カテゴリー「中国」の101件の記事

湯浅邦弘 『諸子百家』 (中公新書)

今年3月に出た入門書。

扱われている思想家は、儒家・墨家・道家・法家・兵家の5種類で、陰陽家・縦横家・名家・農家は記述されない。

20世紀後半以後に出土した竹簡の研究から得られた新しい見解を豊富に取り入れているのが大きな特徴。

序章はそうした発掘・発見の経緯と、ごく簡単な春秋戦国時代史の概説。

第1章は諸子百家前史と題されているが、概括的な記述ではなく、新規に出土した文献で初めて知られるようになった諸子百家の作品に先行する説話類に関する紹介。

以後主題に入り、2章の孔子と3章の孟子にわけて儒家、4章が墨家、5章が老子・荘子で道家、6章が韓非子で法家、7章が孫武・孫臏で兵家に当てられる。

終章が主要な諸子百家の活動の舞台となった斉・魯・宋などの諸国があった地域に該当する現在の山東省紀行。

(孔子の曲阜の他、孟子・墨子・孫武などの生地はすべて山東省。)

豆知識として、

「韓非子」と称するのは、のちに唐の韓愈が「韓子」と呼ばれたことにより区別したものである。

という記述が記憶に残った。

驚くほどの面白さとか、斬新な見解は無いが平均以上の出来ではないでしょうか。

(その中では墨家の解説がかなり面白かった。)

序章と1章、終章を削って、他の章にページを割いて記述をより丁寧かつ重厚にして欲しかったところではあるが、それは望み過ぎか。

適時、平易な訳文を添えた古典引用を交えながらの説明はまあまあで、取っ付きやすく読みやすい。

高校世界史からのレベルアップには適切な本でしょう。

本書でウォーミングアップを済ませたら、中公バックス版「世界の名著」の『3 孔子・孟子』と『4 老子・荘子』と『10 諸子百家』の三冊に取り組むべきなんでしょうが・・・・・・。

私の場合、いつになったら読めるのか見当がつきません。

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寺田隆信 『物語中国の歴史 文明史的序説』 (中公新書)

1997年刊。

『永楽帝』(中公文庫)と同じ著者。

伝説上の黄帝から清朝滅亡までの通史。

新書一冊で20世紀(と今世紀)を除く全中国史を叙述するなんて、前回記事の『物語ドイツの歴史』よりも無謀だろうと思っていたが、読んでみると意外なほど良い。

教科書よりもやや細かな人物を登場させて、物語性を保ち、興味深い読物として成立させている。

事実を工夫なく羅列しただけの、平板で無味乾燥な通史ではない。

挿話や著者の見解・評価を交えながら史実の意味付けをきちんと行い、最後まで飽きさせずに読ませる。

京大出身の著者は、時代区分としては、殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・後漢を古代、三国・西晋・五胡十六国・南北朝・隋・唐・五代を中世、北宋、遼・金、南宋・元・明・清を近世とする京都学派と同じ見解を採る。

これとは別の時代区分を持つ人もあるでしょうし、そもそもこんな区分にこだわること自体あまり意味がないという方はさらに多いでしょう。

しかし、初心者の関心の取っ掛かりとしては、この手の話は非常に面白くて最適。

機械的に王朝名を順に憶えるより、はるかに良い。

本書にはいい意味で期待を裏切られた。

高校で世界史を履修せず、中国史を学びたいが、教科書などを読むのは面倒だし、詰まらないので嫌だという方には、まずこれを勧める。

以後、『中国史 上・下』(岩波書店)始め、宮崎市定氏の本を手当たり次第読みまくるのが宜しいかと。

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大林太良 生田滋 『東アジア 民族の興亡 漢民族と異民族の四千年』 (日本経済新聞社)

タイトルには「東アジア」が付いてますが、実質周辺諸国との関わりを重視した上での中国史概説なのでカテゴリは中国にします。

単行本一冊で前近代の中国全史を叙述する本とくれば、内容の薄い無味乾燥の教科書的通史かと思ってしまうが、本書は比較的良い。

一般的な史実を述べていく中で、あまり知られていない知識を付け加え、独自性のある史的解釈を提供してくれる。

時代区分としては基本的に宮崎市定氏らの京都学派と同じく、後漢までを古代、唐末までを中世、宋以後を近世と見なしている模様。

著者は中国史専門ではなく、民族学者と東南アジア史研究者とのこと。

だからとは言いたくないが、「これまでの中国史の概説書では唐の滅亡に続いて五胡十六国の記述があり、ついて宋による天下の統一といった記述が続くのが普通である。」といった、「ええっ」と思うような記述ミスが3、4箇所あったのは残念(×五胡十六国 ○五代十国)。

私の読んだのは初版なので、第二刷以降では直っているかもしれない。

そういう瑕疵はあるものの、読む価値は十分あると思います。

宮崎氏の『中国史 上・下』(岩波全書)とは同列には扱えませんが、初心者がいろいろ得るところはあるでしょう。

しかし日経新聞がこの種の歴史書を出しているのがちょっと意外な気がします。

杉山正明先生の『遊牧民から見た世界史』の単行本と文庫版もそうなんですが。

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宮崎正勝 『鄭和の南海大遠征 永楽帝の世界秩序再編』 (中公新書)

鄭和の有名な7回にわたる海上遠征に関する本。

本文が200ページに満たないのに、全10章もあり、それがさらに細かく節に分かれる。

それはそれで読みやすいとは言えるので、特に不服は無いです。

最初、モンゴル帝国と明の興亡とユーラシア秩序についてあれこれ記述されるが、それほど面白くはない。

なかなか鄭和のことが語られないので、少々イライラする。

永楽帝が直接軍事力を行使したモンゴルとヴェトナムの他、宦官を通じた外交交渉を行った西域・チベット・タイ・女真・日本の例に触れ、そうした中華帝国秩序確立の一環として鄭和の遠征を捉える必要が述べられる。

これまでで約三分の一のページが過ぎて、次から鄭和の評伝と遠征の描写となる。

それほど細かくて煩瑣に感じる記述も無いので、淡々と読んでいきましょう。

3回目までの航海の目的地は西インドのカリカット。

数十年後、同世紀の末にはヴァスコ・ダ・ガマが到達することになる。

4回目以降、鄭和の本隊はイランのホルムズを目指し、分遣隊がアデン、メッカと東アフリカのモガデシオ、マリンディに達する。

このホルムズというのはペルシア湾岸入り口にある島で、後にポルトガルが領有し、それをサファヴィー朝のアッバース1世が奪い返し、と高校教科書では載っているが、本書の地図で見ると島ではなく大陸部の地名がホルムズとなっている。

吉川弘文館の『世界史年表・地図』でもそのような表記になっており、結局よくわからない。

また、鄭和がマラッカに圧力をかけるタイのアユタヤ朝を牽制し、艦隊の物資集積拠点としたため、マラッカ王国が急速に発展したと書いてあるが、こういう記述は高校世界史で習った記憶が無いし、他の概説でも読んだ覚えが無い(それとも忘れてるだけか)。

このマラッカ王国は盛期が短く、1511年にはポルトガルに滅ぼされてしまう。

(この辺の歴史については、山川出版社の『マレーシアの歴史』参照。)

格別面白いということもないが、手堅い叙述。

あんまり航海の詳細についてあれこれ書かれても読むのが疲れるでしょうから、本書くらいの記述がちょうどいいのかもしれない。

読んでも無駄にはならないでしょう。

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天児慧 『中華人民共和国史』 (岩波新書)

岩波新書が続きます。

世界史読書の観点からすると、中公新書に比べると読みたい本ははるかに少ないですが、気になるものはこの際どんどん潰していきます。

1999年、人民共和国成立から50周年の年に出た通史。

本書の刊行からでも、もう10年経っちゃったんですよね・・・・・・。

200ページちょっとの本文で、半世紀の中共史を記述するわけだから、かなり内容が薄いんじゃないかとの危惧を持ちながら読み始める。

ところが、いい意味で期待を裏切られた。

コンパクトで簡便な通史でありながら、重要項目はしっかり押さえられており、史実の本筋が捉えやすい。

巧みな文章で記される、キビキビした説明は明解で非常に有益。

初歩的な段階から必要十分の知識を得るところまで、スムーズに読者を引き上げてくれる。

簡易な叙述の中に、中級者でも役に立つ視点をさり気なく含ませているのもなかなか良い。

例えば、林彪事件について、毛沢東・周恩来の対米接近・ソ連主敵論に対して、林彪が対米対ソ二正面対抗路線を主張したためという、外交戦略の対立を原因とする見方は根拠が薄いと断言しているところなど。

史実評価の基準も適切・穏当で、妙なバイアスを全然感じない。

同じ岩波新書の小島晋治・丸山松幸『中国近現代史』にそれをやや感じるのとは異なる。

(ただ、この本も改革開放期以後の著作ですから、文革礼賛とかそれほど常識外れのことは書いてないですけど。)

初心者にとってはかなり使える本です。

中国現代史入門書としては、やはり中嶋嶺雄『中国 歴史・社会・国際関係』(中公新書)が依然一番優れていると思うが、高校教科書から中嶋氏著に行く前に、本書でワンクッション挟んでもいいかもしれない。

80年代初頭までの中嶋氏著に比べ、90年代までフォローしているのもよい。

(それから10年はまだジャーナリズムの分野ですが、何かで補強しましょう。)

楽に読める割には、効用が大きい。

お勧めします。

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高文謙 『周恩来秘録 下』 (文芸春秋)

下巻は1971年林彪事件から。

66年文革発動から76年毛沢東の死までの十年のうち、ちょうど折り返し点で起こったこの大事件は文革の歴史の中でも重大な意義を持ちます。

狭義の文革が、69年の中国共産党第9回大会(九全大会)で林彪が後継者とされ毛・林体制確立したことで、これまでの紅衛兵運動のような無秩序化の時期が終わり、体制化が完了したことで終わりとされ、広義の文革が76年毛の死と四人組逮捕で終わる。

それに対してこの71年の林彪失脚を中間義の文革の終焉とする見方を何かの本で読んだ記憶があります。

ちょうどこの71年にニクソン政権補佐官のキッシンジャーが訪中し、劇的な米中接近が行なわれ、中国の外交行動は著しく穏健化するので、高坂正堯氏も『現代の国際政治』で、この年を「中国における急進主義の終わり」と見ています。

なお林彪失脚の原因として、この対米接近に反対したからだという説がありますが、本書ではほんの一箇所その手の記述があるだけで、外交路線をめぐる対立はほとんど重視されていない。

上巻の記述では、周恩来にとって林彪は江青よりはまだしも協力できる人物ではあったが、毛が林の排除を決意しているのを見ると、それに服従し、林彪派と距離を置く。

林彪が墜死すると、図らずもこれまで常にナンバー3だった周が毛に次ぐ地位を占めるが、これで毛の猜疑心の的となり、晩年の周は非常に苦しむことになる。

1972年ごろの出来事として、危篤状態に陥った毛が周に自らの死後の全権を委任するという記述が出てくるが、実際に毛が先に死去して周が党と政府のトップに立てば脱文革の流れも相当スムーズに実現したのではないかと思わせる。

