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後藤明 『ビジュアル版イスラーム歴史物語』 (講談社)

講談社から出た世界史全集として、1970年代後半に出た旧版の他に、1980年代半ばに刊行された全20巻の『ビジュアル版世界の歴史』というものがありました。

「ビジュアル版」という言葉の意味は、要するに活字がびっしり詰まった本だと売れないから、写真や図版を多く入れて本文を少な目にして読者を惹き付けましょうということでしょう。

この場合、「ビジュアル版」=「内容が薄い」と判断せざるを得ないので、私はこのシリーズはこれまで一冊も読んでいません。

本書は書名は似てますが、それとは別に2001年に刊行されたもの。

とは言え、普通ならまず手を出さないタイトルだったのですが、たまたま古書店の店頭で見かけて何の気無しに手にとってパラパラ中身を見たところ、「うん?」と心に引っ掛かるものがあったので、購入。

結果は買って成功でした。

古代オリエントから始めて1990年代までのイスラム世界全史を扱った通史。

300ページ余りの本文で全100章もありますが、各3ページの短い章を続ける構成で、非常に読みやすい形式です。

内容も決していい加減なやっつけ仕事ではなく、堅実に基礎知識を積み重ねていくもので、安心して読める。

ある程度まで詳細な記述を含みながら、明解で曖昧さを残さない説明。

話の進め方が丁寧で、一つ一つの事項を確認しながら読み進められる。

中東地域だけでなく、中央アジア・アフリカ・イベリア・インド・東南アジアなど広大なイスラム世界全域を扱いながら、記述の空白をほとんど感じさせないのは見事。

これは良い。

高校教科書レベルの次に読むイスラム史入門書としては隠れた名著と言えるのではないでしょうか。

強く推薦致します。

なお、本書のような通史はいくつかありますが、個々の王朝や歴史人物を扱ったものは、イスラム史の分野ではなかなかいい本が無い気がします。

『イスラームの「英雄」サラディン』のような例外もありますが、一般向けの読みやすい本はあまり思い浮かばない。

中国史や欧米史と比べること自体間違ってるんでしょうが、もうちょっと日本語で読めるイスラム史の啓蒙書が充実してくれるとありがたいです。

以下、例によって内容バラバラな私的メモ。

第四代正統カリフ・アリーとムアーウィヤの内戦時、一時和平と話し合い解決の気運となるが、それに反対したアリー派陣営の一部が分離し、ハワーリジュ派を形成。

スンナ派・シーア派双方に距離を置く彼らがアリーとムアーウィヤ双方に暗殺者を派遣して、前者は成功し後者は失敗。

よってアリーはムアーウィヤが暗殺したんじゃないんですが、恥ずかしながら私は高校卒業後かなり後までそう思い込んでいた。

シーア派の中の主流派である12イマーム派は二代目でアリーの長男であるハサンと次男フサインおよびフサインの子孫をイマームと見なすが、その家系の中で枝分かれした人物を担いでイスマーイール派やザイド派が成立。

スンナ派四大法学派は以下の通り。

1.ハナフィー派(コーランやハディース以外の類推や個人的見解を大幅に認める・トルコ、インドで有力)

2.マーリク派(公共善の原則を重視・マグリブで有力)

3.シャーフィイー派(普遍的な法解釈を求めるが運用は柔軟・東南アジア、東アフリカで有力)

4.ハンバル派(コーランとハディースのみを根拠とする厳格派・サウジのワッハーブ派はこれに属す)

シーア派の12イマーム派の法学派はジャーファル派。

サファヴィー朝を滅ぼしたアフシャール朝のナーディル・シャーがスンナ派信仰をイランに復活させようとし、政治的保護を失ったシーア派内部で路線争いの末、12イマーム派はそれまでの神秘主義教団ではなく法学者を中心とした組織に生まれ変わり、それが1979年イスラム革命以後の「法学者の統治」という理念にも繋がっていると書いてあった。

アッバース朝期の分裂傾向はイベリア半島の後ウマイヤ朝だけでなく、王朝成立のごく初期から始まっている。

マグリブでは、777年アルジェリアのルスタム朝(ハワーリジュ派)、789年モロッコのイドリース朝(アリー長男ハサンの系統だがシーア派色は薄い)、800年チュニジアのアグラブ朝(ハールーン・アッラシードの治世に軍営都市カイラワーン総督職世襲を認められ、シチリア島も征服)成立。

この三つの王朝は909年チュニジアに成立したイスマーイール派のファーティマ朝にすべて滅ぼされる。

ファーティマ朝が969年にエジプトを征服、946年にはブワイフ朝がバグダードに入城しているから10世紀後半から11世紀前半はシーア派がイスラム世界の政治的主流派であるかのような観を呈していた。

それが11世紀後半になると、セルジューク朝のトルコ人によってスンナ派復興の動きが強まる。

こういう視点は高校世界史ではあまり習わない(と思う)し、年代をきちんと憶えていないと思いつかないので、私の場合本書程度の通史でも新鮮に感じて「ほう」っと感心してしまった(上記『サラディン』の記事でも似たようなことを書いてますが)。

あとアッバース朝以後の東部地域の王朝興亡や、ティムール以後の中央アジア史についていろいろ書きたいことがあったんですが、面倒臭いのでとりあえずこれだけにしておきます。

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