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三笠宮崇仁親王 『ここに歴史はじまる (大世界史1)』 (文芸春秋)

文春「大世界史」シリーズの古代オリエント史。

ごく平易な作りで読みやすい。

私のような初心者向き。

ただ紙数が少なめなので河出文庫版『古代オリエント』と比べるとやや物足りなく感じてしまう。

教科書で大まかな史実を掴んだ後読む本としては、河出版よりこちらを先に読んだ方がいいかもしれない。

なお本書は『文明のあけぼの』と改題されて集英社から2002年に再版されている。

まだ新刊として手に入るのは有難いのですが、値段はかなり高め。

他の「大世界史」シリーズのように講談社学術文庫に入ればより良かったんですが。

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川又一英 『イヴァン雷帝』 (新潮社)

トロワイヤ『イヴァン雷帝』(中公文庫)の記事で「いつか通読しよう」と書いたこれを読む機会があった。

なかなか良いです。

治世全般に亘って平易な表現でわかりやすく叙述されている。

イヴァン3世の子ヴァシリー3世の嫡子として生まれ、幼年で即位、成人後はカザン・アストラハン両汗国を征服し、最晩年にはイェルマークを派遣しシビル汗国も滅ぼすものの、バルト海への出口を求めてリトアニア・ポーランド王国およびスウェーデンと戦ったリヴォニア戦争では苦杯を舐め、オスマン・トルコを後ろ盾にしたクリミア汗国には一時モスクワにまで攻め込まれ首都が灰燼に帰す。

外交面での苦境を脱するため、白海沿岸にイギリス船が漂着したのを期に、英国との同盟締結を計り、エリザベス1世に結婚を申し込むが拒否される。

内政面では名門貴族の勢力を削ぎ、忠実な士族層(新参の勤務貴族)に土地を分与し、中央集権化を徹底させる。(ちなみにイヴァンの皇妃アナスタシアの実家ザハーリン家もそうした新参貴族で、この一族が後にロマノフ家と改名し、新たな王朝を築くことになる。)

記述テーマによって時系列が前後することが多く、そこだけがやや欠点と言えるが、全体的には瑕疵に過ぎないでしょう。

当時のロシアの基準からしても極端な専制君主制を志向し、親衛隊オプリチニキを手足として、大貴族を多数殺害しノヴゴロド市を壊滅させた暴君としての側面と、神を畏れ自らの使命を確信し晩年にはかつての弾圧政策の犠牲者の名誉回復を行った信心深い側面の両方をバランスよく記述している。

著者はあとがきでトロワイヤの『イヴァン雷帝』を「大仰な俗流小説表現が作品を文学から遠いものにしている」と評しているが、全く同感です。

トロワイヤの本より、こちらをお勧めします。

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増田義郎 『古代アステカ王国』 (中公新書)

同じ著者の『インカ帝国探検記』の姉妹編。

コルテスによるアステカ王国征服を叙述した作品。

上記の本と同じく非常に良い。

特異な史実の展開が極めて面白いだけでなく、歴史評価についてもバランスが取れている。

スペイン人征服者の狡猾・残忍・強欲・独善に触れる一方、必ずしもそうとは言えない一面にも言及している。

またアステカ族についても、「無垢な犠牲者」という面だけで捉えてはいない。

孤立した文明圏で暮らしてきたがゆえにやむを得ない側面があったとはいえ、彼らが奇怪で恐ろしい宗教観・宇宙観を持っており、それゆえ残忍な人身御供の風習を続けていたこと、領土拡張や貢納要求のためでなく生贄として虐殺するための捕虜を得るため近隣部族に戦争をしかけ、そのため大きな恨みをかっていたことなどにも触れている。

(それら近隣部族はコルテスの征服行為においてスペイン人の有力な同盟者となる。)

話の展開が非常に面白い。初心者向けの本としては最高。

中公新書の創刊まもない1963年初版という古さだが、今読んでも極めて興味深い本。

これも重版再開して常時手に入れられるようにしてもらいたいもんです。

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尾鍋輝彦 『最高の議会人 グラッドストン』 (清水書院)

この清水新書というシリーズは存在自体は知っていたのだが、「何かパッとしねえなあ」(失礼)と思えたのでこれまで手に取ったことは無かった。

しかしたまたま機会があったので、類書の少なそうなこれを読んでみた。

19世紀後半の英国で四度に亘って内閣を組織した大政治家の伝記。

ライバルのディズレーリと、ヴィクトリア女王に関してもかなりの紙数が費やされている。

内容はまあまあ。もうちょっと整理して書いてくれるとわかりやすかったかなといったところ。

一般的なイメージを崩されるような記述もあり、なかなか興味深い面もある。

是非にとは言いませんが、一度手にとってみてください。

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岸本通夫 他 『古代オリエント (世界の歴史2)』 (河出文庫)