中嶋嶺雄氏が『北京烈烈』の中の、周恩来死去直後に書いた文章で、毛に代わって最高指導者となった周を見たかったと書いてあるのに、大いに同感と思ったことを思い出した。

実際はこの時期周恩来は膀胱癌に冒され、毛が早期の治療・手術を認めなかったこともあって死期を早めるが、これも酷い話です。

73年鄧小平が副首相として復活するが、一般的イメージと異なり、周と鄧の関係はそもそも疎遠であり(上巻で書かれた整風運動の記述でも鄧は毛直系派として周を批判する関係だった)、毛沢東は鄧をもって、対米外交で内外の賞賛を浴びる周を牽制することを考えていたらしい。

しかし、江青ら四人組に対抗する上で、周と鄧は自然な同盟者となり一致協力して現実主義路線を定着させようと奮闘する。

あと、実務派軍人で周・鄧の一貫した協力者である葉剣英という人の存在が目立ちます。

最晩年の周は毛が煽る四人組の非難・攻撃を受け、最期まで苦しみぬくことになりますが、もし万一周恩来を完全に打倒し失脚させていたら、毛が受ける悪評は今程度じゃとても収まらないでしょうね。

本書の特徴は、革命家としての晩節を汚さぬため、毛沢東に卑屈なまでに服従し、文革を否定せず心にもない言動を採り、自己保身に走る周恩来の姿を詳細に記述したところにあるんでしょうが、私自身は本書を読んで、自分がこれまで持っていた周恩来のイメージがガタ落ちになるということは無かった。

文革の狂気の中で穏健派の最後の支柱となり最善を尽くした人物という印象は、この本を通読しても変わらなかった。

中国現代史の本として悪くはないが、全くの初心者が手を出すべきではない。

まず中嶋嶺雄『中国 歴史・社会・国際関係』で十分基礎を固める。

その次に『毛沢東秘録』で中共内部の権力闘争の概略を頭に入れましょう。

この本は興味深いエピソードの連続で、非常に読みやすくわかりやすい史書になっているので、「産経新聞で連載してた文章なんて読みたくないよ」という人でも取り組む価値があります。

事実関係の記述に極めて秀でており、頭に入りやすい。

それが済んだら、本書か、中嶋氏の上記『北京烈烈』、李志綏『毛沢東の私生活』を順不同で読んでいくのが宜しいかと思います。

(なお、ユン・チアンの『マオ』は私としてはお勧めしません。)

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高文謙 『周恩来秘録 上』 (文芸春秋)

二年ほど前に翻訳が刊行され、少々話題になった晩年の周恩来の伝記。

著者は中国共産党中央文献研究室に勤務し、天安門事件の後、米国に出国し事実上亡命している。

訳者は元毎日新聞記者で辛口の中国報道で知られる上村幸治氏。

例によって、記事は上・下巻に分けます。

本書の構成として、第一章のみが、建国前の中国共産党史および毛沢東と周恩来の関係について述べており、それ以降の章は1966年文化大革命発動から76年周・毛の死までの10年間を扱っている。

第一章で記されている、中共の党内闘争の経緯はかなり役立つ。

1927年上海クーデタの後、初代党総書記の陳独秀が解任され、指導者は瞿秋白、向忠発、李立三など短期間に目まぐるしく変わり、31年ごろからコミンテルンに忠実な王明(陳紹禹)が実権を握る。

なお31年樹立された瑞金の中華ソヴィエト共和国臨時政府の主席に毛沢東が選ばれたと、高校教科書に書いてるが、これは名前を出すのに便利だからであって、党中央はしばらくの間まだ上海にあり、毛の党内の地位は低い(党中央が瑞金に移ったのは33年1月ごろと本書には書いてある)。

今年のセンター試験でも毛の主席就任の事実は出題されてましたけど、中国現代史では役職名と実際の権力が乖離していることが多いので、その意味では出題ミスとは決して言えないまでも、あまり適切な問題ではないかもしれません。

(ここで個人的に思い出すのが、晩年の鄧小平が「中央軍事委員会主席」という肩書きが外れた後、「最高実力者」との呼び名を付けて新聞・テレビで報道されていたこと。)

34年国民党の包囲攻撃に耐えかねて長征が開始されるが、その頃の最高指導部はモスクワへ去った王明に近い博古(秦邦憲)、コミンテルンから派遣されたオットー・ブラウン、および周恩来の「三人団」だった。

35年の有名な遵義会議でも、よく言われるように毛沢東の指導権が確立したわけではなく、党内の地位をやや向上させ職務上は周恩来の軍事指揮上の補佐役になっただけだった。

以後の叙述は細かくてややわかりにくいが博古に代わって形式上のトップとなった張聞天を担いで、毛・周・王稼祥の三人で徐々に実権を掌握していき、その中で毛が頭角を現わすといった感じか。

延安に到達してから、毛はモスクワから帰国した王明と激しい権力闘争を行い、整風運動を発動した末、名実共に党の最高指導者としての地位を固める。

下巻の年表で見ると、1943年に毛は党主席(政治局主席と中央書記処主席)になっている。(党主席の地位は確か死ぬまで維持したはず。のち1959年に劉少奇に譲ったのは国家主席。)

この整風運動は、私が高校生の頃の用語集などでは「共産党員の間の官僚主義の風潮を改めるための思想改良運動」などと説明されていたが、実態はそのような牧歌的なものではなく、激しい粛清を伴う権力闘争であった。

当時の党内勢力は、王明・博古・王稼祥・張聞天らの「教条主義派」と周恩来・朱徳・彭徳懐・陳毅らの「経験主義派」および劉少奇・任弼時・康生・彭真・高崗・林彪・鄧小平らの毛直系派の三つに分類された。

毛は「経験主義派」を屈服させ、その協力で「教条主義派」を打倒して反対派を党内から一掃、独裁的な権力を固め、党内で毛への個人崇拝の気配が強まる。

劉少奇・彭真・鄧小平らはこの時期相当陰湿な手段で毛派の権力確立を図ったようだが、のちに彼らが文革で打倒・迫害されたのも自業自得と言うのは、いくらなんでも気の毒か。

以上の経緯で朱徳という人の役割がよくわからない。

毛と並んでごく初期からの紅軍指揮者として著名な存在のはずだが、政治的には全然目立たず、日中戦争の時期にはもう隠居のような状態になっている。

知名度と政治的活動の落差が非常に大きくて、いまいちその存在をつかめない人である。

また、張聞天は、『人禍』を読むと、「大躍進」運動の狂気の中、彭徳懐と共に餓死者が続出した農村の惨状を直視し、毛の急進的政策を弾劾して失脚した勇気ある人という印象を持っていて、役職としてはかなり地位が低く若手というイメージがあったが、戦前は形の上では党のトップだったこともあったんですね。

第二章からは文革の記述。

大体他の本で知っていることが多く、滅茶苦茶面白いということはないが、有益ではあると思います。

文革派の二大勢力たる江青派と林彪派の両者の軋轢が文革発動直後のごく初期から始まっていたことを知ったのが一番の収穫か。

江青に連なる造反派の軍への攻撃は実権派長老だけでなく、黄永勝・呉法憲・李作鵬・邱会作などの林彪系軍人にも加えられていたと書かれている。

この江青派と林彪派の不和拡大と抗争は、『毛沢東秘録』でも非常に興味深い読みどころの一つだが、林彪は実権派の打倒と文革派の権力奪取の後には現実主義的な経済建設路線の重要性を理解しており、教条的な江青派よりも、周恩来に近い存在だったと説かれているのには意表を突かれた(それとも上記『毛沢東秘録』や『毛沢東の私生活』など他の本にもあったかな?)。

この上巻は1970年江青派から林彪派に鞍替えした文革イデオローグの一人陳伯達が失脚し、林彪が窮地に追い込まれるところで終わっている。

私自身、こういう共産国の内幕モノがかなり好きなので、この上巻は二日で読めました。

かなり面白い方だし、楽に読めると思います。

下巻の記事でまた近日中に更新します。

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狭間直樹 長崎暢子 『自立へ向かうアジア (世界の歴史27)』 (中央公論新社)

20世紀以降の民族独立史。

タイトルに「アジア」とあるが、記述対象は第1部の中国と第2部のインドだけ。

目次見た途端にガックリきました。

この全集も残り3巻ですが、以後は国際関係の概説だけのようだし、中印以外のアジア・アフリカ諸国の詳しい独立史が記されているとも思えない。

地域ごとの巻でも、19・20世紀の歴史についてはそれほど細かな記述は無かった気がする。

この中公新版は巻数が多い分、世界史のほとんどの地域と時代をカバーしているという印象があったのですが、何やら必ずしもそうとは言えないのではないかという疑念が頭をもたげてきます。

変なところで昔ながらの世界史全集に見られた主要国中心主義のケがありますね。

気乗りしないまま第1部の中国現代史を読み始めたのですが、うーん・・・・・と首を傾げてしまう。

近現代史に関して右とか左とかいう鬱陶しい話は出来るだけしない方がいいんでしょうし、ちょっとでも左派的なことを書いてたら無条件でダメだなんて偏狭なことを言うつもりは毛頭無いんですが(恥ずかしながら以前そう考えていたことがあったのです)、本書の記述にはやはりある種の「硬直」や固定観念を感じる。

辛亥革命から日本の敗戦までの主要史実をコンパクトにまとめてあるところは長所と言えるのかもしれませんが、史実の評価や整理の仕方に関しては斬新で感心するような新たな視点はほとんど無いと言わざるを得ない。

10年前ならこれが平均的記述というところだったんでしょうし、今世間で溢れている単純で偏狭な反中国世論に基いて再解釈された歴史が正しいとも思いませんが、個人的にはやはりちょっとついて行けない部分が多かった。

第2部のインド独立史に入っても、どうももう一つ。

長崎氏は『インド大反乱1857年』の著者で高名なインド研究者なんでしょうが、あんまり面白いと思わない。

ただ、他の概説でも植民地化以後のインド史にはあまり興味が持てず、面白く読んだ覚えが無いので、単に私個人の問題かもしれませんが。

僭越ながら正直な感想を言わせて頂くと、残念ながらこの巻はハズレです。

あんまり得たものはありませんでした。

この全集を通して読む場合、避けてとばすほど悪いとは思いませんが、20世紀前半の中国史、インド史を知るためにわざわざこれを選ぶ必要も無いのではないかと言わざるを得ない。

まあ自分の無知を棚に上げて本の悪口言うのが大好きな私ですから、話半分に聞いて下さい。

当たり前過ぎますが、最終的には皆様が読んでご判断下さい。

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並木頼寿 井上裕正 『中華帝国の危機 (世界の歴史19)』 (中央公論社)

乾隆末期からアヘン戦争を経て辛亥革命までと、よくある区切りの中国近代史。

内容もごくごく平凡。

取り立てて言うべきこともない。

良く言えば手堅い、悪く言えば退屈。

これを読んで具体的史実の目新しいデータを得たということはない。

史実評価の面でも、曽国藩・西太后・袁世凱の一部再評価や、末尾の革命史への見直しなどの記述はまあまあ面白いが、簡略すぎて食い足りない。

あと、科挙の廃止が中央政府と地方有力者のパイプを断ち切り、清朝存続の点から見れば、この改革は失敗と言えると評価していたのが記憶に残ったが、まあそれくらいか。

悪いとは思わないが、これまで読んだ巻の中では一番特徴が無い。

読みやすくはあるが、はっきり言って面白くない。

20巻はすでに読んでますんで、これでちょうと三分の二ですか。

残り10巻も何とか読了します。

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岸本美緒 宮嶋博史 『明清と李朝の時代 (世界の歴史12)』 (中央公論社)

