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アンソニー・クイントン 『不完全性の政治学』 (東信堂)

1976年に行われた講義を本にしたもの。

この訳本は2003年刊。

本文は150ページほどなので、楽に読める。

人間の知的・道徳的不完全性という前提から、(1)伝統主義、(2)社会有機体説、(3)政治的懐疑主義という、保守主義の三つの原則を導き出し、イギリス史上における保守思想家を順に論じていく内容。

著者は人間の二つの不完全性のうち、知的不完全性の方をより重視し、それを認識するにあたって宗教的信条を不可欠のものとはしていない。

具体的事例としては、13世紀のブラックトン、15世紀のフォーテスキュー、17世紀初めのエドワード・コークなどコモン・ローを擁護した法学者たちはひとまず触れず、エリザベス1世時代のリチャード・フッカーから始めている。

以後挙げられているのは、クラレンドン卿エドワード・ハイド、ハリファクス侯ジョージ・サヴィル、ボリンブルク(ボーリングブルック)子爵ヘンリ・シンジョン、デイヴィッド・ヒューム、サミュエル・ジョンソン、エドマンド・バーク、コールリッジ、ジョン・ヘンリ・ニューマン、ディズレーリ、ソールズベリ侯ロバート・セシル、フィッツジェラルド・スティーヴン、マイケル・オークショット

上記のうち二人だけ補足説明すると、クラレンドン卿は復古王政初期のチャールズ2世の首席大臣。

ハリファクス侯はクラレンドン失脚後の大臣で、ジェームズ2世にも名誉革命体制にも不即不離の関係を保ち、あらゆる政治的極端主義に反対した人物。

やや論旨がつかみにくい部分があるが、基本的には良書。

初心者でも十分読みこなせるレベル。

もし入手できれば読んでも損は無いでしょう。

保守主義の三つの特殊原理のまず第一は、伝統主義の原理であり、それは、確立された慣習や制度に対する保守主義者の愛着あるいは尊敬というかたちをとります。それと表裏の関係にあるのが、急激で、向こうみず、そしてもっと強く言えば、革命的な変化に対する保守主義者の敵意です。歴史的な進化の所産である社会秩序は、共同社会に蓄積された実際的知恵の結晶であり共同の成果なのであって、政治の経験を積んだ人々が、責任をもって決定を下さざるをえない諸状況のもとで行ってきた適応修正の積み重ねの結果としてあるのです。

第二の原理は、有機体主義の原理であり、社会は一体として自然に成長するものであり、組織された生きた全体であって機械的な寄せ集めではない、という社会観です。社会を構成するのは裸の抽象的個人ではなく、社会的存在として相互にかかわり合い、歴史的に受け継がれてきた慣習や制度に構造的に織り込まれて独特の社会性を帯びるにいたった人間です。社会の諸制度はこうして個々人にとって外在的で自由に取捨選択できるものでもなければ、個人的に利用できる面でだけ関心をもてば足りるものでもありません。むしろ、社会の諸制度が個々の人間を社会的存在たらしめるのです。

第三の原理は政治的懐疑主義の原理であり、政治的な知恵つまり人間社会の諸問題を適切に処理するのに必要な類の知識は、孤高の思想家たちの思弁的理論のなかにではなく、共同社会全体に歴史的に蓄積されてきた社会的経験のなかに見いだされるという信念です。そういう知識は、とりわけ、歴史の試練に耐えて確立された伝統的な慣習・制度の堆積や、またなんらかのかたちで政治にたずさわって広く実際的な経験を積んだ人々のうちに体現されています。社会はまことに複雑なものであって、およそ理論的な単純化になじまないのです。社会を首尾よく維持していくために必要とされる知識は、一面ではいわば暗黙の了解のようなかたちで多くの人々に共有されてもいますが、やはり基本的には個々の人間を越えた客観的な社会的諸様式のうちに具現されているといえます。

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