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井上章一 『日本に古代はあったのか』 (角川選書)

小中高で習った歴史を思い出してください。

古代、中世、近世、近代、現代という五つの時代区分がありますよね。

西洋史ではギリシアの都市国家からローマ帝国滅亡までが古代、ゲルマン民族の侵入と封建制の成立で中世が始まり、ルネサンスと宗教改革、大航海時代の15・16世紀あたりから近世。

アメリカ独立革命・フランス革命・イギリス産業革命以後が近代で、現代は人によってまちまちで帝国主義時代とか第一次世界大戦とかが画期になるんでしょうか。

日本史では平安時代までが古代、鎌倉時代から中世、安土桃山時代から近世が始まり、明治維新で近代に入るというのがほとんど全ての教科書の時代区分法でしょう。

近世と近代を分けるかどうかとか、近代と現代の境目はどこかは別にして、ヨーロッパ史と日本史に関しては、古代・中世・近世(近代)という時代ははっきりと断定的に教わりますし、誰でもいつ頃がその区分に当たるのかはすぐ思い浮かびます。

でも、世界の他の地域においては、あまりこの手の時代区分は聞かないですよね?

学会だけでなく、我々一般人にも広く普及した西アジア・インド・中国・東南アジア・アフリカ・ラテンアメリカの時代区分があるわけではない。

中国史ではこの時代区分論争が戦後しばらくの間、喧々諤々、華々しく繰り広げられたそうです。

私が初心者向け中国史入門書では最高の名著と思っている宮崎市定『中国史 上・下』(岩波書店)では、後漢までが古代、唐末までが中世、宋以後を近世と定義している。

この内藤湖南以来の京都学派に対して、東大系の歴史家は中国の古代をより長く設定し、いわゆる唐宋変革期は古代と中世の境目であると反駁した。

宋代の佃戸は農奴か自由民かなんていう論争が激しく続けられたが、70年代頃から下火になり、今はこの種の時代区分論は全く流行らないそうです(こちらのページなど参照)。

本書は宮崎氏の中国史・ユーラシア史論に触発されて、これまでの日本史の時代区分に根本的な疑問を投げかけるという本。

これは面白い。

ものすごく面白い。

難解な部分は何一つ無く、各学界の時代区分論をめぐる様々な言説を極めて平易に紹介しながら、著者の見解を蛮勇を奮って述べていく。

いろいろ批判もあるだろうが、私のような一般読者にも強い興味を持って通読できる読物であるのは間違いない。

ユーモアがあって、どことなくとぼけた筆致と意外な話の展開にニヤリとさせられること多数。

基本的に何の予備知識も要りません。

できれば中国史時代区分に関して上記宮崎氏の『中国史』と『大唐帝国』(中公文庫)、封建制への評価に関して梅棹忠夫『文明の生態史観』(中公文庫)岡崎久彦『隣の国で考えたこと』(中公文庫)『この国のかたち』など司馬遼太郎の著作のあれこれを事前に読んでおいたら、より楽に理解できるでしょうが、別に未読でもかまいません。

読みやすくて十二分に楽しめる良質な歴史談義。

私のような初心者にはぴったり。

買う価値有りです。

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