この巻は、1部・2部に分かれてはおらず、明清時代の中国史と李朝時代の朝鮮史の章が交互に続く構成で、両者のページ配分はちょうど半分ずつ。

第7巻の10ページ未満の高麗史は一体何だったのかと改めて不審に思う・・・・・。

岸本氏執筆の中国史の章はごく平均的な記述。

驚くほどの面白さはないが、なかなかシャープで手際が良く読みやすい。

一方、宮嶋氏執筆の朝鮮史はやや戸惑う。

両班や親族構造に関する社会史的記述が多く、読むのに難儀する。

個人的にはもうちょっとレベルを落として、より基礎重視の通史を書いてもらいたかったところである。

よって、宮嶋氏著の『両班』(中公新書)も貴重な本だとは思いながら、未読のまま。

本巻の感想は・・・・・「普通」です。

内容は特に書くことも無いのですが、最後の「ヒトと社会 比較伝統社会論」の章は十分理解できたわけではないですが、それでもなかなか面白いと感じました。

陽明学の解説もごく平易でわかりやすく、役に立つ。

他は別に無し。

あっさり済ませて次に行きます。

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伊原弘 梅村坦 『宋と中央ユーラシア (世界の歴史7)』 (中央公論社)

北宋・南宋および遼・金・西夏史の巻。

タイトルには現れないが、高麗時代の朝鮮史と雲南の大理国の歴史にも一章が割り当てられている。

第1部の宋史では、冒頭の中国史における宋王朝の意義などに触れた部分が非常に面白く、大きな期待を持たせたが、それも一瞬だけ。

やはりこの巻でも、社会史・経済史・生活史の比重が極めて高く、どうにも爽快感の無い記述。

昔ながらの物語的歴史などは書くつもりはないので別の本で済ませて下さいという事なのかもしれないが、別の本といってもそれほど適切な本が多くあるわけではない。

結局、旧版の宮崎市定『宋と元』でも引っ張り出してくるしかなかったりする。

本書の社会史的記述が全然興味が持てないとか面白くないということはない。

この時代の農民が、地主や王朝に一方的に搾取されて食うや食わずの貧困状態だったというのは実態とはかけ離れているとか、意外な見解を知る部分もある。

しかし、果たしてこれが初心者が最初に読むべき本でしょうか。

「向こう岸にはこういう豊かで面白い世界がありますよ」と言われながら、その間の川に架かっている橋は落とされているといった感がしないでもない。

(下手な喩えですみませんが。)

なお、第1部の終章が高麗・大理国史なのだが、大理国はともかく高麗史が10ページに満たないのは如何なもんでしょうか・・・・・・。

配分がかなりおかしくないですか・・・・・?

前にも書きましたが、やっぱり朝鮮史は独立の一巻を立てるべきだったんじゃないでしょうか。

北アジア・中央アジア史の第2部に入ってもあまり叙述の質は変わりませんねえ。

840年にウイグルがキルギスに破れて、モンゴル高原の覇権を失い、西走して中央アジアに定住し、この地域のトルコ化が進んで「トルキスタン」が成立したということは教科書にも書いてあります。

高校教科書には出ていませんが、そのウイグル人が建てた国が「天山ウイグル王国」であり、この国は、東は遼・西夏のちに金、西はカラ・ハン朝、カラ・キタイ(西遼)に接し、最後はチンギス・ハンに服属する。

本書ではこの国を詳しく取り上げて、その社会、通商、文化に関してかなりのページを割いている。

これも悪いとは言いませんけど、遼・金・西夏の記述量と比べると、やはりアンバランスさは否めない。

この巻も、通読は容易だが不完全燃焼といった感じ。

今風の概説と、自分が求めている初心者向け基本書とのギャップを改めて思い知らされた。

これまで読んだ巻では、イスラム史やインド史など、そもそも出回っている本が少なく、自分自身も知識が特に乏しい分野はかなり面白いと感じたが、中国史やヨーロッパ史などの伝統的分野はやはり厳しい。

私の好き嫌いが激しすぎるのかもしれませんが、この種の社会史中心の概説はどうしても合いません。

私ほど偏った嗜好を持っていない方にとっては良質な入門書と言えるのかもしれませんが。

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尾形勇 平勢隆郎 『中華文明の誕生 (世界の歴史2)』 (中央公論社)

中国古代史の巻で、第1部が新石器時代・殷・周・春秋戦国、第2部が秦漢帝国。

第1部で暦を中心とする話が長々と続くのがひたすらだるい。

こんなことを細かく説明されても全然わからない。

精読してきちんと理解するなんて普通の読者には到底不可能。

私は徹底して読み飛ばしました。

そうでないと絶対挫折する。

ただ論旨が全く読み取れないわけではない。

『論語』や『春秋』といった古典は戦国時代に原型ができたものであり、その内容を遡及させて前代の歴史を再現しようとすると大きな過ちを犯すとか、君主の在位年代について戦国時代から創められた踰年(ゆねん)称元法がそれ以前の立年称元法が行われていた時代にも適用された結果、『史記』をはじめとする史書にある年代に多くの矛盾が生じることになったとかなど。

ちなみに踰年称元法とは前君主が死去した場合、その年は前君主の年として継続し、翌年正月をもって新君主の元年とする方法。

それに対して立年称元法とは前君主死去後、すみやかに新君主が即位し同時に元年とする方法で、現代日本もこれですね。

先帝崩御によって昭和64年は一週間だけの存在で、1989年は昭和64年であると同時に平成元年でもあるわけです。

踰年称元法が戦国時代に現れた意味として、前君主死去から新年までの期間が賢人による新君主即位予定者の補佐とその徳性資格認定の時期と見做されており、それが無条件の血統原理を相対化する働きをし、「下克上」の支配層交替をある程度正当化したからだと述べられている。

以上のような視点の紹介が無意味だとか全く興味が持てないとか言うつもりはない。

しかし初心者向けの世界史全集でこの種のことを延々講じられても徒労感だけが残る。

高校世界史をほぼマスターしている人であっても、古代中国については堯・舜も桀・紂も文王・武王・周公旦も春秋戦国の山ほどある逸話も知らないわけで、そういう読者のうち本書のような記述を求める人がどれだけいるのだろうか。

それに比べて中公旧版貝塚茂樹『古代文明の発見』が読物として極めて優れたものであったとつくづく感じる。

マトモな研究者としてそんな低レベルの歴史物語など書きたくないという気持ちはわかるが、あえてそれを押し殺して執筆するのが一般読者への親切というものではないでしょうか。

旧版は刊行後およそ半世紀にもなろうかという骨董品だし、何でもかんでも新版より秀でているなどと主張するつもりはないが、名の知れている一流の学者が初心者に向けて平易な物語風歴史叙述を、照れもなく淡々と書いてくれた時代はやはり幸福であったなあと感じてしまう。

現在それを実現しようと思ったら、とにかく編集者が著者によっぽどの強権を振るえる体制を取らないとダメですね。

結論として、第1部は本当にゲンナリします。

第2部に入るとごく普通の通史になり、かなりマシになる。

私は中国史の全ての人物のうちで前漢の高祖劉邦とその謀臣である張良が一番好きなので、この辺の話は、政治史・伝記の範囲に収まる限り、いくら詳しくても良いと感じる。

多くの人が三国志に持つくらいの興味を、個人的には秦末から漢王朝成立期に感じるので、劉邦とその臣下の細々した話をもっと載せて欲しいくらい。

以後三国時代までが範囲内だが、後漢の興亡は本書の記述でちょうどいいくらいだが、三国は一般的な予備知識を持っている人ならかなり退屈。

よって第2部は読みやすいが、やや物足りないといった印象。

第1巻に続いて、やはり良好な出来とは思えない。

第1部を飛ばし読みした結果、かなりのスピードで読んで二日で読了できたが、あまり充実感はない。

ただ最近の世界史全集だと、どうしてもこういう形式の記述になるのはやむを得ないんでしょうかねえ。

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岡田英弘 神田信夫 松村潤 『紫禁城の栄光 明・清全史』 (講談社学術文庫)

これも文芸春秋「大世界史」シリーズの中の一巻の文庫化。

いつもの悪い癖でタイトルだけ見て、「ああ、腐るほどある凡庸な中国史概説だな、読む価値無し」と決め付けて全く手に取ることが無かったが、たまたま前書きだけを読んでユニークさを感じたので通読。

はっきり言って通常の中国史の記述はさして興味深いものではないが、全巻のおよそ三分の一が北アジアの遊牧民勢力の歴史に当てられており、それが滅法面白い。

宮脇淳子『最後の遊牧帝国ジューンガル部の興亡』(講談社選書メチエ)と同じような内容を含みながら、表現ははるかに平易で読みやすく、極めて有益。

本書の基本的視座として、まず漢民族が居住する「シナ」と、シナに満州・モンゴル・新疆・チベットを加えた五つの地域からなる歴史的世界の「中国」を区別している。

「中国」的帝国としての元朝崩壊後、明は洪武帝・永楽帝時代にその継承を目指し対外積極策を採るが、遊牧民勢力の根強い抵抗の前に挫折し、以後「シナ」的帝国としての存在に甘んじ、モンゴルと明の抗争が続くが、結局満州から出た清朝が大膨張を遂げ、「中国」全土を支配下に入れるというのが全体の構図。

なお、元および北元滅亡後の北アジアでは西部(西北モンゴル)のオイラートと東部(内モンゴル)の韃靼(タタール)が交互に興亡したというのが教科書的記述だが、本書ではモンゴル勢力は東部で元朝の伝統の継続性を強く保ったまま存続しているとする立場から韃靼(タタール)という言葉は一切使われていない。

1388年北元が一族の内紛で滅んだ後、臣下筋のオイラット(オイラート)が勢力を得る。

このオイラートはモンゴル系ではあるが、チンギス一族直系を戴く部族ではないようだ。

テムジン時代のチンギスによって併合されたナイマンとかケレイト、メルキト、タイチュウトなどの部族と同格の存在ということでしょうか(前2者はトルコ系らしいですが)。

その最盛期の首領は教科書の記述ではエセン・ハンではなく単にエセンとなっている場合があるが、それは土木の変(1449年)の際にはまだハンに即位していなかったからだと思われる。

また結局ハン即位後わずか一年で部下に暗殺されたが、それはハンとなるにはチンギス一族直系でなければならないとするモンゴル民族の観念からすると正統性に疑義があると当時は考えられていたことも一因だと上記の宮脇氏著には書かれていた(通婚関係で女系ではチンギス一族と繋がっているが)。

エセンは北元皇族の多くを殺したが、エセンの娘を祖母に、北元皇族の一人を祖父に持つダヤン・ハンが1487年帝位に就き、内モンゴルと外モンゴル東部に君臨する(これが普通韃靼の興隆とされるもの)。