読んでない本も多いとはいえ、これまで曲りなりにも400冊余り紹介してきて、オリエント史が専著でゼロとは酷いというか何というか・・・・・。

緊急補強のつもりで、気軽に手に入るこれを読みました。

なかなか良いです。

教科書の鶏ガラみたいな枠組みに、様々な史実や人物像やイメージを肉付けしていく上で、非常に有益。

文章が読みやすく、遅読もいいとこの私でもかなりのスピードで通読できた。

初心者向け入門書としてはかなり高得点。

オリエント史については高校教科書レベルの知識をうろ覚えしているだけという、私のような人間に適した本です。

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陳舜臣 『中国傑物伝』 (中公文庫)

以前、この人の本はあまり好きではないと書いたが、これはまあまあ良かった。

ややマイナーな人物を含む中国史伝記集。

歴史読物として良質な部類に入ると思う。

特に前漢の宣帝の話などは面白かった。

暇があればどうぞ。

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田中克彦 『草原の革命家たち』 (中公新書)

20世紀前半のモンゴル現代史。

駄目。異様に読みにくい。

初心者向きでは全く無い。

この分野もなかなかいい本が無いですね。

マイナー分野だからしょうがないんでしょうが。

同じ中公新書の磯野富士子『モンゴル革命』も基本書として手元に置きたいと思えるようなものではなかった。

穏当な歴史解釈で詳しい史実がわかりやすく叙述されたモンゴル史の本が欲しいところです。

(なお、これ以上カテゴリを作るのもアレなので、本書は「中国」カテゴリに入れました。)

(07年9月14日追記 「中国」からは外して、「中央アジア」のカテゴリに入れることにしました。)

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三田村泰助 『宦官』 (中公文庫)

宮崎市定氏の『科挙』と並んで中公文庫(両方とも元は中公新書だったのを文庫化)の中での中国社会史啓蒙書の超ロングセラー。

宦官制度の概略を記した後、その害毒が極めて大きかった漢・唐・明の三王朝について大まかな史実を叙述していく構成。

定評ある本だけに内容は手堅い。

すごく面白いということはないが、通読しても損は無い。

お勧めします。

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ルソー 『人間不平等起源論』 (岩波文庫)

また来ました、そもそも私が紹介する資格のない本です。

何卒ご容赦を。

本書についても覚えていることと言えば、文明社会の弊害の原因を私有財産制に求めるようなルソーの記述に、ヴォルテールが激昂して「これこそ貧者の暴力による富者の収奪を正当化するならず者の哲学だ」と書き付けたとか、ルソーへの手紙に「あなたの本を読むと、人は四本足で歩きたくなります」と記したとか、そんなことだけ。

もう十数年前に読んだきりですが、再読しようとは思いませんねえ。

あとルソーの本では岩波文庫『エミール』の上巻だけ読みましたが、何だかよくわからないまま適当に目を通しただけでした。

もっと平易な入門書として桑原武夫『ルソー』(岩波新書)はまあ読んでおいてもよかったと思いますが、それも強くお勧めはしません。

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ゴロウニン 『ロシア士官の見た徳川日本 続・日本俘虜実記』 (講談社学術文庫)

幕末明治の日本を訪れた欧米人の著書というのも、相当の数があって到底読みきれないほどだが、ごく粗く飛ばし読みした数点を除いて比較的しっかり読んだと言えるのは、恥ずかしながらこれだけである。

前半はレザノフの択捉攻撃の報復として日本に抑留されたゴロウニンによる手記。

後半はゴロウニン救出のために日本側と交渉しその目的を達した副長リコルドの回顧録。

この二者と高田屋嘉兵衛の話は司馬遼太郎の『菜の花の沖』で有名でしょう。(私は未読ですが)。

本書自体が非常に面白いものですので、機会があれば是非どうぞ。

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中西輝政 『大英帝国衰亡史』 (PHP文庫)

この人は、高坂正堯氏の弟子にしてはエキセントリックで煽動家じみた言動が目立ち、あまり好きな著者ではないのだが、本書は少々話題になった本だし文庫化されたのを期に買ってみた。

だがあまり面白いとも思わず、三分の一くらい読んだところで止める。

もう一度読もうという気も無いではないが、たとえ通読しても同じ歴史評論である高坂氏の『文明が衰亡するとき』(新潮社)などとは天と地ほどの差を感じると思う。

あまり積極的にはお勧めしません。

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松谷健二 『ヴァンダル興亡史』 (中公文庫)

古代末期のゲルマン国家についての歴史物語。

表現が平易で読みやすい文章であり、歴史好きの一般読者向けに適切なレベルと性向でなかなか良い。

エドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』の5、6巻あたりでも本書の内容は詳しく語られていますが、そう気軽に再読できる本ではないので、こういう本で知識の確認をするのもよいでしょう。

ギボンを読んだ印象では、このヴァンダル族という部族についてはあんまりいいイメージが無い。

同じくローマを占領・略奪したものの、のちに西帝国の同盟者となり、ともにアッティラと戦った西ゴート族や、ヨーロッパの古代から初期中世への移行を育んだフランク族に比べると、破壊的役割しか果たさなかった本当の蛮族といった感じ。

