化されたらこの巻だけとばして読むことはしないだろうが、できれば二度と読みたくないという気持ちもある。

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