ダヤン死後、孫のアルタン・ハンが指導権を握り、1550年明に侵入し北京を包囲、黄帽派チベット仏教に帰依しダライ・ラマの称号付与。

なおダヤンの子孫のうち、アルタンと別系統がそれぞれチャハル部、ハルハ部の祖となる。

内モンゴルのチャハル部は清の太宗ホンタイジによって併合。

17世紀後半エセン以後200年ぶりにオイラート系勢力が復興、その一員のジュンガル部のガルダン・ハンが台頭、外モンゴルのハルハ部の内紛に介入し結局外モンゴル全土を支配。

これに脅威を覚えた清の康熙帝が親征、苦戦するが別働隊がガルダンの軍を壊滅させ、ガルダンは逃亡後まもなく病死、ジュンガル部ハン位はガルダンと対立した甥が継承し、清との関係はしばらく小康状態に入る。

その後チベットにオイラート系ホシュート部とジュンガル部が相次いで侵入、康熙帝は1720年軍を派遣しダライ・ラマを保護、以後チベットは清朝の保護下に入る。

乾隆帝時代に継承争いの渦中にあったジュンガル部は清朝に滅ぼされ新疆として併合された。

これはかなり良いです。

中国史の本としてより、元朝崩壊後の中央アジア史として非常に面白いし役に立つ。

今も新刊として手に入りますし、是非一読しておきたいものであります。

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礪波護 武田幸男 『隋唐帝国と古代朝鮮 (世界の歴史6)』 (中央公論社)

この度少々思うところあり、中公新版「世界の歴史」の全巻通読に取り組むことにしました。

全30巻のうち、これまで読んだものが4巻だけで、なおかつ他の本も読みながらですから、そもそも挫折する可能性もありますが、少しずつこなしていくつもりです。

本書は第3回配本分。

十余年前の刊行時には、確かこの巻の途中で嫌気が差して読むのを止めたんだと思う。

自分の忍耐力の無さに改めて呆れます。

今回は3日間ほどで無事読了。

しかし評価は微妙です。

三国時代から唐滅亡までの中国史と、先史時代から新羅滅亡までの朝鮮史が叙述範囲。

全14章のうち、中国史の第1部が8章で、朝鮮史の第2部が6章と、朝鮮史の比重が比較的高めの構成。

その分、中国史の部分は概括的記述が続くだけで、突っ込んだ説明に乏しく、物足りなさを覚えた。

合間に挟まれるエピソードも、仏教関係の細々した話が多くてそれほど興味が持てず、他の話もどうも面白いと思えなかった。

同じ時代を扱った宮崎市定『大唐帝国』(中公文庫)が再三再四の味読に値するのに比べたら、正直かなり落ちるなと感じてしまいました。

個々の記述に関しては、五胡十六国の興亡が簡略ながら説明されており、民族系統別に色分けされたわかりやすい図表が載っている。

これはなかなかいいんですが、やはり全体像を覚えるのは相当苦しいです。

この図表は単行本では色分けがはっきり区別できますが、文庫本だとわかりにくいかもしれませんね。

コストの問題もあるんでしょうが、文庫化の際、オールカラーじゃなくなったのはやはりかなり残念です。

なお西晋末の八王の乱は細かな記述が一切無いのですが、宮崎市定『東洋における素朴主義の民族と文明主義の社会』(平凡社東洋文庫)に確か司馬氏一族内の政権移動を図示した系図付きで詳細な叙述があったと思います。

しかしこれも私には暗記不可能です。本当に複雑すぎる。

本書がそういう煩雑さを避けたのは結構なんですが、この厚さの全集本ならもうちょっと読み応えのある明解な政治史を読みたかったところです。

朝鮮史の第2部に入ると、こちらはページに余裕があるせいか、ごく標準的な通史といった感じでまずは良い。

しかし読み進めていくと、全くの初心者向けの朝鮮史としては、あまり整理されておらずまとまりに欠ける印象がある。

私の頭が悪いせいもあるんでしょうが、話が前後して流れが掴みにくいという感想を持った。

細かな官職名の考察なんかは省いて、高句麗・新羅・百済と加羅諸国の民族的起源などをもう少し丁寧に説いてくれればと思いました。

偏った意見かもしれませんが、本書はあんまり面白い良好な出来ではない気がします。

昔の世界史全集と違って、すべての地域をカバーする必要がある以上、中国史のように伝統的に重視されてきた分野に過度の紙数を費やすことはできないんでしょうが、しかし本書の記述を読むとこの先不安になる。

この後も『明清と李朝の時代』という巻があるように、本全集では中国史の巻中に朝鮮史を組み込む方針のようですが、できれば朝鮮史を独立させて一巻割り当てて欲しかったところです。

まあ、以上はあくまで私の個人的感想ですのである程度割り引いてお読み下さい。

悪い本だとまで断言する気はありませんので。

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上田雄 『渤海国の謎』 (講談社現代新書)

1992年刊。現在は『渤海国』というタイトルで講談社学術文庫に収録されている模様。

高校教科書にも必ず出てくる王朝ではありますが、この国が中国史に属するのか、朝鮮史に属するのかで、中韓間の外交摩擦すら生じているのはご存知の通り。

その件については文庫版のまえがきで著者も少しだけ触れているようだ。

教科書では唐代の東アジア文化圏の一国として、吐蕃・南詔・新羅・日本と同列に扱っているようなので、一応カテゴリは中国にしておきます。

668年高句麗が唐軍の攻撃によって滅ぼされた後、高句麗王族の流れを汲むという大祚栄が698年に建国。

支配層は高句麗の遺民を中心とする朝鮮系で、国民の大部分は原住民の靺鞨(まっかつ)族だったらしい。

都は時に変動があったが、基本は上京龍泉府。

初代大祚栄没後、二代目の大武芸が盛んな武力をもって近隣に領土拡大、次の大欽茂の代には文治主義を採用、唐文化の移入に努める。

以後の王は系図もはっきりしない部分があるので、とりあえず憶えなくていいでしょう。

最後は926年に契丹に滅ぼされ、その特色ある文化を伝えるものも無い程徹底的な破壊を蒙る。

本書で以上の通常の通史的部分は第一章のみ。

残りの二章から六章までは日本・渤海関係史に費やされている。

この辺、ちょっとアンバランスを感じないではないが、読むに耐えないというような退屈さは無いし、興味を持って読める部分もある。

最初両者間にある新羅を仮想敵国とした軍事同盟の色彩が濃かった日渤関係だが、後には経済・文化面での穏和な交流が主となる。

その様相を多くの例を挙げながら詳細に記述している。

その他、渤海との使節交換と遣唐使との関連にも紙数を割いている。

読みやすい方だと思うし、そんな悪い本でもないです。

ただ類書として、浜田耕策『渤海国興亡史』(吉川弘文館)があり、こちらの方がオーソドックスな通史に近いので良いかなとも思います。

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山口修 『読んで役立つ 中国史55話』 (山川出版社)

タイトルからすると、誰でも知ってるような史的エピソードを適当に並べただけの内容の薄い雑学本と思いかねないんですが、中身は全然違います。

皇帝の諡号と廟号の区別や、地方各省の名称、都市の呼び方の変遷など、中国史を学ぶ上でごく基礎的な事項を平易に解説した本。

学習の初期段階で読んでおくと便利です。

無理に買うほどの本でもないですが、図書館で見かけたら借りてみるのも良いでしょう。

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高島俊男 『しくじった皇帝たち』 (ちくま文庫)

隋の煬帝と明の建文帝のごく短い評伝からなる本。

後者は幸田露伴の『運命』という作品についての論評という形式。

『中国の大盗賊』『三国志きらめく群像』を読んで思ったことだが、この人の文章は本当に面白いし、話の運び方が上手い。

素人が読む歴史読物としては最高レベルじゃないでしょうか。

率直に言って本書は、上の2冊が素晴らしいのに比べると分量が少なく物足りないこともあって、やや落ちるかなといった感じですが、決して悪い本ではないです。

楽に読めますので、気軽にお手にとってください。

著者は中国文学が専攻の方ですが、こういう歴史モノも多く出して欲しいと切に願います。

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三石善吉 『中国、一九〇〇年 義和団運動の光芒』 (中公新書)

義和団事件をその前史である山東省の反キリスト教運動から概観したもの。

10年ほど前に出版されたとき気付いてはいたが、やたら細かい地名・人名が出てくるという理由で敬遠していた。

しかし一度読み始めると、予想よりはるかに楽に読めた。

例示されている様々な史実は暗記するのではなく、事件全体の概要把握や評価のための材料と考えて読んでいけばいいと思う。

義和団の乱について中国の公式評価は「中国人民の偉大な反封建・反帝国主義闘争」というものですが、最近袁偉時という人が「義和団は反文明の狂気の愚行、太平天国は残虐な独裁政権」とした論文を書いて掲載雑誌が停刊処分を受けたなんて事件がありましたね。

本書ではキリスト教宣教師と西欧勢力の横暴と圧迫が義和団暴発の主原因としながらも、反乱の過程で起こった恐ろしい残虐行為も同時に記していて、中国当局の見解をそのまま是認しているわけでもなく、まあバランスが取れていると言えるんじゃないでしょうか。

1860年の北京条約でキリスト教布教の自由が認められた後、「教民」(中国人キリスト教徒)と非教徒の間に対立が生まれ、双方の不正行為や誤解・偶発的事件によって憎悪が激しくなり、1898年の列強による中国分割を媒介にして凶暴な排外主義を生み出してしまう。

本書を読んでいるとその過程がほとんど必然のように思えてきて、個人的には、全く異なる価値体系の思想が急激に外部から流入すること自体が不幸の源じゃないかなあという感想を持った。

読みやすくてなかなか良い本だと思います。機会があればどうぞ。

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『内藤湖南全集 第十巻』 (筑摩書房)

すみません、読んだのは三分の一だけです。

日本の東洋史学の巨人である内藤湖南ですが、恥ずかしながら今まで全く読んだことがありませんでした。

『清朝史通論』(平凡社東洋文庫)も『支那史学史』(平凡社東洋文庫)も『東洋文化史』(中公クラシックス)も読めそうにないので、全集の中で一番概括的な著作が三つ収録されているこれを手に取りました。

しかし、「支那上古史」は神話・伝説時代の記述が晦渋で読みづらく、「支那中古の文化」は苦手な文化史なのでパスして、結局最後の「支那近世史」だけを通読。

これは大正年間の講義ノートを基にしたとは思えぬほど非常に読みやすい作品です。

時代区分として、開闢から後漢の中頃までを上古(古代)、後漢の後半から西晋を第一過渡期、五胡十六国から唐の中期までを中世、唐末・五代を第二過渡期、宋以後を近世としており、これは宮崎市定氏などの京都学派にも受け継がれているようです。

こういう大上段に構えた時代区分論は今では全く流行らないそうですが、私はこの種の話が好きなので楽しく読めました。

これも作品ごとに文庫化してもらえれば一番いいんですが。

筑摩書房様、よろしくお願いします。

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竺沙雅章 『范仲淹 (中国歴史人物選5)』 (白帝社)