その王であるゲイゼリック(ガイセリック)についても、アラリック、クローヴィス、テオドリック大王など他のゲルマンの諸君主と比較すれば、粗暴・狡猾・残忍といった印象が強い。

著者の松谷氏によれば、そのようなイメージにはかなりの誇張と歪みがあるそうなのだが、本書を読了した上でも、私はやはりあまり好感を抱くことはできなかった。

しかし古典古代末期についての歴史モノとしてはかなり面白い。

この辺の歴史はかつてギボンを読んで胸躍らせたはずなのだが、ガイセリック以後のヴァンダル王の系譜などはまるっきり忘れていた。

さらにアヴィトゥスやら、マイオリアヌス(マヨリアヌス)やら、アンテミウスやらの西ローマ末期の皇帝についても名前をうろ覚えしているだけで、即位順や事績についてはほとんど頭に入っていなかった。

『衰亡史』を読み進めつつ、巻末の皇帝在位表も参照してかなり覚えたはずだったのだが、自分の記憶力の悪さを改めて思い知らされ、少々落ち込む。

それはともかく、ガイセリックに率いられスペインからアフリカに渡り、その地で広大な領土を得て建国し、東西両帝国・スペインの西ゴート・イタリアの東ゴートなどとの複雑な外交と抗争を経て、最終的に東帝国のユスティニアヌス1世が派遣した名将ベリサリウス率いる軍によって滅ぼされるまでのヴァンダル史が興味深く記されている。

初心者にもお勧めの良書。同じ著者で『東ゴート興亡史』『カルタゴ興亡史』も中公文庫から出ているので、それらも手にとってみると良いでしょう。

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植村清二 『万里の長城 中国小史』 (中公文庫)

著者は戦前の旧制高校での名教師として有名だったらしいが、私には良さがわからない。

本書もごく平凡な通史としか思えず、退屈に感じて最後まで読まなかった。

再読したら印象が変わるのかもしれないが、今のところ強いて読み返す気になれない。

機会があればどうぞとだけ言っておきます。

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浅田實 『東インド会社』 (講談社現代新書)

最初、永積昭『オランダ東インド会社』(講談社学術文庫)を読もうと思ったのだが、やや煩瑣で私には程度が高い気がしたので、ごく簡略な本書を選んだ。

こちらはイギリスの東インド会社を主に扱った平易な通史。

1600年にイギリスの会社が、1602年にオランダの会社が設立されたというのは教科書レベルの知識だが、17世紀前半においてはアジア貿易においてオランダ会社が圧倒的優位を占めていた。

イギリス会社が一回もしくは数回の航海ごとに元本をも分配する当座的性格の組織だったのに対して、オランダ会社は株主の有限責任性と永続的会社組織によりイギリスの十倍以上の資本金を集めた、史上初の近代的株式会社として繁栄する。

当時の主要輸入品である胡椒、チョウジ(クローブ)、ニクズク(ナツメグ)などのスパイス貿易を支配したオランダは1623年アンボイナ事件でインドネシア方面からイギリス勢力を排除する。

その後ピューリタン革命を経て、1657年クロムウェルが東インド会社を永続的組織として改組する。元本・利益双方を分配する方式を止め、利益のみを株主に分ける本来の配当制を実施。また航海条令と英蘭戦争によって、オランダのアジア貿易支配を覆す試みが始まる。

復古王政期になると経済の高度成長に支えられ、イギリス会社も躍進を続けオランダを徐々に追い越していく。

この頃から輸入における香辛料の比重が下がり、インド綿織物製品(キャラコ)が多く輸入されるようになり、さらに18世紀になると茶が主要品となる。

第二次、第三次英蘭戦争でオランダを叩き潰したイギリス会社は大いに繁栄し、大株主兼会社総裁のジョサイア・チャイルドなどは今で言うインサイダー取引で巨万の富を得る。

名誉革命後、それに対して批判が集まり、1698年「新東インド会社」が設立される。

新旧両会社の対立と妥協の末、結局1709年両者が合併して「合同東インド会社」が成立。これが百数十年後解散に至るまで存続した会社の本体となる。

なお途中の2章で脱線が入り、東インド会社のライバルが出来かけた、18世紀イギリスのバブル経済崩壊とも言える「南海泡沫会社」事件が扱われる。

1757年プラッシーの戦いに勝利し、会社はベンガル・ビハール・オリッサの徴税権を取得する。これは名目上のムガル朝地方太守は存在するが、無力な年金受領者となって実質的統治は会社に握られるという奇妙な状態である。

