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林健太郎 『バイエルン革命史』 (山川出版社)

同じ林氏の『ドイツ革命史』(山川出版社)が1848年の三月革命を主題にしているのに対し、本書は1918~19年のドイツ革命の一部を成すバイエルンでの革命を扱った本。

バイエルンは南ドイツに位置し、オーストリアを排除した小ドイツの中ではプロイセンに次ぐ大国で、1871年成立したドイツ帝国でも独自の地位を占めていた。

北ドイツのルター派に対してカトリック信仰が強く、郵便・鉄道・税制などで自主性を保持し、独自の外交特権や軍隊すら認められていた(バイエルン軍は戦時にのみ中央政府の指揮下に入ることになっていたらしい)。

第一次世界大戦末期、敗色濃厚の中、バイエルンでは反ベルリン・反プロイセンの気運が高まる。

キール軍港の水兵反乱の直後、11月7~8日独立社会民主党所属で独自の革命思想を抱いていたクルト・アイスナーという人物の煽動でバイエルンの首都ミュンヘンでほぼ無血の革命が起こり、ヴィッテルスバッハ王朝は倒れ、アイスナーを首班とする暫定政府が樹立された。

これはキール事件以後始めての現実の政府の転覆で、以後各地の革命の先駆けとなった。

アイスナーはレーテをロシアのソヴィエトのような独裁機関とすることを主張するボルシェヴィズムには反対しながらも、通常の議会主義も退け、レーテが議会に対する監督権を行使する体制を目指す。

1919年に入り、1月初めベルリンではスパルタクス団の蜂起鎮圧。極左派は衰退。

バイエルンでの議会選挙が行われバイエルン人民党(中央党系)、多数派社会民主党が勝利。アイスナーの独立社会民主党は惨敗。

議会に基く政府を要求する穏健派と、レーテ独裁を主張するアナーキストと共産党の極左派に挟まれ、アイスナーは苦境に陥る。

2月政権を放棄する意図を持ち議会に向かったアイスナーが極右派の青年によって射殺され、それに激昂した極左派が多数派社会民主党の有力者エアハルト・アウアーを狙撃、重傷を負わせる。

この二人の狙撃によって政局は流動化し、権力の空白を突いて、4月にランダウアーらのアナーキストが政権を奪取、バイエルン・レーテ共和国を宣言。

その一週間後、今度はレヴィーネ、レヴィーン率いる共産党が主導権を奪取。

しかしすでに中央での秩序回復を果たしていたエーベルト政権の討伐を受けて、このバイエルン共産政権は5月初めには壊滅。

以後のバイエルンは赤色独裁への恐怖から、逆の極端に振れ、ナチスを含む極右勢力の地盤の一つとなる。

しかもまずいことにアイスナー、ランダウアー、レヴィーネ、レヴィーンがすべてユダヤ系だったため、この革命が悪質な反ユダヤ主義を蔓延らせる土壌を提供してしまった。

(著者は最後にバイエルンがナチ運動の本拠ないし基礎とは言えないと書いているが。)

1918年ドイツ革命の中の、さらに特殊な事例を取り上げた本ですから必読とまでは言えませんが、非常に読みやすく面白い本です。

この林健太郎氏は宮崎市定氏と並んで、初心者向け啓蒙書の作者としては最高レベルじゃないでしょうか。

『ワイマル共和国』(中公新書)『二つの大戦の谷間』(文芸春秋)は内容的に古くさい部分もあるんでしょうが、しかしそれでも素人が読む入門書としては二つとも最高傑作といっていい出来だと思います。

前者の流暢極まりない文体と冷静穏当な史観、これ以上無いほど理解しやすい説明は、読み終えた後、滅多に感じない程の深い満足感を覚える。

後者も第一次大戦から始まり、ナチの政権掌握で本筋の叙述を終えてから、文化史の章を加えて、ヤスパースの『現代の精神的状況』とオルテガの『大衆の反逆』で締めるという渋すぎる構成。

本書もお勧めしますが、以上の著作も未読の方は是非お読み下さい。

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