始皇帝から林則徐まで全12巻のこのシリーズであまり馴染みのない人物を優先して選ぶと、本書になりました。

高校世界史では出てこない人だが、概説書を何冊か読んでいると「どっかで聞いたことのある名前だなあ」と思えるくらいの人。

「はん・ちゅうえん」と読む、北宋の政治家。

太祖・太宗・真宗に続いて即位した仁宗在位中に活躍し欧陽脩などとも交友があった。

一読はしましたが、はっきり言って全然面白くないです。

生い立ちから歴任した官職の記述が延々続くだけで、とにかく見せ場が少ない。

後世北宋第一の名臣と言われた割には、特に華々しい活躍も無く地味な官僚生活を送ったという印象を受ける。

せめて時代背景の叙述に力を入れて、北宋史概説として読めれば良いのだが、そういう部分も少ない。

これは率直に言って対象人物の選択に失敗してるんじゃないでしょうか。

あまりお勧めしません。

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佐伯富 『王安石』 (中公文庫)

1941年刊の本を1990年に文庫化したもの。

冒頭の君主独裁制といわゆる唐宋変革期の実像についての概説は、非常に明快な叙述でわかりやすい。

次いで王安石の伝記的記述と新法の解説になり、それもまあまあなのだが、新法実施後の成り行きや旧法党との争い、北宋の政治に与えた永続的影響などはごく簡略に片付けられていて、非常に中途半端な印象を与える。

これは文庫化する際に加筆して増補版として出してもらいたかった。

中公文庫収録の他の伝記に比べるとやや物足りなさが残る本でした。

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藤善眞澄 『安禄山』 (中公文庫)

これも以前から読もうと思っていた中公文庫収録の評伝。

まず建国から玄宗までの唐史をおさらいするのだが、この王朝は「武韋の禍」はもちろんとして他にも初期からトラブルが多すぎる。

太宗・玄宗の「貞観・開元の治」の時でも血腥い皇位継承争いが頻発している。

『アジア史論』の「六朝隋唐の社会」という論文の中で宮崎市定氏が

・・・・然らば唐王朝はどうであろうか、その赫々たる一時的な武勲に眩惑されてか、唐王朝は多くの歴史家によって、その実力が買い被られすぎる傾きがある。正直にみて唐王朝の基礎は決して一部に考えられるように、ローマ帝国などに比べられるほど鞏固なものではなかった。一たびは武氏に位を奪われ、次いでは韋氏に脅かされ、安史の乱に都を追われ、朱泚、黄巣に都を陥れられたりしているが、これがそのまま、唐室の人民支配の実力の限界を示している。この点で唐は古代帝国の頂点をなす前漢に劣ることは勿論、後漢にさえも及ばない。真に安定した実力政権は、五代を経た次の宋王朝の出現を待たなければならなかった。北宋一代百七十年間、滅びる直前まで、天子が都から逃げ出したことなどは一ぺんもない。

と述べているのを思い出した。

玄宗自身は暴君という性質の君主ではなかったと本書でも認められているが、やはり晩節を汚したとしか言い様が無い結末である。

ソグド人と突厥人の混血である安禄山が北方辺境地帯で軍人として台頭し、権勢のかぎりを尽くした李林甫の死後中央政界で実権を握った楊貴妃の一族楊国忠と対立し、755年ついに反乱を起こす。

太平に慣れた官軍は為すところ無く、書家の顔真卿とその一族のように有効な抵抗を組織した人物もいたが、乱の四年前にタラス河畔でアッバース朝軍に敗れた高句麗出身の将軍高仙芝は叛軍を防ぎきれず退却し、その後讒言を受けて処刑される(詩人の王維・杜甫は叛軍の捕虜となる)。

南下した安禄山軍が洛陽を陥落させさらに西進すると、玄宗は都から落ち延び、不満を持った護衛兵によって楊貴妃一族は殺害された。

長安も占領されるが、行動に迅速さを欠き玄宗など唐室関係者を捕らえることに失敗したことで叛軍の勢いに陰りが見え始める。

蜀に落ち延びた玄宗と途中から別れた皇太子が粛宗として即位し、抗戦の核となり、ウイグルの援軍を得て反撃に移り、長安・洛陽を奪回する。

安禄山は跡継ぎを替えようとして子の安慶緒に殺され、その報を聞いた叛軍の有力将軍史思明は独立行動を取る。

以後紆余曲折があって、乱が最終的に鎮圧されるのは763年であった。

付属の地図が貧弱なのと、細かな地名・人名が頻出して初心者にはわかりにくいところがあるが、総合的にはまあまあじゃないでしょうか。

これを読んだら、村山吉広『楊貴妃』(中公新書)は読まなくてもいいかなとも思っています。

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外山軍治 『則天武后』 (中公新書)

2、3年前に刊行されていた講談社新版「中国の歴史」の月報の中で、日本で外国の歴史について十数巻の全集を出せるのは中国史だけだという発言があって、確かにそうだなと思った記憶がある。

日本人から見た世界史における中国史の重みからして、初心者向きの入門書・啓蒙書の類いも文字通り汗牛充棟であり、他の地域の歴史とは段違いである。

よって中国史に関しては他の国の歴史にも増して、何を捨てて何を読むかの選択が重要なのですが、比較的重要な史実・人物に関するものであって他の通史での内容重複がない本を選ぶことになります。

本書もそうした観点から選びました。

唐代に現れた中国史上唯一の女帝の伝記。

読みやすくてなおかつコンパクトにまとめられていて非常に良い。

中公新書・文庫の良質な歴史読物の伝統を感じさせる本。

お勧めです。

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加藤徹 『西太后』 (中公新書)

19世紀後半の中国を支配した女傑の伝記。

「清朝滅亡の元凶」「冷酷・残忍・貪欲な女独裁者」といったイメージを退け、部分的な再評価も行いながら、淡々とその生涯を叙述している。

ただ、再評価はあくまで「部分的に」であり、その欠点や失政も容赦無く記している。

文章にリズムがあって非常に読みやすい。

史実の配分も適当で、説明も丁寧でわかりやすい。

著者の史的解釈や評言も知識の整理に役立ち有益である。

清末政治史として十分使える。

事前の予想より、読後感ははるかに良かった。

初心者向け入門書としてはかなりのレベル。

とりあえず買っときましょう。

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吉川忠夫 『侯景の乱始末記』 (中公新書)

『劉裕』がかなり面白かったので、同じ著者の本書も読んでみた。

仏教に耽溺し、絢爛たる貴族文化を背景に、南朝の最盛期を築いた梁の武帝の治世が、東魏からの叛将侯景の亡命を受け入れたことを事の始まりとして、無残に崩壊していく悲劇を叙述していく。

物語の展開としてはなかなか面白いが、初心者には少々読みにくい部分もある。

復刊希望が多く寄せられていて、古書にプレミア価格が付いているとも聞くが、そんなに大騒ぎするほど名著かなあというのが正直な感想でした。

まあいずれにせよ、早いとこ文庫化をお願いします、中央公論様。

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黄仁宇 『中国マクロヒストリー』 (東方書店)

タイトル通り、中国の国家・社会構造を巨視的に概観したもの。

初心者にはやや論旨が掴みにくいところもあるが、全く理解できないというほどでもない。

先に訳者あとがきを読んだらいいかもしれない。

著者は元国民党軍将校で、後にアメリカに移住。そこで1988年に書いた英文著書を翻訳したのがこれ。

堀敏一 『中国通史』 (講談社学術文庫)と似たタイプの本ですが、こちらは挫折せずに読み通せました。

内容はまあまあ。図書館で借りて気が向いたら買ってください。

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吉川忠夫 『劉裕』 (中公文庫)

東晋の跡を受けた南朝宋の建国者の伝記。

生き生きとした筆致で、歴史小説のように面白く読める。

まず東晋の歴史の復習ができる。

忠臣王導の功による建国、軍閥桓温の専横と死、謝安による政権安定と淝水の戦いでの前秦・苻堅撃退、桓温の子桓玄の台頭、対立する劉牢之の自殺と桓玄の専制。

劉牢之の部下であった劉裕は桓玄を打倒し、東晋王朝の第一実力者にのし上がる。

氐系苻氏の前秦滅亡後、華北は鮮卑系慕容氏の南燕、鮮卑系拓跋氏の北魏、羌系姚氏の後秦、匈奴系赫連氏の夏などが割拠する混乱状態にあった。

劉裕は北伐を行い、山東の南燕を滅ぼし、さらに後秦をも滅亡させ、ごく一時的にではあるが、洛陽・長安を回復する。

その勢威をもって禅譲を行わせ、宋の武帝として即位するが、在位二年足らずで病没。

ちなみにかつて劉牢之の下で劉裕の同僚であった詩人の陶淵明は劉裕の簒奪に対して批判的な詩を残している。

本書は事前に予想していたよりはるかに良かった。

この複雑極まりなく難解な時代を整理するための貴重な手段となりうる本。

印象深い叙述で史実の流れがよく頭に残る。

初心者にとっては非常にありがたい。

同著者で、同じ南朝時代を扱った『侯景の乱始末記』(中公新書)が何かやたらと名著だ名著だと騒がれているようなので借りてみたところ、さほど面白いとも思わなかったのだが、本書の出来からするとやはり素晴らしい本なのかもしれない。

本書と併せて是非復刊してもらいたいです。

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堀川哲男 『林則徐』 (中公文庫)

宮崎市定『隋の煬帝』礪波護『馮道』寺田隆信『永楽帝』などと同じく人物往来社「中国人物叢書」の文庫化。

ごく平易な文章で、読みやすい伝記。

清廉潔白で有能な官僚として順風満帆の人生を送ってきた林則徐が、アヘン問題への対応をめぐって世界史の舞台に踊り出る経過がよくわかる。

嘉慶帝・道光帝時代を通じて、アヘンの輸入増加による銀の流出・高騰が、地丁銀制のせいで一般民衆の過重な税負担に直結し、アヘン問題は道徳的・衛生的問題から経済的・社会的問題にまで発展する。

その対策として、林則徐は黄爵滋が唱えた、一定の猶予期間を経た上でアヘン吸飲者の死刑を含めた厳禁論に賛同し、1838年欽差大臣に任命され39年広州に赴く。

林は両広総督鄧廷楨、提督関天培らと協力して、アヘンの没収・廃棄に乗り出す。

その過程で、39年中に起こった武力紛争では、中国側が優勢であり、イギリスの首席貿易監督官チャールズ・エリオットは一時撤退を強いられる。

当時の清朝官僚の中では例外的に西欧事情に強い関心を持ち、有能な軍事組織者であることを立証した林だが、それでもやはり限界はあった。

林は、「中国はすべての物産を自給自足できるが、夷狄は必需品を中国に求めるほかない」という朝貢貿易の建前を疑わず、全面的な貿易途絶が必ずイギリスの屈服を齎すと信じていた節がある。

しかしイギリスは反撃に出る。当時の政府はメルボーン内閣(ホイッグ党)でありパーマストンが外相を務めていた。

現在の視点からだけでなく、当時からこの戦争は評判が悪く、出兵案の議会での承認はわずか9票差で可決された。

若きグラッドストンは堂々たる派兵反対論を議会で語っている。(なお当時のグラッドストンは尾鍋輝彦『最高の議会人 グラッドストン』によると保守党に属していたようである。)

イギリス以外の欧州列強においても、アヘン戦争は不評を極めたが、中国の時代錯誤の貿易制限は打破したいとの思いは強く、それゆえにイギリスの軍事行動への牽制は弱いものとなった。

