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川上源太郎 『ソレルのドレフュス事件』 (中公新書)

『暴力論』の著者ジョルジュ・ソレルの目を通して見たドレフュス事件を描いた書物。

事件そのものの叙述は前半部のみで、後半はソレルの思想の解説。

ドレフュス事件は、反動勢力(政府、議会、裁判所、軍部)の悪行に対する正義(新聞、知識人、世論)の勝利といえるのか。ここに露呈したのは、公的原理と秩序が崩壊したなかで孤立化し浮遊化した中産階級の「モッブ」化現象であり、それに追随する、政治の理念を失った議会・政治家の堕落現象ではないか。「危険の思想家」ソレルが見透し批判したものこそ、この民主主義のもたらす危機であり、信仰と道徳を失った知識人の頽廃であった。

というカバーの紹介文が本書のスタンスをよく言い表している。

本書においてもドレフュスの無実が疑われているわけでは決して無い。

しかし、事件のごく初期にドレフュスを救うために行動した極少数の人を除いて、ゾラやジャン・ジョレスなど政治的思惑や隠された自己顕示欲から「ドレフュス派」になった人々に対するソレルと著者の視線は、ドレフュスを冤罪に陥れた人々とそれを熱狂的に支持した民衆に対するのと同じく、極めて冷ややかである。

ドレフュス断罪派も擁護派も共に上記の大衆民主主義という同じ根から生じた派生物に過ぎないと見做される。

後半のソレルの思想遍歴に関しては、私の頭では少々理解しにくい部分もあったが、それでも現代にも通ずる透徹した論理を感じるところがあった。

有名な史実の事実関係を知るために有益なだけでなく、その解釈についても極めて斬新で鋭い見方がなされており、全く退屈しない。

読んでいて極めて意義深い文章に出会って、一時ページを閉じて深く黙考したくなることがかなりあった。

本当に素晴らしい。是非とも読むべき本だと思われる。

これだけ何の留保も無しに絶賛できる本も久しぶりである。

是非ご一読をお勧め致します。

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