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水村光男 編著 『新版 世界史のための人名辞典』 (山川出版社)

1991年初版、2010年新訂版。

編著者以外の名が載っていないが、ひょっとして一人で書いているのか?

だとしたら凄い。

全1914項目。

世界史教科書にある人名はすべて取り上げ、さらにかなりの数を加えたと書いてある。

(ただし日本人名はすべて除外。)

本の厚さからするとかなり粗い内容かなとあまり期待していなかったのだが、目を通していくと、人名のみに項目を絞っている分、相当詳細であり、かなり使える。

説明本文中では、くどいくらい年号を括弧内で注記しているが、これは本書を調べもののつもりで引いた際有益・適切で、とても良いと感じる。

前書きで、これまでの辞典では簡略過ぎて人物像が伝わらないか、浩瀚に過ぎて簡便性に欠くかのどちらかだったが、本書ではその中間を目指したという意味のことが書かれているが、その試みは十分成功している。

ただちょっと気になるところもないではない。

中国皇帝は基本的に廟号(高祖・太宗など)を本項目に立て(諡号[武帝など]で呼ばれるのが慣例になっている皇帝は除外)、明清では「一世一元の制」により元号による名(洪武帝・康熙帝など)で記載という方針。

これがねえ・・・・・・。

巻頭の凡例で読んだときは、「ああ、そうなんですか」と思っただけでしたが、いざ本文を眺めてゆくと・・・・・。

違う王朝の「太祖」が並列して載せられていて、頭の中の整理ができるという面もあるんですが、劉邦や李淵は「高祖」とするより本名で載せた方が良くないですか?

曹操は形式的には皇帝に即位してないので死後贈られた「武帝」ではなく本名で項立て。

一番不自然に思ったのは、劉備が何と「昭烈帝」で載っているのを見たとき。

「昭烈帝」って・・・・・。

三国志演義でもあまり出てこない称号ですよ、これ。

もちろん、「劉備→昭烈帝を見よ」とは書いてますがね。

(ただ五十音順で「昭烈帝」のすぐ後に「諸葛亮」が来るのは、ただの偶然だろうが面白い。)

あと、韓国・朝鮮の人名が、現代史の人物含め、すべて漢字の日本語読みで統一されている。

しかし金正日を「キム・ジョンイル」ではなく「きん・しょうにち」、盧泰愚を「ノ・テウ」ではなく「ろ・たいぐ」で引くのは、今となっては相当な違和感。

私はテレビ・ニュースで全斗煥「ぜん・とかん」が「チョン・ドファン」に変わったのを経験した世代の人間ですが、韓国・北朝鮮建国後の人名はもう日本語読みでは妙な気がしてしまう。

他に特徴はというと、ごく最近の政治家の項目がやたら詳しい。

ブッシュ(子)や盧武弦やシュレーダーなどはともかく、パナマのノリエガ将軍とか、政治家ではない故ダイアナ妃まで相当の紙数を使って載ってる。

加えて現職のオバマ、メドヴェージェフ、李明博、馬英九も長い。

今年4月に墜落事故で死亡したポーランドのカチンスキ大統領のことまで載っている。

(以上は別に悪いとは全然思わないが。)

以下、他に気付いたことを何点か。

ヴェトナム国のバオダイ帝の生没年をたまたま眺めてみると、この人1997年まで生きてたんですねえ。

同じく生没年関連ではアルジェリア独立の指導者で1965年クーデタで失脚したベン・ベラですが、「1918~」という表記なので、まだ生きてるのか。

(追記:2012年4月12日の朝刊に訃報記事が載っていました。享年95歳だそうです。)

広開土王の項、碑文の日本による解読に改竄・歪曲の可能性が高くなってきているという意味のことが書かれているが、私は以前日本軍が取った拓本に疑問が呈されてきたが最近はその説は完全に下火になっているという理解だったのだが、また逆になってきてるんでしょうか?

ちょっとこの辺、よくわからない。

「モルトケ」がいわゆる大モルトケだけで、小モルトケが項立てされていないのは残念。

チョムスキー、デリダ、ソンタグなどの知識人も載っている。

モンロー宣言のジェームズ・モンローの直後、同じくらいの文章量でマリリン・モンローが載っている。

ルイ・ブランが第二帝政崩壊後帰国し、国民議会議員としてパリ・コミューンに反対したなんてことは本書で初めて知った。

かなり良い。

客観的記述だけでなく、著者の個性が相当出た文章で、ややクセを感じる部分もあるが、豊富なエピソードを交えた説明文は大いに有益だし、眺めていると楽しい。

帯に「読む辞典」と書かれているが、宣伝文句に違わぬ出来。

1万4000項目を超えるという『角川世界史辞典』に比べれば、収録数は圧倒的に少ないし、人名しか取り上げられていないが、場合によっては本書の方が使えるのではないか。

これで定価1575円は安い。

買って手元に置いておくのも悪くないんじゃないでしょうか。

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