ジョージ・エリオット(チャールズ・エリオットの従兄)を総指揮官とした総兵力4000人、軍艦16隻、大砲540門、輸送船等32隻のイギリス陸海軍が1840年6月中国海域に到着する。

林則徐は民兵を組織し、海上でのゲリラ的戦法で対抗し、イギリス軍は攻めあぐむ。

そこで英艦隊は北上し、浙江省寧波の沖合にある舟山列島の定海を占領する。

こうして戦線が広州に止まらず、華中におよぶ気配を見せると、清朝宮廷で和平・妥協論が急速に強まる。

さらに、イギリス艦隊が続いて北上し天津沿岸に現れると、皇帝のいる畿内から一刻も早く夷狄を追い払うために安易な妥協論が高まるのだが、これは現代の感覚からするとちょっと理解に苦しむところである。

清朝の敗因としては、軍事技術の劣勢だけでなく、官僚指導層の内部分裂、道光帝の恣意的指令など、政治意志上の欠陥も大きいのではないかと思えた。

イギリス軍の状況も磐石ではなく、定海占領中にマラリア・赤痢などで実に総兵員の一割にあたる400人が戦病死している。

林則徐は持久戦による抗戦継続を訴えるが、道光帝に退けられ、和平派の琦善が新たに欽差大臣に任ぜられ、林の組織した民兵は解散され、兵船は削減され、港の防御施設も多くが撤去された。

俄然強気になったイギリス軍は香港の割譲を要求し、拒否されると12月広州の清側砲台を攻撃・占領し、1841年1月に香港割譲・広州開港・公文上の対等などを内容とする穿鼻仮条約が結ばれる。

ところが英艦隊の天津退去を見た清朝宮廷ではまたもや強硬論が高まり、イギリスに宣戦するが、再び砲台を破壊・占拠され、勇将関天培も戦死する。

その後新たにイギリス側全権委員となったポティンジャーは軍を北上させ、厦門、鎮海、寧波、上海を次々と占領し、南京攻撃態勢を整えたところで、清朝は屈服し1842年8月史上有名な南京条約が結ばれる。

内容は高校世界史でも習いますが、確認すると香港割譲、広州・福州・厦門・寧波・上海開港、開港場への領事駐留、賠償支払、関税協定権付与、公行廃止、対等の国際関係確認。

翌43年には、五港通商章程で領事裁判権を承認、虎門寨追加条約で関税自主権喪失、片務的最恵国待遇、開港場における土地租借と居住権を承認する。

44年清・米間の望厦条約、清・仏間の黄埔条約でも同内容を認める。

最後の章では、その後の林則徐の経歴にも触れられている。

一時新疆地方のイリに追放されるが、その後帰京を許され、陝西や雲南に地方長官として赴任する。

彼は1850年に亡くなるが、本書の末尾に、最晩年のあまり知られていない史実が記されている。

1851年太平天国の大規模武装蜂起の以前からすでに問題となっていた上帝会の洪秀全一派を鎮圧するため、林が再び欽差大臣に任ぜられ討伐に向かったのだが、その途中で病を得て亡くなった。

もし彼があと数年生きていたら、清朝を守るため、かつてイギリスに対したのと同じように、太平天国軍とも勇敢に戦ったのは間違いない。

そうならなかったが故に、幸か不幸か共産中国成立後も林は「民族英雄」として扱われ続けたのだった。

前から読もうと思っていた本書をこの度通読しましたが、内容はまあまあでした。

真ん中あたりまで、林の前半生の官僚コースを記した部分はややタルいし、その後も期待したほどの面白さは無かったですが、基本的にはまずまずの良書と言えると思います。

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松本重治 『上海時代 下』 (中公文庫)

1936年12月、ついに驚天動地の西安事件が起こる。

「張学良による蒋介石への“兵諫”」という事件の概要をいち早く掴んだ著者は、南京政府の送電禁止令を潜り抜けて世界的なスクープを勝ち取る。

蒋介石と張学良の関係は元々良好で、1930年の汪兆銘、西山派、閻錫山、馮玉祥の反蒋運動の際には配下の軍を華北に進出させ、それを挫折せしめている。

満州事変で本拠を追われた東北軍は帰還を熱望するが、大局的見地から対日融和策を打ち出した蒋はそれを許さず、梅津・何応欽協定により東北軍を河北省から撤退させ、西北部延安の共産勢力討伐に従事させる。

蒋としては依然張学良を信頼し、「安内攘外」策の最終段階で活躍の場を与えたつもりだったが、張は東北軍が紅軍との戦いで消耗するのを待って整理・排除されるのではないかと疑心暗鬼を募らせる。

この時期、33年ヒトラー政権の成立を受けたコミンテルンは「人民戦線」路線を打ち出し、広く統一戦線を求める方針に転換している。

中共も同様の路線で、高まる一方の抗日感情を利用し、「中国人は中国人と戦わず」とのスローガンで、延安と対峙する東北軍・西北軍将兵に猛烈な宣伝戦を仕掛け、相当程度の効果を挙げる。

このような情勢下で西安事件が勃発し、蒋介石・張学良・周恩来の微妙で複雑な交渉の後、「内戦停止」を暗黙の了解として蒋は解放され南京に帰還する。

松本氏は、張によって軟禁される前に蒋介石が東北軍・西北軍の戦意喪失状況を見て、共産党討伐の一時停止もやむなしと考えており、それが事件勃発後の蒋の態度にも反映しているのではないかと推測している。

南京帰還後の蒋介石は「内戦停止」には同意したものの、それを「一致抗日」にまで即、進めることには依然慎重であった。

狙撃・負傷後の療養・外遊から帰国した汪兆銘も、共産党の脅威を知り尽くしているだけに同様の態度を取る。

1937年2月の国民党三中全会でも、日本側に冀東政権の解消など華北行政主権の維持を強く要求したものの、人民戦線派の「抗日即戦主義」は退けられ、共産党との合作にもソヴィエト政権の解消、三民主義の尊重、階級闘争の停止など厳格な条件を課せられた。

37年日本では広田内閣総辞職後、短期間の林銑十郎内閣を経て、6月第一次近衛文麿内閣が成立する。

中国での反日感情が一層激しさを増し、不穏な情勢が深まりつつある中で、7月7日北平(北京)近郊の盧溝橋で日中両軍の偶発的な衝突が起こる。

最初は小規模な事件であり、現地軍の橋本群参謀長の努力もあり、何度か停戦協定が結ばれるものの、その度に新たな衝突が起こり、雪ダルマ式に戦闘規模が膨れ上がっていく。

中国側の宋哲元、秦徳純らの指揮官も配下の将兵の抗日風潮を抑えきれなくなっていた。

東京では拡大派と不拡大派が激しく対立するが、不拡大派の石射猪太郎外務省東亜局長、石原莞爾参謀本部作戦部長、多田駿参謀本部次長などの努力も実らず、7月27日内地三個師団の動員令が発令されてしまった。

この決定は国民政府に大きな衝撃を与え、蒋介石は「最後の関頭」に至れば徹底抗戦の他なしと演説する。

全面戦争を避けるため、石射局長が陸海軍中央と協議して、塘沽停戦協定、梅津・何応欽協定、土肥原・秦徳純協定、冀東政権、冀察政権を全て解消する代わりに中国側は満州国を問題視しないとの密約と、防共協定締結、邦交敦睦令の徹底、経済・貿易協力の拡大を承認するとの和平案が提示されるが、交渉が本格化する前に8月13日上海で日中両軍の衝突が起こり、頓挫する。

この第二次上海事変で戦火は中国経済の心臓部たる華中にも飛び火し、全面戦争の気配が濃厚となる。

この時海軍良識派の代表である米内光政海相が、海軍陸戦隊と在留邦人の危機を訴えて陸軍よりも強硬に出兵を主張したことが、良識派扱いされる軍人にしてはあるまじき重大な過ちと福田和也氏などは書いているが、本書では特に触れられていない。

(ちなみに上海近辺の戦いで国民政府軍事顧問のゼークト将軍の指導で作られたクリークなど防衛設備に日本軍が苦戦するのを見て、松本氏は「この日中戦争は一面では日独戦争である」との文章を雑誌論文で書いたところ、前年日独防共協定が結ばれていたことを慮った編集部に削除されたそうである。)

10月米国大統領ルーズヴェルトはシカゴでいわゆる「隔離演説」を行い、日独伊を国際政治上の危険な勢力と見做すことを明らかにし、日本の将来に不吉な影が差す。

11月中国軍は華中で総退却を始め、12月には首都南京も陥落するが、すでに蒋介石が長期抗戦の構えを見せていた以上、無意味なものに過ぎなかった。

11月から始まっていた駐華ドイツ大使トラウトマン、駐日ドイツ大使ディルクセンによる和平工作、いわゆるトラウトマン工作も南京陥落の情勢を見て和平条件を吊り上げようとする日本陸軍の近視眼的態度によって挫折する。

翌1938年1月近衛内閣は「爾後国民政府を対手にせず」との声明を出し、事態収拾に一層の困難をきたす。

だが泥沼化する一方の戦局に、日中双方の和平派が再び動き出す。

6月近衛内閣の改造が行われ、就任した宇垣一成外相の下、様々なルートで極秘の交渉が行われる。

汪兆銘、周仏海、董道寧、高宗武、梅思平など中国の和平派との交渉に著者自身も加わることとなる。

蒋介石の自発的下野、満州国の承認、長城以南の領土的行政的主権の堅持、華北の一部における防共のための一時的駐兵を除く日本軍の総撤兵を主な内容として話が進められ、日本側の撤兵意思声明を出して後、中国側で大々的に和平運動を繰り広げる手筈となる。

12月汪兆銘は重慶を脱出するが、直後に出された近衛声明には「全中国からの撤兵」の文字は無く、和平運動に暗雲が立ち込める。

著者はこの38年12月で上海から離れ、本書はここで幕を閉じる。

汪脱出時、期待された、雲南の竜雲、広東の張発奎など地方軍閥の蒋からの離反は起こらず、汪ら和平派は極めて厳しい道を歩まざるを得なくなる。

以後の話は杉森久英『人われを漢奸と呼ぶ』(文芸春秋)犬養健『揚子江は今も流れている』(中公文庫)を併読すると、非常に良いでしょう。

長々と書き過ぎて申し訳ありませんが、自分なりのポイントをできるだけメモしておこうとするとこうなりました。

本書は非常に良い。文章が読みやすい上に、内容は濃い。

著者の個人的体験と日本側の外交官や軍人、中国側の要人との接触が豊富に記されていてそれが臨場感のある叙述になっている。

そういう個別的な記述と共に、日中関係の大局的な観点からの解説も要を得ており、わかりやすい。

史実の流れがスラスラ頭に入ってきて、非常に便利な本。

この本は末尾の南京事件の記述で、右派的な一部の人からは目の敵のように批判されているらしいが、それだけで読まないのはもったいない。

強くお勧めします。

ただ品切れなのが、何とも残念。ネット古書店ではすぐ見つかりますが、できれば常時新刊として手に入るようにしてもらいたいもんです。

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松本重治 『上海時代 中』 (中公文庫)