以後会社はクライヴ、ヘースティングスなど優れた指導者の働きもあり、支配領域を拡大していき、植民地統治組織としての性格を強める。

それにつれて政府の会社に対する規制・監督・統制が徐々に強められていく。

またそもそもアジア貿易において輸出に関してはイギリスの主要産品である毛織物が売れず、銀が流出する一方だったのが、インドからの徴税を支払いに当てたり、産業革命によって大量生産された綿織物製品を輸出しインドのキャラコ産業を壊滅させ、後にはアヘンを輸出して賄うようになっていく。

1813年には会社の貿易独占権が(中国地域を除いて)廃止され、1833年には形骸化していた中国貿易独占権も廃止となり、遂に商業活動自体を停止する。

そして1857年セポイの反乱勃発の責任を問われ、翌年会社は解散され、インドは政府の直接統治下に入る。

以上高校教科書に出ているような史実も含めて、ごく平易に書かれており、非常に読みやすい。

驚くほど面白いという本でもないが、読んでも損はないです。

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フランシス・ベーコン 『ノヴム・オルガヌム』 (岩波文庫)

当ブログではネタに詰まると忘れたころにやってくる、この種の古典的著作。

いつもの通り、以前一応読みましたということ以外書くことが無いです。

まあ高校の倫理の時間に習った「洞窟のイドラ」とか「市場のイドラ」とかの事項について、ああこれがそうかと確認できるくらいには読めました。

これがデカルト『方法序説・情念論』(中公文庫)になると本当に字面を追うのが精一杯になった。

私の頭ではこういう本を読んで面白いと感じる能力が無いです。

残念ではありますが、まあ無理して読んでも身に付かないでしょうし、しょうがないですね。

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吉田茂 『回想十年 全4巻』 (中公文庫)

前日の記事で、日本の外交官の著書としてなぜこれを挙げないのかと不思議に思われた方もおられるかもしれない。

実は私自身1巻しか読んでおらず、あんまり積極的にはお勧めしたくない。

高坂正堯『宰相吉田茂』(中央公論社)を読んで以来、本書も是非読みたいと思っていたのだが、古書店でもなかなか見つからず、あっても極めて高価だったので買えなかった。

そのうちに中公文庫に収録され、「さすが中公の選択はずば抜けて素晴らしい」と感激して読み始めたのだが、どうも面白くない。

何というか、うまく言えないが密度が薄いというか、読んでもしっかりと史実が頭に入ってくるような本ではない気がする。

ただしこれはあくまで私の感想ですので、割り引いてお受け取り下さい。

皆様には図書館での内容ご確認をお勧め致します。

(ちなみに猪木正道『評伝吉田茂 全4巻』(ちくま学芸文庫)はいつものパターンで買ったままほとんど読まないうちに古本屋行きになりました。よってこれに関しても何も言えません。機会があればお手に取って下さいというだけです。)

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重光葵 『昭和の動乱 上・下』 (中公文庫)

日本外交の系譜を陸奥幣原来栖石射と辿ってきましたが、今度は重光の番です。

と言っても個人的体験に引き付けた回想録という性質は希薄で、ごく一般的な概説的史書の体裁。

満州事変勃発から戦艦ミズーリ艦上での降伏文書調印までの昭和史。

回顧録としては予想外れなのですが、昭和外交史概説としては非常に有益。

文章が極めて読みやすく、日本の軍閥勢力の消長、ヨーロッパとアジアの情勢の絡み合い、当時の為政者が置かれていた状況と為した決断、およびその後の出来事との因果関係が初心者にもわかりやすく叙述されている。

また基本的に内閣別の章立てになっており、日本内政の勉強にもなる。

これは良い。

ありきたりの退屈な日本外交史の教科書を読むくらいなら、本書を読んだ方が遥かにいい。

(なお同じような意味でお勧めは野田宣雄『ヒトラーの時代 上・下』(講談社学術文庫)。各国の指導者がどんな意図から何を政策決定の基準にしたのかが明快に説明されており、教科書で大まかな史実を把握しているだけの人間[つまり私]が読むと目から鱗が落ちます。)

未読の方には強くお勧めします。

さて、外交官の回顧録であと読むべきなのは東郷茂徳『時代の一面』(中公文庫)ですかね。

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望田幸男 『ナチス追及』 (講談社現代新書)

楽に読めたが、あまり面白くなかった。

内容的には平凡。

特筆すべき点は無し。

興味のある方だけどうぞ。

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カント 『永遠平和のために』 (岩波文庫)

カント哲学などは私の理解可能範囲を遥かに超えるものなので全く読めないのだが、これは高坂正堯『国際政治』(中公新書)の参考文献でもあるので、国際政治学の古典として読んだ。

この手の本にしては比較的楽に読めます。

特にカントが平和的国家の条件として挙げる「共和政体」を、民主政とは厳密に区別している点が非常に示唆的で面白かった。

世界史初学者にとって必読とは到底言えませんが、それなりに興味深い本ですので機会があればどうぞ。

(以下『林健太郎著作集 第3巻 ドイツの歴史と文化』「ドイツ市民精神」より)

