« 萩原宜之 『ラーマンとマハティール (現代アジアの肖像14)』 (岩波書店) | トップページ | 山口修 『読んで役立つ 中国史55話』 (山川出版社) »

チャールズ・ウィルスン 『オランダ共和国』 (平凡社)

単独のカテゴリを立てながら、一向に増える気配の無いオランダ史に何とか追加するためという、少々妙な動機でこれを読みました。

「オランダ」というカテゴリ名をやめて「ベネルクス」にしようかとも考えましたが、その場合果たしてこの先ベルギー史やルクセンブルク史の本を読むことがあるのかという問題があります。

カテゴリ自体無くしてしまって、「ヨーロッパ」にでも放り込もうかと思ったんですが、近世以降の覇権国を並べると、16世紀スペイン→17世紀前半オランダ→17世紀後半フランス→18世紀イギリス→19世紀イギリス→20世紀アメリカとなるでしょうから、いややはり重要な国なんだろうと思い直してそのまま存続させます。

17世紀を中心にしたオランダ史概説。

年代順に政治史的記述を積み重ねる本ではなく、経済・社会・文化に重点を置いてテーマごとに論じていく。

どちらかと言えば私にとって苦手なタイプの本。

基礎的な通史的知識は岡崎久彦『繁栄と衰退と』(文春文庫)で押さえておく必要がある。(この本は物語として非常に面白いので是非お勧めします。)

しかしごく大まかな傾向とイメージだけ読み取ろうと割り切るとそれなりに有益。

(美術・建築関係の文化史の章はさすがに読み飛ばしたが。)

読んでる途中で、この書名はどこかで見た覚えがあるなあと思って調べたら、高坂正堯『文明が衰亡するとき』(新潮社)に参考文献として名が挙げられていた。

そこで、「すぐれた概説書である」と評価されてるから、やはりいい本ではあるんでしょう。

機会があればお読み下さい。

以下、一応高校世界史の範囲内でありながら、何度読んでも忘れる英蘭戦争とルイ14世の征服戦争関連の史実と年代を私的にメモしておきます。

1651年 航海条令(英クロムウェル政権)

1652~54年 第1次英蘭戦争

1659年 ピレネー条約(仏、アルトワ、ルシヨン併合)

1660年 イギリス王政復古

1661年 ルイ14世親政

1664年 英、ニューアムステルダム奪取、ニューヨークと改名

1665~67年 第2次英蘭戦争

1667~68年 南ネーデルラント継承戦争

1668年 アーヘンの和約(仏、リール併合)

1672~74年 第3次英蘭戦争

1672~78年 オランダ戦争

1678年 ナイメーヘン条約(仏、フランシュ・コンテ、カンブレー等併合)

1681年 仏、ストラスブール併合

1688年 名誉革命 オランダ総督ウィレム、ウィリアム3世として英国王に即位

1688~97年 ファルツ継承戦争(アウグスブルク同盟戦争・植民地ではウィリアム王戦争)

1697年 ライスワイク条約(仏、アルザスの未獲得部分併合)

1701~13年 スペイン継承戦争(植民地では02年からアン女王戦争)

1713年 ユトレヒト条約(英、ジブラルタル・ミノルカ島・ハドソン湾地方・ニューファンドランド・アカディア併合)

1714年 ラシュタット条約(墺、南ネーデルラント・ミラノ・ナポリ・サルデーニャ島領有)

上の第3次英蘭戦争とルイ14世のオランダ戦争が重なった時期に英仏両国を敵にまわしてオランダは亡国の危機に陥るが、しばらくして名誉革命という「奇跡」が起こり、以後英蘭が同盟関係に入り、仏に対抗する形勢となる。

1659年のピレネー条約は、高校世界史範囲外だが、三十年戦争中から続いていたフランス・スペイン間戦争の講和条約。

アルトワは東北国境ベルギー近くの土地で、ルシヨンは西南部仏西国境の一地方。

スペイン継承戦争でオーストリア・ハプスブルク家領有となったナポリと、サヴォイ領からハプスブルク領になったシチリアから成る両シチリア王国がブルボン家の領土となった経緯およびフランスのロレーヌ併合については、『ポーランド民族の歴史』の記事の真ん中あたりを参照。

なお、高校世界史では四回にわたる「ルイ14世の侵略戦争」は「若干の領土を得ただけで成果無く終わった」と断定的に評価されているが、以上を見ると東部国境でかなりの領土を拡張している。

この部分は吉川弘文館の『世界史年表・地図』の中の「フランスの東部発展」という歴史地図を参照。(こういう詳しい図は普通の高校副読本では載ってないかもしれない。それがこの吉川弘文館のものを推奨する理由の一つ。)

例えばリールというのは、確かシャルル・ド・ゴールの出身地のはず。

ここを併合しなければ20世紀フランスの危機におけるド・ゴール将軍の出現もあり得なかったことを思えばそれだけでお釣りがくるというのはふざけ過ぎか。

ピエール・ガクソット『フランス人の歴史』(みすず書房)では、これらの戦争の原因はルイ14世の個人的野心にのみ帰せられるものではなく、結果としてフランスは安全な東部国境を持つことになったとある程度肯定的に評価している。

そしてストラスブールをはじめとする併合領土の住民が、強制によってではなく自発的に自らの運命をフランスのそれと同一視するようになったことを誇りを持って記している。

それを読んでかなりの程度説得的に思えたので、やはり歴史にはいろいろな見方があるんだなと感じました。

|

« 萩原宜之 『ラーマンとマハティール (現代アジアの肖像14)』 (岩波書店) | トップページ | 山口修 『読んで役立つ 中国史55話』 (山川出版社) »

オランダ」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。