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今谷明 『封建制の文明史観』 (PHP新書)

著者の今谷氏は日本史関係で著名な方ですが、著作を読むのはこれが初めて。

西欧と日本が近代化に成功した原因を封建制の存在に求めて、それを肯定的に評価する視点からの本。

梅棹忠夫『文明の生態史観』(中公文庫)とも共通する点が多い。

まず第一章で13世紀モンゴルの征服と破壊から免れた日本・西欧・マムルーク朝エジプトの例を記し、それがいずれも封建制下に育まれた軍事力によるものだったとする。

日本については「神風」よりも鎌倉武士の奮戦を強調し、西欧についてワールシュタットの戦い後のモンゴル軍の撤退はオゴタイ・ハンの死によるものではなく、ドイツの城塞都市を破る見込みが無かったからだとする。

マムルーク朝について、1260年アイン・ジャールートの戦いでモンゴル軍を撃退したことの意義を記すが、以後のエジプトで近代化の動きに乏しかったことへの言及は特に無い。

また、普通の教科書ではモンゴルの侵攻を退けた地域としては日本、エジプト以外では西欧よりも陳朝大越治下のヴェトナムを挙げるのが通例だが、本書ではヴェトナムについては全く記述されることがない。

(別に細かなあら捜しをするためにこういうことを書くわけではありませんが。)

いずれにせよ、モンゴルのユーラシア制覇の破壊的側面を強調し、その支配を免れた地域のみが、自発的近代化を成し遂げたことに注目するという、杉山正明先生が聞いたら発狂しそうな史観。

(本書の元寇を記した部分では杉山氏の著書がやや批判的に引用されています。)

第二章以降では、上記梅棹氏をはじめ、オットー・ヒンツェ、ウィットフォーゲルなど内外の学者に関して、日本において封建制は存在したのか、存在したとしてそれをどう評価するのかについての様々な言説を紹介する内容に移る。

採り上げられている人物では、島崎藤村なんて意外な名前も出てきます。

封建制を近代化への障壁であり、全く否定すべきものと見なすか、むしろ逆に近代の基盤を準備したものと見るかで、意見が分かれる。

いろいろな学者の中で、本書ではウィットフォーゲルに対する評価が比較的高い。

この人は中国史での「征服王朝」という用語の発案者として高校世界史でも一応名前は出てきますよね(今は触れられないのかもしれませんが)。

ユダヤ系ドイツ人として生まれ、ドイツ共産党に入党、ヒトラー政権成立後は収容所送りになり、出獄後アメリカに亡命、そこで反共主義に転向しマッカーシズムの赤狩りに協力して、左翼知識人に蛇蝎の如く嫌悪されるというなかなかきな臭い人生。

中国などユーラシア中央部に大規模な水利・灌漑の必要から中央集権的な専制帝国が成立したのに対し、西欧と日本では封建制による権力の分立と近代化への萌芽が生まれたと説く「東洋的専制主義」の理論を構想。

こういう諸学説の紹介はそれなりに面白いんですが、著者の主張があまり明解に伝わってこないので、最後まで読むと「えっ、これだけ?」と何か中途半端な印象を持ってしまう。

途中から少し盛り上がりに欠ける展開のような気がしますが、初心者が予備知識無しに読めるのは良い。

大した労力も要らずに読めるが、その割にいろいろな知識が吸収できてなおかつ楽しめるというコストパフォーマンスの高い本。

井上章一『日本に古代はあったのか』と読み比べるのも良いでしょう。

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