・・・・同様の思想を、彼[カント]は『永遠平和のために』・・・・においては「各国家における市民的憲法は共和的ならざるべからず」なる言葉を以て表わしている。しかしながら、このような彼の言葉から直ちに彼を普通の意味における「共和主義者」と考えることは全く正しくない。

即ち彼によれば、共和制とは決して国家の最高権力を有する人員の数によって決定されるものではなくて全くその「統治の形式」によって定まるものであり「共和政体とは執行権を立法権より分離する所の国家原理」に外ならないのである。而して国家の支配者が「君主であるか貴族であるか又は全人民即ち民主的連合であるかはどうでもよい」(『法律哲学』)のであるが、しかも彼は所謂民主政治を、多数の者が少数の者を圧迫し、乃至は全員ならぬ全員が議決し得るが故に専制政治に外ならないとなし(『永遠平和のために』)更には「人間は一つの動物であって、それは同種族に属する他の者の中に住む時は一箇の君主を必要とする」(『一般歴史考』)と言っている。

そして又「実践的意図においては、最高権力の根元はこれに従属する人民にとって探究すべからざるもの」であって、「国家における支配者は臣民に対して権利のみを有して何等の(強制的)義務を負わない。」あるいは「人民にとっては決して暴動の権利はなく、ましてや個別的人格者(王)としての彼に対してその権力の誤用を口実としてなす彼の人格あるいはむしろ彼の生命に対する冒瀆の権利の如きは全然存しない。」あるいは又「(誤った)国家組織の変更は時には必要とされるであろうが―――それはただ統治者自身によって改革を通じて遂行され得るものであって、人民によって従って革命を通じて遂行され得ない」という見解も亦、同じ『法律哲学』の中で彼が固く持するところである。

(このように立憲君主主義と啓蒙専制主義の支持者であったはずのカントは、ルイ16世処刑とジャコバン恐怖政治によってドイツの革命同情者のほとんどがその反対者に変わったときにおいても革命支持を基本的には止めなかった。それについて林氏は「これは彼自身の市民性が如何に強烈であったかを物語ると同時に、又彼の学説自身の弱さを示すものと言い得るであろう」と記している。)

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アンドレ・クロー 『スレイマン大帝とその時代』 (法政大学出版局)

これも外国人著者の世界史本の翻訳なので有難がるという間違った考えから買った本。

全く読めないというわけでもなかったが、やはり初心者には詳細すぎる。

基礎がしっかり身に付いた人でないと役に立たない。

これを読む前にオスマン帝国に関する啓蒙書をいくつか読むべき。

あまりお勧めしません。

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斉藤勉 『スターリン秘録』 (扶桑社)

あんまり面白くないです。

取り上げられているエピソードも別の本で読んだことのあるものがほとんどで、あまり興味をそそられない。

スターリン伝としては以前記事にしたロバート・コンクェスト『スターリン ユーラシアの亡霊』(時事通信社)が一番良いと思うので、それに加えて本書は特に読む必要は無いと思う。

アイザック・ドイッチャー『スターリン 政治的伝記』(みすず書房)は一種の古典ですから私もいつかは通読した方がいいのかなと思ってますが。

産経新聞で連載していたこのシリーズではやはり『毛沢東秘録』がずば抜けて面白い。

それから大分落ちて『ルーズヴェルト秘録』となり、本書はそれよりさらに落ちます。

特にはお勧めしません。

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ヴェルナー・マーザー 『現代ドイツ史入門』 (講談社現代新書)

著名な歴史家の書き下ろし作。

敗戦・分断から再統一までのドイツ史。

著者のネームバリューは十分だと思うが、紙数が足りないせいか簡略すぎる。

網羅性は著しく低く、読み通しても初心者にとってあまり役に立つ感じはしなかった。

ベルリンの壁崩壊から再統一の過程は詳しいが、個人的には時事的話題に属するそれらの事実より、1950~70年代の史実を詳しく説明してもらいたかった。

あんまり強くお勧めできる本じゃないですね。

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ロバート・サウジー 『ネルソン提督伝』 (原書房)

恐縮ですが、本日もまた「買っただけで未読の本のタイトルを挙げてとりあえず更新する記事」です。

好きな部類に入る歴史的人物の伝記ではあるんですが、初心者には詳し過ぎる。

古典的著作であり、その分書かれた年代が古いので、読みにくい。

読み始めて早々にギブアップしました。

これは再挑戦する気がなかなか起きませんね。

皆様は図書館で難易度をご確認の上、買うかどうかお決めください。

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増田義郎 『インカ帝国探検記』 (中公文庫)

フランシスコ・ピサロによるインカ帝国征服を叙述した本。

コンパクトにまとまっていながら、なおかつ内容は濃い。

インカ帝国史の概略からピサロの探検と遭遇、皇帝アタワルパを虜囚にした後の首都クスコ占領、インカの反乱と少人数ゆえのスペイン人の苦戦、征服者内部の対立と紛争およびインカ残存勢力との目まぐるしい妥協・対立、トゥパク・アマルを首長とするインカ勢力の最後の反乱とその鎮圧までが詳しく記述されている。