1935年6月梅津・何応欽協定と同時に、国民政府は「邦交敦睦令」を発布し排日運動とそれを利用する反蒋・反汪派の取り締まりを強める。

だが同月、華北ではさらに土肥原・秦徳純協定が締結され、国民党勢力はチャハル省からも撤退を強いられる。

年末には天津軍の圧力によって冀東防共自治政府が成立。華北分離工作がさらに進行する。(ほぼ同時に冀察政務委員会が成立するが、これは国民政府が日本の圧力をかわすため作ったもので、一応は中央の統制化にある自治組織で、南京からの分離を明言し傀儡的性格の強い冀東政権とはやや異なる。)

日中間の破局を避けるには満州国のみを固守し、長城以南の中国本土への進出は厳に慎むことが必要であると、著者を含めた心ある人々は考えるが、残念ながら歴史はそのようには展開しなかった。

中国国内では排日世論が大きな高まりを見せ、長征の最中の中共は八・一宣言を発表し、この事態を最大限利用しようとする。

抗日テロや知日派中国人への暗殺も横行し、11月には汪兆銘が狙撃され重傷を負い、12月には汪の下で対日外交に従事した唐有壬外交部次長も射殺され、蒋・汪合作政権は崩壊する。

またこの1935年にはリース・ロスを介してイギリスの支援を受けた国民政府の幣制改革が行われ、蒋は経済的にも全国統一を進めることになる。

この幣制改革を日本が財政的に支援していれば、中国の対日世論を大いに改善し、中国自身は難しくとも、イギリスはこの時点で満州国を承認した可能性があり、そうなれば以後の歴史は相当変わっていただろうというのは、岡崎久彦氏や福田和也氏がその著作で何度か言及している「歴史のif」だが、著者の松本氏はあまり本書ではそういった視点に触れていないようである。

汪遭難後、蒋は自ら行政院長に就任、張群外交部長、蒋作賓内政部長、何応欽軍政部長など知日派を多く含んだ内閣を組織し、日本の強攻策と国内の排日世論の狭間を通り抜ける際どい政権運営を続ける。

明けて1936年、日本では二・二六事件が勃発、岡田内閣が倒れ、後継の広田弘毅内閣で陸・海軍大臣現役武官制が復活、軍の政治介入がますます強まり、対中政策の硬直性も一層酷くなる。

共産党を西北辺境に敗走させ、各地方の軍閥を整理・解消し、最後まで半独立の形勢を保っていた「西南派」たる広東・広西の李宗仁、白崇禧、陳済棠も屈服させ、幣制改革も成功させた蒋は自信を深めると同時にこれ以上排日世論を抑えることは困難と考える。

36年中、断続的に行われた関係改善のための日中外交会談において、中国側は冀東政権の解消などを日本側に要求することとなり、日中両国は不幸な衝突路線へと突き進んでゆく。

11月に関東軍の支援を受けた内蒙古自治運動軍が、傅作義率いる中国軍に破れるという綏遠事件が起こり、中国のナショナリズムは一層燃えさかる。

胡適など反共自由主義の立場を堅持した人は急進的な対日強硬論一辺倒を退けるが、ほとんど影響力を持たない。

共産党と左派知識人によって煽り立てられた排日・抗日世論にはますます激化し、国民政府の政策選択の余地を狭め、不幸な全面戦争への足音が一歩一歩近付いてくる。

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松本重治 『上海時代 上』 (中公文庫)

ネタが無いのと、かなり読み応えのある本だということで、上・中・下巻を分けて記事にします。

1932~38年に通信社特派員として主に上海に駐在したジャーナリストによる回顧録。

日本の運命を決した数年間の日中関係史を迫真の文章で綴る本。

著者が赴任した当時の中国は、北伐によってようやく全国統一の兆しが顕われると同時に、満州事変によって日中間の緊張が高まる不穏な情勢下にあった。

北伐完了後も蒋介石の地位は磐石とは言えず、胡漢民派、汪兆銘派、孫科(孫文の子)を長とする「太子派」、西山派(右派長老組)などの対抗勢力の反対によって、一時下野を強いられる。

1931年には孫科が行政院長に就任するが、同年満州事変が勃発すると挙国一致の世論が高まり、それを利用した蒋介石の反対派切り崩し策が功を奏し、翌年には汪兆銘を行政院長、蒋を軍事委員長とする蒋・汪合作政権が成立する。

1935年まで存続するこの政権は満州事変後国内に高まる強硬論を可能な限り抑え、蒋の「安内攘外」、汪の「一面抵抗・一面交渉」をスローガンに対日融和策を打ち出す。

33年に塘沽停戦協定を結び、満州国の存在を当面黙認することにより、日中間に小康状態を確保した後、中国共産党殲滅に全力を挙げる。

1927年蒋介石による上海クーデタの際、国民党左派の汪兆銘は一時武漢で容共的な国民政府を組織したことがあったが、その直後共産党の独裁への野心を知り、即座に分離した後は極めて強い反共的信念を持つようになっていた。

蒋・汪政権の「剿匪」作戦は大きな成果を上げ、34年には瑞金のソヴィエト政権を壊滅させ、中共は後世「長征」と呼ばれることとなる大敗走に移る。

国民政府による排日運動取り締まりと対日接近外交によって、1935年初頭には日中間の緊張も大いに緩和され、両国の外交関係者の間には「日中合作」の期待が高まった。

当時の日本は32年五・一五事件で犬養内閣が倒壊した後、海軍穏健派出身の斉藤実内閣(32~34年)、岡田啓介内閣(34~36年)が二代続き、極端な対中強攻策を避け、有吉明大使の融和親善外交が展開された。

しかしここで親日派中国人を狙った抗日テロと、関東軍・天津駐留軍による「北支工作」(「華北自治工作」)が始まってしまう。

これによって運命の歯車が狂い始め、共産党以外の全ての当事者にとって破滅的な結果を齎すことになる。

35年6月梅津・何応欽協定によって日本側は河北省から国民党勢力を撤退させる。

以後、日本軍が華北を中央から切り離し、事実上の勢力化に置こうとする策動が続き、それに対して中国の抗日世論が沸き立ち、しばしば抗日テロが起こされ、それが日本の武力行使を招くという敵意と憎悪の悪循環が繰り返され、日中両国が奈落の底に落ちていくこととなってしまう。

そのような不吉な赴きを示唆しながら、本書の上巻は幕を閉じる。

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陳舜臣 『中国傑物伝』 (中公文庫)

以前、この人の本はあまり好きではないと書いたが、これはまあまあ良かった。

ややマイナーな人物を含む中国史伝記集。

歴史読物として良質な部類に入ると思う。

特に前漢の宣帝の話などは面白かった。

暇があればどうぞ。

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三田村泰助 『宦官』 (中公文庫)

宮崎市定氏の『科挙』と並んで中公文庫(両方とも元は中公新書だったのを文庫化)の中での中国社会史啓蒙書の超ロングセラー。

宦官制度の概略を記した後、その害毒が極めて大きかった漢・唐・明の三王朝について大まかな史実を叙述していく構成。

定評ある本だけに内容は手堅い。

すごく面白いということはないが、通読しても損は無い。

お勧めします。

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植村清二 『万里の長城 中国小史』 (中公文庫)

著者は戦前の旧制高校での名教師として有名だったらしいが、私には良さがわからない。

本書もごく平凡な通史としか思えず、退屈に感じて最後まで読まなかった。

再読したら印象が変わるのかもしれないが、今のところ強いて読み返す気になれない。

機会があればどうぞとだけ言っておきます。

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礪波護 『馮道』 (中公文庫)

唐滅亡後の動乱時代に五代各王朝のうち後梁を除く後唐・後晋・後漢・後周に仕えた文民官僚で、後世変節漢扱いされた人物を再評価した伝記。

高校世界史で名前の出る人物ではなく、個人的にさほどの興味も無かったので、私はこれを五代史の概説として読んだ。

あまり主人公の経歴に密着した作品ではなく、時代背景に紙数を費やしており、五代の政治史としてはかなり詳細で役に立つ。

手堅く内容の濃い良書。お勧めします。

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寺田隆信 『永楽帝』 (中公文庫)

極めて標準的で読みやすい入門書。

明帝国の建国から、帝位簒奪、モンゴル親征、鄭和の南海遠征、ティムールとの対立、足利義満時代の日本との交流、ヴェトナム出兵、『永楽大典』などの文化事業と、治世の全般に亘ってわかりやすく丁寧に解説されている。

系図や地図が的確な箇所に付されているのも実に親切。

中公文庫にはこういう良質な伝記作品が多く収録されていて非常に良い。

世界史愛好者の端くれとして、あらゆる文庫・新書シリーズのなかで私は中公が一番好きである。

ただ、聞くところによると1993年辺りまで中公文庫は基本的に品切れを出さず、刊行した本はすべて在庫を持ち続ける方針だったそうで、それを知ると今と比較してため息が出る。

時代の流れだから、そういうごく良心的な仕方を続けられなかったのもしょうがないでしょうね。

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『宮崎市定全集 16 近代』 (岩波書店)

大学時代この全集の刊行予定を知って、思い切って全巻揃えようか相当迷った。

本来私は歴史家の個人全集など読破する知力も根気も無いのだが、宮崎氏だけは何とか挑戦してみようかという意欲が湧いてくる。

結局一般読書人向け著作の多くが文庫化されているので、買わなかったのだが、この巻だけは手に入れて通読。

数ある中国史家のうち御大だけは私の中で完全に別格の存在である。

著名な学者でこれほど素人が掛け値無しに面白いと思える本を書いてくれる人はいないだろう。

本書の中心の『中国のめざめ』は後に中公文庫に入ったが、その他の概説や論文も一読すれば大いに有益だと思います。

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堀敏一 『中国通史 問題史としてみる』 (講談社学術文庫)

恥ずかしながら、また途中で挫折した本です。

副題の通り、中国史の様々な論点についてこれまでの学説を簡単に紹介しながら大局的な視点を提示する本。

内容は濃いがそれほど長大でもなく、初心者でもついていける難易度。

良書だとは思うんですが、どうも個人的な趣味に合わず途中で放り出してしまいました。

通読すればかなり有益な本だとは思いますんで、機会があればどうぞ。

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陳舜臣 『小説十八史略 1』 (講談社文庫)

この人は中国歴史読物の作者としては大家だし、著作も膨大な数に上るが、どうも好きになれない。

このシリーズも1巻は読んだが、2巻の途中で面倒くさくなって放り出してしまった。

私みたいな万年初心者にとって、本来この人の著作は適当と言えるんでしょうし、読みやすいとは思うんですが、何か物足りない。

とは言え単に私の好みの問題ですから、皆様はどの作品でもいいから書店か図書館で一度手にとってみて下さい。

もし趣味に合えば、著作の数を考えると楽しみが極めて大きいと言えるでしょう。

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那珂通世 『支那通史 上・中・下』 (岩波文庫)

1998年ごろの記念復刊時に購入。

日本の東洋史学黎明期に現れた名著。

十八史略と同じく、記述範囲は太古から南宋滅亡まで。

しかし全く読みこなせず上巻途中で挫折。

内容がどうこう言う前に、この漢文読み下し文は私にとって1、2ページ読むのも苦しい。

初心者が無理して読むような本ではありませんでした。

ただこの本はまあいいとして、思えば内藤湖南の著作もまともに通読した本は一冊も無い。

さすがにちょっと恥ずかしいので、自分でも読めそうなものを図書館で探そうかと思う。

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宮崎市定 『東洋的古代』 (中公文庫)

