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桜井万里子 本村凌二 『ギリシアとローマ (世界の歴史5)』 (中央公論社)

旧版と同じタイトルの西洋古典古代の巻。

全16巻の旧版なら古典古代が一巻にまとめてあって当然だが、全30巻の新版ならギリシアに一巻、ローマに一巻割り当てても全然おかしくない。

全24巻の河出版でもそうなってる。

しかしこの中公新版ではこれまで軽視されてきた地域の歴史を重点的にカバーする意図からか、従来の世界史全集の一つの山場であった西洋古代史を一巻のみに止めている。

この辺は入門書も、ヘロドトストゥキュディデスはじめ初心者が読める古典的著作も多いし、そうした中ではっきりとした特色と意義のある概説を書くというのは、執筆者にとってかなりのプレッシャーを与える課題ではないかと思う。

本巻が果たしてそれに成功しているか、読了した感想を言いますと・・・・・・「微妙」。

読んでみると「普通」としか言いようが無い。

不十分極まるとは言え、あれこれと関連本を読んでいるので、それに加えてこれを読んでも大して強い印象は受けない。

そもそも細かなデータの掘り下げが圧倒的に不足している。

時代の重要性や史料の豊富さ、今までの研究の蓄積からして、面白い歴史物語を叙述しようと思えばいくらでも可能な分野のはずなのに、このような簡略な通史で済まされたのは非常に残念。

これまでの世界史全集とは異なる記述配分をという意図はわかるが、やはりギリシアとローマを一つにまとめたのは無理があるというか、もったいないというか。

「時代錯誤のヨーロッパ中心主義」という汚名を着ても、ギリシア・ローマで三巻くらい費やしても良かった気がする。

ただ、高校世界史を学んだ以外全く白紙の読者が読めば、比較的良くまとまった通史ということになるのかもしれない。

従来から論じ尽くされてきた分野において、基礎的な史実には全て言及し、物語的面白さは落とさず、定説としての史的解釈と新しい学説を共に紹介しながら、極めて限られた紙数に収めるなんてことは誰がやっても至難の業でしょうから、本書はまだしも成功している方なのかも。

特に本村氏執筆のローマ史の部分はそう思える。

個々の記述で気の付いたことを挙げれば、まずミケーネ文明衰退の原因として、昔の教科書で触れられているドーリア人の侵入ではなく、同時期ヒッタイトを滅ぼした「海の民」の活動を示唆している。

他には、以下の文章を読んで隙を突かれた。

ホメロスの叙事詩で歌われているトロイア戦争は、スパルタ王メネラオスの妻ヘレネをトロイアの王子パリスが誘拐したことを発端にしているが、そのスパルタはアカイア人による王国である。ポリスとしてのスパルタはそれとは違い、ドーリス人がミケーネ時代にスパルタ王国のあったラコニア地方に建設したのだった。

こんなことは物の判った人には常識なのかもしれないが、私自身は盲点を突かれた思いだった。

ローマ史では、前287年ホルテンシウス法によって元老院の承認抜きでその議決が国法となると定められた平民会とはすなわちトリブス民会で、それに対し富者優位だったのがケントゥリア民会(兵員会)であるのを再確認。

短いページながら著名な皇帝の人物像にも軽く触れられており、私の好きなアウグストゥスとユリアヌスについて好意的記述がなされているのが少し嬉しかった。

繰り返しますが、叙述の出来自体はさほど悪くないです。

欠点としては紙数が少ない。それに尽きます。

著者にこれの3倍くらいのページを与えて思う存分執筆してもらえば、もっと面白くなったろうにと思います。

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