総合的に見て、これは非常に良いです。

史実の細かな経緯自体が興味深いだけでなく、評価のバランスも取れている。

スペイン人征服者の暴虐にももちろん触れているが、時にはそれと相反する事実も書き留めているし、インカ人を全く悪意の無い、無垢なユートピアに暮らしていた人々であるといった単純化された捉え方もしていない。

行間に侵略者への憎悪を漲らせて、終始糾弾口調で記された歴史はどうも読む気にならないので、個人的にはこのくらいの叙述がちょうど良かった。

本書のように淡々と史実を記した上で、結果としてスペイン人との遭遇は先住民にとって大きな悲劇をもたらしたと評価するのなら素直に受け入れられる。

同じ著者の『古代アステカ王国』(中公新書)も読みたくなった。ただ『メキシコ革命』(中公新書)はパラパラ見たところ、是非通読したいとは思えない出来でした。

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ジョン・トーランド 『アドルフ・ヒトラー 全4巻』 (集英社文庫)

すみません、半分も読んでいません。

第1巻だけ買って、その半ばくらいまで読み進んだところで面倒くさくなって放り出しました。

記述はかなり詳細で通読すればそれなりに役に立つでしょうが、初心者には冗長と感じられる。

初学者が何より優先して読むべきヒトラー関連本はハフナー『ヒトラーとは何か』(草思社)だと思うので、まずこれをどうぞ。

その他のヒトラー伝としてはアラン・バロック『アドルフ・ヒトラー 1・2』(みすず書房)、ヴェルナー・マーザー『ヒトラー』(紀伊国屋書店)、ヨアヒム・フェスト『ヒトラー 上・下』(河出書房新社)などが古典的地位を保っているんでしょうが、恥ずかしながら私はいずれも未読です。

ついでに読んでない関連本を並べさせて頂くと、ウィリアム・シャイラー『第三帝国の興亡 全5巻』(東京創元社)もすでに古典的著作ですが、これはどうもプロイセン的伝統とナチズムの関係をごく短絡的に捉えた本らしく、個人的にはあまり挑戦しようという意欲が湧きません。

比較的最近出たもので、イェッケル『ヒトラーの世界観』(南窓社)はハフナーの本にもちょっと名前が出ていて、図書館でパラパラと見たところ中々面白そうでしたのでいつかは通読したいです。

あとグイド・クノップ『ヒトラーの共犯者 12人の側近たち 上・下』、同『ヒトラーの戦士たち 6人の将帥』(ともに原書房)も比較的面白そうでした。

『ヒトラーのテーブルトーク 上・下』(三交社)は戦時中のヒトラーの側近との会話記録を戦後本にしたもので、飛ばし読みしたところ非常に興味深いです。少々高いので買う必要は無いかもしれませんが、一度借りてみて下さい。

以上挙げた書物のうち、死ぬまでに実際読めるのは何冊なのか心もとないですが、なるべく努力することにします。

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高坂正堯 『日本存亡のとき』 (講談社)

1992年自民党単独政権崩壊直前に書かれた政治評論。

終結して間もない冷戦の意味付けとその後の世界情勢、ヨーロッパ・アジア・アメリカの地域情勢、日本政治の展望など。

いつもながら平易で明快な文体だが、内容は含蓄があり現代史理解のために非常に有益。

高坂氏はどんな場合にでも冷静な言葉遣いを忘れない人だったが、本書では珍しく日本の近未来についての危機意識に溢れていることにやや驚かされる。

90年代初頭、湾岸戦争をはじめとする事態への日本の内向きで独善的な態度に、高坂氏がどれほど深い懸念を抱いていたかがよくわかる。

それから十数年経って、亡くなられた高坂氏が今の日本を見たとすればどう思われるのだろうか。

何とか危機を乗り切り曲がりなりにも最悪の事態だけは免れたと安堵されるのか、それとも引き返しようもない衰退の過程に入った日本を静かな諦観をもって眺められるのだろうか。

高坂氏の手をあれほど煩わせた左派勢力がありとあらゆる愚行と醜態の挙句自業自得の衰退を迎えたことは事実だが、だからといって氏が最近の粗野・奇矯で似非伝統的な右派的ポピュリズムに同意するはずもない。

何度も書いてますが、多事多難の現在、高坂氏の発言を聞くことができないことが残念でなりません。

今生きておられたら73歳ですから、まだまだ現役で新聞・雑誌で健筆を振るわれても少しも不思議ではありません。

本当に惜しい方を亡くしました。重ね重ねご冥福をお祈り致します。

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礪波護 『馮道』 (中公文庫)

