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ピエール・ガクソット 『フランス人の歴史 全3巻』 (みすず書房)

久々に本格的なものをご紹介できます。

これは相当読み応えありました。

王党派的信条を持った歴史家ガクソットによる太古から第五共和政成立までのフランス通史。

大学図書館で偶然手にして以来、そのユニークで卓抜した史書としての存在を知っており、読もうと思っていたのを最近ようやく通読する機会があった。

だが、いきなり序文で「まったく、多くのすばらしいフランス史が、いかにしてフランスができたかを知ろうとする大衆のもとめに応じて書かれてきたが、それらは結局のところ領土の歴史、国家の歴史でしかない。」と(私にとっては)不吉な一文が。

その文章の通り、全巻通じて社会史、文化史、経済史の記述は多い。

その手の叙述の中で、馴染みの薄い人名、地名がズラッと並べられている箇所も少なくない。

しかしそれらもごく自然に読み通すことができる。フランスの各時代の特色を示す事例として心に留め置くことに何の困難も感じない。

私のように政治史しかわからない偏った人間でもそう思えるのだから、普通の人にとっては非常な名著と言えるのではないだろうか。

フランスへの深い愛情を込めて、自国の統一と発展を称えつつ矯激な言葉遣いは避ける品位ある文体。

通常マイナスイメージで捉えられがちな事象についても、当時の人々の心情とその時実際に存在した他の可能性を深く吟味した上で慎重な評価を与えている。

著者が示す知性と叡智がそれを低次元の自国正当化などとは決して感じさせない。

訳者あとがきによると、ガクソットは本書において党派的感情に囚われることを極力避け、自己の信条を前面に押し出さないよう自制したがゆえにフランスでも高い評価を得たそうだが、それでも大革命以降の章を読むと著者の健全な懐疑精神は十二分に伝わってくる。

素晴らしい。読み通すと何とも言えない清々しさを覚える。歴史叙述という文芸ジャンルにおける傑作と言える。

アンドレ・モロワ『フランス史 上・下』(新潮文庫)と並んで、初学者が何度でも立ち返るべき基礎テキストとして是非とも手元に置いておくべき本。

こういう翻訳書を出しているみすず書房は何だかんだ言ってやはり偉い。

だが、本書が品切れで入手困難なのは残念と言うほか無い。

昭和25年に読売新聞社から出たという同著者の『フランス革命』と共に復刊してもらえないだろうか。

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