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筒井清忠 編 『解明・昭和史  東京裁判までの道』 (朝日選書)

第1回普通選挙から東京裁判まで、誰でも知っている重要事件について、編者を含め14人の研究者が1章ずつ執筆した本。

いい加減な「昭和史本」の氾濫を憂い、「研究の第一線と一般書との間のすさまじいまでの懸隔を埋めるため」、最新の研究成果をわかりやすく紹介するという立場から書かれたものだそうだ。

執筆者には、私でも知っている著名なお名前がちらほら。

各章ごと、末尾に参考文献が載っているので、これを見て次に読むべき本を見つけるのも良い。

内容自体は、もちろん各章に差はあるものの、基本的には高校レベルの初心者が読んでも有益なものだと思う。

以下、いくつかの章について、本書の内容には必ずしも沿っていない個人的感想とメモ。

(括弧内は執筆者名。)

第1章 第1回普通選挙(奈良岡聰智)

ただし、注意すべきは、日本の民主化が欧米と比べものにならないほど遅れていたわけではないことである。・・・・・イギリスで議院内閣制が発足してから男子普通選挙が実現するまで約180年もかかっていたのに比べ、日本では議会開設以来30年で、男子普通選挙実現の直前にまで到達している。日本は欧米が百年以上かけて進めてきた民主化のプロセスを数十年で一挙に行ったのであり、種々の限界があったとはいえ、全体として、民主化をかなり積極的に推し進めたと評価できる。

ここここで以前も書きましたが、戦前日本の破局は自由や民主主義の欠如ゆえと言うより、急速な民主化がもたらした混乱に国家と社会が耐え切れなかったためだとする方が余程実情に合っていると思う。

デモクラシーがしばしば自己崩壊を起こして、ファシズムになったり共産主義に道を開いたり、日本のように軍国主義と極端な国粋主義を生み出したりするのだから、そもそも「民主化」というものを無条件で「善」だとする考え方自体如何なもんでしょうかと感じる。

この章でもそうした懐疑的視点は感じられるが、一貫してそういう観点から叙述された近代日本史の本が無いものでしょうか。

第2章 張作霖爆殺(戸部良一)

やはりこの事件の不徹底な処罰が、軍人の政治化と暴走を生んだのであって、後世への悪影響は甚大だなと再確認。

第4章の満州事変は研究史の整理に多くの紙数を割き、割と面白いが短すぎるのが難点。

第5章の血盟団事件、五・一五事件は詳細な事実関係の記述が続き、初心者には読みにくい。

第7章 二・二六事件(筒井清忠)

よくまとまっていて内容は普通。

ただ、参考文献として高橋正衛の『二・二六事件』(中公新書)『昭和の軍閥』を好著として挙げているが、初心者の私はあまりいいとは思わない。

この辺の皇道派とか統制派とかの話を知りたい場合は、川田稔『浜口雄幸と永田鉄山』(講談社選書メチエ)をまず勧める。

第10章 日独伊三国同盟(服部聡)

本書では外交史を扱ったこの章が一番面白い。

松岡洋右外相らが日独伊三国同盟を締結した思惑は、三国同盟にソ連を加えた日ソ独伊四国協商に発展させ、それを背景に日米交渉と日中和平を推進することだとするのが、これまでの通説。

それに対し本書では、ソ連の加入は三国同盟の前提ではなかった、1940年当時既にドイツに降伏したフランス・オランダおよび降伏目前と見られていたイギリスの東南アジア植民地を戦争終結までにドイツと結ぶことによって獲得し、必要な資源を確保することが主目的だったとしている。

この時期の重要史実は、年度はもちろん月も含めて正確に記憶する必要がある。

39年  5月  ノモンハン事件 

     7月  アメリカが日米通商航海条約破棄通告

     8月  独ソ不可侵条約

     9月  第二次世界大戦勃発

40年  1月  日米通商航海条約失効

     6月  フランス降伏

     9月  北部仏印進駐

41年  3月  米国、武器貸与法

     4月  日ソ中立条約

     6月  独ソ戦

     7月  南部仏印進駐→米、在米日本資産凍結・対日石油禁輸

     12月 真珠湾攻撃、日米開戦

ほぼすべて高校教科書レベルだが、日米通商航海条約破棄で経済制裁の引き鉄をいつでも引ける状態になったことと、40年の北部仏印進駐と41年の南部仏印進駐では意味合いが全く異なり、後者によって米国が対日戦の決意を固め、石油禁輸によって日米開戦の導火線に火が付いたことになり、これが戦争への「ポイント・オヴ・ノーリターン」になったことは要チェック。

参考文献は本書と見方が異なるが、もちろん三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』(朝日選書)

もの凄く面白いということもないが手堅い本。

機会があればどうぞ。

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