唐滅亡後の動乱時代に五代各王朝のうち後梁を除く後唐・後晋・後漢・後周に仕えた文民官僚で、後世変節漢扱いされた人物を再評価した伝記。

高校世界史で名前の出る人物ではなく、個人的にさほどの興味も無かったので、私はこれを五代史の概説として読んだ。

あまり主人公の経歴に密着した作品ではなく、時代背景に紙数を費やしており、五代の政治史としてはかなり詳細で役に立つ。

手堅く内容の濃い良書。お勧めします。

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高山博 『中世シチリア王国』 (講談社現代新書)

ノルマンディー、ノヴゴロド、イングランドとともに第二次民族大移動の中でノルマン人が勢力を得た地域である南イタリア・シチリア王国を扱った本。

この両シチリア王国はラテン・カトリック、ビザンツ・東方正教、アラブ・イスラムの三文明が混交した特異な地域であるとともに、中世においては異例なほど官僚制が整備され中央集権化が進んでいた国として一般には著名なようだ。

ノルマンディー出身のオートヴィル家が本書の主役であり、まず稀代の奸雄ロベルトゥス・グイスカルドゥス(ロベール・ギスカール)が南イタリアに強大な基盤を築く。

叙任権闘争の最中の教皇グレゴリウス7世と提携し巧みな交渉によって自らの勢力を認めさせたあと、ビザンツ帝国征服をも企み、バルカン西部の帝国領を荒らしまわる。

その子のボヘモンドゥス(ボヘモン)はゴドフロワ・ド・ブイヨン、トゥールーズ伯レーモンと並んで第一回十字軍の主要参加者で初代アンティオキア公となる。

(ギスカール、ボヘモン父子についてはギボン『ローマ帝国衰亡史』9巻に詳しい記述あり。)

ギスカール死後、ボヘモンと異母兄弟の相続争いなどがあり、ノルマン人勢力の指導権はギスカールの弟ロゲリウス(ルッジェーロ)1世に移る。

彼は10世紀以後ビザンツからイスラム支配下になっていたシチリア島を内紛を利用して奪取し、首都パレルモを中心とした豊かで強力な領地となすことに成功。

後を継いだ子のルッジェーロ2世は半島部の領域も併せ、王号を手に入れ初代シチリア国王に即位するとともに北アフリカにまで遠征を行い、トリポリ・チュニスなどを奪取し、広大な領域を治める君主として地中海に君臨する。

ルッジェーロ2世の子ウィレルムス(グリエルモ)1世、孫のウィレルムス2世の治世は続発する反乱に悩まされながらも王国の統一を保持し、独特の文化と広範な貿易で繁栄を維持する(ただし北アフリカの領土はムワッヒド朝に奪われる)。

だがウィレルムス2世死後継承争いが起こり、結局ウィレルムス1世の妹で2世にとって叔母にあたるコンスタンティアが神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世(フリードリヒ1世バルバロッサの子)と結婚していた縁で、シチリアはドイツ・シュタウフェン家の統治下に入ることとなる。

ハインリヒとコンスタンティアの息子である皇帝フリードリヒ2世の治世で本書は幕を閉じる。

紙数の都合もあっただろうが、できればフリードリヒ死後のシュタウフェン朝断絶、フランス・アンジュー家およびスペイン・アラゴン家の統治にまで筆を進めてもらいたかった。

それが残念ではあるが、新書版の啓蒙書としてはかなり良い部類に入ると思う。

教科書でごく簡略に触れられているだけの史実の細部が興味深く記され、断片的な知識が組み合わさって一つの物語が成り立っていく過程の快感が味わえる。

私にとってはそれが歴史を学ぶ醍醐味である。

本書はものすごく面白いわけではないが、以上の楽しみを平均以上で与えてくれる良書と言えます。

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寺田隆信 『永楽帝』 (中公文庫)

極めて標準的で読みやすい入門書。

明帝国の建国から、帝位簒奪、モンゴル親征、鄭和の南海遠征、ティムールとの対立、足利義満時代の日本との交流、ヴェトナム出兵、『永楽大典』などの文化事業と、治世の全般に亘ってわかりやすく丁寧に解説されている。

系図や地図が的確な箇所に付されているのも実に親切。

中公文庫にはこういう良質な伝記作品が多く収録されていて非常に良い。

世界史愛好者の端くれとして、あらゆる文庫・新書シリーズのなかで私は中公が一番好きである。

ただ、聞くところによると1993年辺りまで中公文庫は基本的に品切れを出さず、刊行した本はすべて在庫を持ち続ける方針だったそうで、それを知ると今と比較してため息が出る。

時代の流れだから、そういうごく良心的な仕方を続けられなかったのもしょうがないでしょうね。

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福沢諭吉 『文明論之概略』 (ワイド版岩波文庫)

福沢がギゾー『ヨーロッパ文明史』やバックル『英国文明史』などを換骨奪胎し、日本の独立に資する世論を喚起するために明治八年(1875年)刊行した史的文明論。

表記はさほど難しくなく、私でも楽に読めました。

主旨は退嬰的な旧道徳や上滑りの精神論、硬直した国体論を批判するものなのだが、個人的にはそれ以外の、進歩的啓蒙家の枠組みに入りきらない部分の主張がむしろ面白かった。

