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鈴木董 編 『パクス・イスラミカの世紀 (新書イスラームの世界史2)』 (講談社現代新書)

かなり前に第1巻を読んだ後、そのまま放置してあったシリーズの続巻。

13世紀モンゴル侵入から18世紀末辺りまでのイスラム史。

第1章モンゴル史の著者は杉山正明先生

いつもの調子で、イスラム史家が記したモンゴルの残忍・破壊は西欧史家・中国史家と同じく一切「偏見」と言わんばかりの叙述。

一応論拠は述べられていてそれなりに納得できるものではあるのですが、どうしてもそのまま素直に受け取れないと警戒してしまう気持ちは残る。

しかしここまで徹底されると、ある意味感心する。

もう誰も止めませんから、先生は行き着くところまで行って下さいという感じ。

第2章は東方イスラーム世界。

これは、モンゴル侵入以後500年間の、イラク・イラン・アフガン・西トルキスタンを併せた地域を指し、ペルシア語を共通語とし、軍事はトルコ系遊牧民が、民政はイラン系定住民(タージーク)が担当していたのが特徴。

教科書ではこの時期をイラン・イスラム文明の時代と名付けているが、本書ではトルコ・モンゴル系遊牧民が大きな役割を果たしていたので、この名称は使わないとしている。

王朝で言うと、イル・ハン国、ジャラーイール朝、ティムール朝、黒羊(カラコユンル)朝、白羊(アクコユンル)朝、サファヴィー朝。

支持基盤であるトルコ系遊牧民が持っていたかなり特殊な信仰であるキジルバシ的シーア主義と、統治下においたイラン系定住民の信仰との妥協点を見い出すため、サファヴィー朝が12イマーム派シーア主義を導入する経緯などはなかなか興味深い。

第3章はティムール朝。

中央アジアは歴史上常に被征服者の立場に置かれてきたが、ティムール朝において初めて自ら世界帝国の発祥となったと書かれていて、そう言われてみればそうかと気付いた。

16世紀の中央アジアで、ティムール帝国崩壊と大航海時代によってシルク・ロードの重要性が低下し、没落・停滞の様相が濃くなったという定説に疑問を投げかけている。

第4章はオスマン帝国。

有名な常備軍イェニチェリは、火砲を装備した歩兵集団であり、騎兵ではない。

これは結構盲点で、大学入試の引っ掛け問題で問われそう。

1514年、建国間もないサファヴィー朝とチャルディラーンで戦い、これを撃破。

当時在位していたスルタン、セリム1世は1517年のマムルーク朝エジプト征服でのみ、高校世界史では記憶されているが、上記チャルディラーンの戦いも結構重要と思われる。

オスマン帝国衰退の象徴を1571年レパントの海戦に見るのではなく、1683年第二次ウィーン包囲失敗と1699年カルロヴィッツ条約とハンガリー喪失に置くというのは、高校世界史でも出てきますね。

第5章オスマン支配下のアラブ。

オスマン治下時代を単純な暗黒時代としてではなく、アラブ有力者層の自立の時期として捉えて、各地域ごとの具体的様相を叙述している。

第6章ムガル帝国。

アウラングゼーブ死後の急激な分裂を考慮して、ムガル朝をインドの統一政権とは見ずにデリー・スルタン朝の継続に過ぎないとの見方を紹介しているのは非常に面白い。

第7章東南アジアのイスラム化。

実質マラッカ王国のみの記述。

短すぎてあまり書くべきこともない。

しかしマラッカの年代記において、自らの遠い始祖をアレクサンドロス大王としていると記されているのは意外だった。

(アレクサンドロス伝説はイスラム時代でも諸所に残されてるとの知識は事前にあったが。)

最後の第8章国際交易ネットワーク。

10世紀後半ごろ、イスラム圏の貿易・商業の中心がバグダードからカイロに移って以後の経済史。

無難で平易な叙述なので、素直に読む。

悪くはない。

悪くはないが、目の冴えるほど面白いとか、基礎から中級レベルの史実を洩れなく取り上げて、理解しやすい見解を添えて提示してくれるということはない。

以前も同じこと書きましたが、どうもイスラム史は初心者向けのいい本が少ない。

中公新版全集のイスラム史は全部読んだので、最低限の基礎は出来ていることにしようとも思うのですが、どうもすっきり理解できた気がしない。

あれこれと図書館の在庫本を検索して試し読みしてみるということが続きそうです。

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