『学問のすゝめ』や『福翁自伝』を読んだことのない人(私も含む)でも、これは面白く読めると思いますので、ご一読をお勧めします。

・・・・事物の利害を論ずるに、その極度と極度を持出して議論の始より相別れ、双方互いに近づくべからざることあり。

その一例を挙げていわん。今、人民同権の新説を述る者あれば、古風家の人はこれを聞て忽(たちま)ち合衆政治の論と視做し、今、我日本にて合衆政治の論を主張せば我国体を如何せんといい、遂には不測の禍あらんといい、その心配の模様はあたかも今に無君無政の大乱に陥らんとしてこれを恐怖するものの如く、議論の始より未来の未来を想像して、いまだ同権の何物たるを糺さず、その趣旨のある所を問わず、ひたすらこれを拒むのみ。

また彼の新説家も始より古風家を敵の如く思い、無理を犯して旧説を排せんとし、遂に敵対を勢を為して議論の相合うことなし。畢竟双方より極度と極度を持出すゆえこの不都合を生ずるなり。

都(すべ)て世の政府は、ただ便利のために設けたるものなり。国の文明に便利なるものなれば、政府の体裁は立君にても共和にても、その名を問わずしてその実を取るべし。

開闢の時より今日に至るまで、世界にて試たる政府の体裁には、立君独裁あり、立君定律あり、貴族合議あり、民庶合議あれども、ただその体裁のみを見て何れを便と為し何れを不便と為すべからず。ただ一方に偏せざるを緊要とするのみ。

立君必ず不便ならず、共和政治も必ず良ならず。千八百四十八年、仏蘭西の共和政治は公平の名あれどその実は惨刻なり。墺地利(オーストリヤ)にて第二世フランシスの時代には独裁の政府にて寛大の実あり。

今の亜米利加の合衆政治は支那の政府よりも良からんといえども、メキシコの共和政は英国立君の政に及ばざること遠し。故に墺地利、英国の政を良とするも、これがために支那の風を慕うべからず。亜米利加の合衆政治を悦ぶも、仏蘭西、メキシコの例に倣うべからず。

政はその実に就いて見るべし、その名のみを聞きてこれを評すべからず。政府の体裁は必ずしも一様なるべからざるが故に、その議論に当(あたり)ては、学者宜しく心を寛にして、一方に僻すること勿(なか)るべし。名を争うて実を害するは、古今にその例少なからず。

前の論に従えば、立君の政治はこれを変革して可なり。然ば則ちこれを変革して合衆政治を取り、この政治を以て至善の止まる所とするか。いわく、決して然らず。

・・・・・合衆政治は人民合衆して暴を行うべし、その暴行の寛厳は、立君独裁の暴行に異ならずといえども、ただ一人の意に出るものと、衆人の手に成るものと、その趣を異にするのみ。

・・・・・立君の政治には、政府の威を以て人民を窘(くるしむ)るの弊あり。合衆の政治には、人民の説を以て政府を煩わすの患(うれい)あり。

故に政府、あるいはその煩わしきに堪えざれば、乃ち兵力に依頼して遂に大に禍を招くことあり。合衆政治に限りて兵乱少なしというべからず。

近くは千八百六十一年、売奴の議論よりして合衆国の南北に党類を分ち、百万の市民忽(たちま)ち兇器を取て、古来未曾有の大戦争を開き、兄弟相屠り同類相残(そこな)い、内乱四年の間に、財を費し人を失うこと殆どその数を計るべからず。

元とこの戦争の起る源因は、国内上流の士君子、売奴の旧悪習を悪(にく)み、天理人道を唱えて事件に及びしことにて、人間界の一美談と称すべしといえども、その事一度び起れば、事の枝末にまた枝末を生じ、理と利と相混じ、道と慾と相乱れ、遂には本趣意のある所を知るべからずして、その事跡に現われたるものを見れば、必竟自由国の人民、相互に権威を貪り、その私を逞(たくまし)うせんと欲するより外ならず。

その状、あたかも天上の楽園に群鬼の闘うが如くなり。もし地下の先人をして知ることあらしめなば、今この衆鬼子の戦うを見てこれを何とかいわん。戦死の輩も黄泉に赴くといえども、先人を見るに顔色なかるべし。

(アメリカ南北戦争を奴隷制度破棄と国家再統一のための混じり気の無い正義の戦いと見做さずに、民主共和政と言論の自由が齎し得る恐るべき破局と捉えた福沢の視線が私には非常に新鮮に思える。なおこういう歴史認識と人種・性・民族コミュニティに関する現在のアメリカ国内の文化戦争については、パトリック・ブキャナン『病むアメリカ、滅びゆく西洋』(成甲書房)が面白かったので名を挙げておきます。この本も多くの人にとっては「迷著」なんでしょうが、私にはかなりの程度名著に思える。)

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