本書の存在自体は知っていたが、宮崎氏の他の啓蒙書に比べて、やや難しそうだなと今まで敬遠していた。

確かに、真ん中あたりにある「史記貨殖伝物価考証」は全部理解しようとすると頭が痛くなってくるが、他にはさして難渋な部分は無い。

全般的にみてかなり良い。いやー、やはり御大の著作に食わず嫌いは許されませんね。

岩波から御大の個人全集が出たとき思い切って揃えようかと真剣に悩みましたが、一般向け著作はほとんど文庫化されているので思い止まりました。

あと全集の中で初心者でも読みやすい部分として、北宋と南宋の政治史概説と近代の巻にあるいくつかの論文(中公文庫『中国のめざめ』として出されたもの以外)があるはずなので、何とか文庫化してもらいたいもんです。

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立間祥介 『諸葛孔明』 (岩波新書)

三国志関係で山ほどある啓蒙書の中では、しっかりした内容を持つ本だと思う。

この種の関連本は読み出したらキリが無いし、あくまで世界史の中の中国史の一分野として受け止めて、深入りは避けましょう。

とは言え面白そうな作品も多いんですけどね。

私自身も、福田和也『作家の値うち』(飛鳥新社)の中で、北方謙三の『三国志』(角川春樹事務所)が、日本人の書いた三国志のうちで最も原典のニュアンスを伝えている出色の出来と書かれているのをみて、読もうかなと以前から迷っているところです。

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寒山碧 『鄧小平伝』 (中公新書)

1980年代半ばに香港で出た伝記の抄訳。

人民共和国建国後の中国を何とか現実主義路線に乗せようと毛沢東・林彪・江青と対立した鄧を好意的に描く反面、改革開放政策実施後も共産党統治体制を否定するような自由化は断固として拒否したことも明記している。

抄訳のため記述は簡略。だが普通の日本人読者にとってはこの程度の方がいいでしょう。

特に欠点も無く、手堅い良書。

中国現代史のサブテキストとして有益です。

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井波律子 『三国志演義』 (岩波新書)

明代に成立した『三国志演義』に先立つ、三国時代関係の民間伝承や歴史物語を参照しながら、『演義』の成り立ちを探る本。

結構面白いです。

とりあえず買っておいて、暇なときページを手繰るだけでもいいと思います。

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横山宏章 『中華民国』 (中公新書)

これは最後まで読んだのかな・・・・・?

多分途中で投げ出したんだと思うけど。

確か内容は辛亥革命後、「絶対善」扱いの孫文と「絶対悪」扱いの袁世凱の両者に権威主義的統治への志向という共通点が濃厚にあったというものみたいです。

結局近代の中国はあらゆる種類の急進主義によってズタズタに引き裂かれたような感があります。

そんな中で中庸と穏歩を貫いた人々というと康有為、宋教仁、胡適などでしょうか。

ただの表面的印象で不勉強な私にはわかりませんが。

博識な人がそういう穏健で懐疑的な視線で書いた、中国近現代史を読みたいものです。

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ベンジャミン・シュウォルツ 『中国共産党史』 (慶応通信)

著者のシュウォルツはアメリカの中国研究では有名人らしく、この本も各種の国際政治関係の本で参考文献として挙げられており、良書と言われているそうなので取り寄せて読んでみた。

しかし読後感はあまり芳しくなかった。

史実がわかりやすく頭に入るわけでもなし、独創的な視点に感心させられるわけでもなし。

まあ読み手の私にも問題があるんでしょうけど。

フェアバンクの『中国』と同じく、どうも欧米人にとって最適な入門書と日本人にとってのそれにはズレがあるように思える。

私としては特にお勧めはしませんが、良くない本だと断言もしないでおきます。

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竺沙雅章 『征服王朝の時代 (新書東洋史3)』 (講談社現代新書)

これを読んだのは確か浪人時代だったはず。

駿台予備校の模試の解説で参考文献として挙げられているのを見て買ったような覚えがある。

苦手科目の勉強もせず、そんなことしてるから第一志望に落ちるんですね。

それはともかく・・・・・。

コンパクトで理論的な話はなかなか面白かったような気がする。

しかし新書版だけにエピソードや挿話の類いは少なく、物語としての面白みは少ない。

可もなく不可もなくといった感じ。

この新書東洋史の中国史の部分はちょっと微妙ですね。

馴染みのない東南アジアや中央アジアの巻は簡略で手ごろな入門書だと思うんですが。

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井上靖 『敦煌』 (新潮文庫)

これは佐藤浩市と西田敏行主演の映画を先に見た。

それがかなり面白かったので、原作を読む。

まあまあ面白いです。

宋と西夏の対立を背景にした歴史小説。

著名な政治的史実を扱ったものではないですが、当時の社会の雰囲気を描いたものとしては非常に良いのではないでしょうか。

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司馬遼太郎 『台湾紀行 (街道をゆく40)』 (朝日文庫)

「街道をゆく」シリーズでは「朝鮮」のカテゴリに入れてる2巻『韓のくに紀行』と並んで面白いと思った。

週刊朝日で連載されていたときからリアルタイムで読んでいたので個人的には印象深い。

巻末に当時の総統李登輝氏との対談が載っているが、これは李氏が独立派的心情を最初に洩らした機会となり、大げさに言えば国際政治上の一事件ともなった。

当時紀伊国屋書店で香港で発行されている「亜州週刊」という雑誌を立ち読みしていたら、この対談のことが特集されていて、確か司馬氏が「日本右翼作家」なんて批判的に紹介されていた(もちろん私は中国語など全くわからないので見出しなどをちらっと見ただけだが)。

いろいろ批判もあるようですが、最初に読む台湾入門書としては優れていると思います。

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小島晋治・丸山松幸 『中国近現代史』 (岩波新書)

アヘン戦争から1980年代の改革開放政策までの通史。

新書版にしては厚めで情報量が多い。

それはいいんですが、史実の選択と評価については、文革全面否定によって修正された上での、いかにも岩波的な史観から一歩もはみ出すことがない。

良く言えば手堅い、悪く言えば退屈、そういう本です。

一読したのは無駄ではなかったとは思うが、再読するほどの本ではないなあというのが正直なところ。

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ジョン・フェアバンク 『中国 上』 (東京大学出版会)

読んだのは上巻だけ。

アメリカの中国研究の大御所が書いた入門書。

中嶋嶺雄氏も『国際関係論』(中公新書)末尾の基礎文献リストで推奨していた。

しかしあまり面白いとは思わなかった。

アメリカ人にとって最良の入門書でも、日本人にとってはそうとは限らないし、そんなに有り難がることもないのかなというのが正直な感想です。

本書について以上のような印象を受けていたので、同じ著者の『中国の歴史 古代から現代まで』(ミネルヴァ書房)を書店で見かけたとき、ぱっと見面白そうだったのだが、結局買わなかった。

興味のある方は図書館で借りてお確かめ下さい。

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岡崎文夫 『隋唐帝国五代史』 (平凡社 東洋文庫)

『魏晋南北朝通史 内編』の記事で、本書を「読んだかどうかすら覚えていない」と書きましたが、よく考えたら読んでますね。

読んだことは間違いない。ただ内容はほとんど頭の中に残っていない。

ちょっと古い本ですが、政治史を中心としたオーソドックスな記述なので私でも通読できたんでしょう。

私にとっては少し程度が高いですが、いい本だとは思いますんで、機会があればどうぞ。

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中嶋嶺雄 編 『中国現代史』 (有斐閣)

私が読んだのは1981年初版の旧版である。今は1996年刊の新版が出ているようだ。

アヘン戦争以後から改革開放政策確立までの中国史。

編者が中嶋嶺雄氏だし、しっかりした内容だろうと思い購入。

しかしどうも面白くない。

多数の執筆者が分担して各時代を書いているのだが、特筆すべき点が無い。

可も無く不可も無くといった文章が続き、最後の中嶋氏の中華人民共和国史に至る。

ここはさすがに手堅いが、中公新書の『中国 歴史・社会・国際関係』とは別にあえて読む必要があるかと言うと微妙。

私の感想が偏っているのかもしれないが、今まで再読の機会が無かったので何とも言えない。

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岡崎文夫 『魏晋南北朝通史 内編』 (平凡社 東洋文庫)

中国史の中で多くの王朝が浮き沈みし、最も複雑な展開を示した後漢滅亡から隋唐帝国による再統一までの大分裂時代の政治史。

読んだことは間違いない。間違いないのだが、内容はさっぱり思い出せない。

もう一つ岡崎氏の著書で、同じ東洋文庫に『隋唐帝国五代史』が収録されているが、こちらは買った記憶はあるが、読んだかどうかすら思い出せない。

ネタ不足でこんな調子で紹介せざるを得ない本が多くてすみませんねえ。

書かれたのは確か戦前で時代を感じさせる文章で、一部読みにくかったが格調のある文体だなあと思ったことも同時に覚えている。

まあ私程度の読者が何とか通読できたのだから、その点だけでも良書と言えるのかな。

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ユン・チアン ジョン・ハリディ 『マオ 誰も知らなかった毛沢東 上・下』 (講談社)

少し前に大いに話題になった毛沢東伝だが、ちょっと問題あり。

よく引用されるが、張作霖爆殺がソ連秘密機関の仕業だとか書かれると、どこまで信用していいものやら不安になる。

特に共産党の全国制覇までの前半部分は毛沢東の悪意で何でもかんでも説明しすぎではないか?

言うまでも無く、長征から反右派闘争まで二十年余りの期間、中共は無謬だったなんていう阿呆な与太は全く信じる気にならない。

延安をはじめとする「解放区」の悲惨な実態はその通りだと思うし、整風運動が粛清の恐怖を背景にした洗脳運動だったこと、日本軍や国民党だけでなく共産党も阿片販売を資金源にしていたのも事実だろう。

こういう史実を暴いて毛を強く批判することは当然だと思うのだが、それと毛の「悪魔化」はやはり違うのではないか。

(著者のユン・チアンはじめ毛の統治下で甚大な被害と苦しみを受けた人にとっては、それも実感なのだろうが)

後半、毛が全能の独裁者になった後はこういう違和感はやや薄れる。

しかし内容的には以前記事にした『毛沢東の私生活』とかなり重複してしまう。

建国後の毛は失政の連続なので、離反・失脚した彭徳懐・劉少奇・鄧小平はやや理想化されるほど評価が高いが、周恩来の評価はガタ落ちである。まあこれはしょうがないか。

通して読んでみると面白いとは思うが、全般的評価に関してはちょっと留保せざるを得ない。

私は読了した後、処分してしまった。文庫化された場合また買い直すかどうか迷っている。

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伊藤潔 『台湾』 (中公新書)

新書版で手軽な台湾史入門書。

オーソドックスな年代順の章立てをまもっているので、読みやすい。

内容はかなり台湾独立派寄りか。

なおカテゴリを「中国」にしているのはこれ以上のカテゴリ乱立を防ぐためで他意はありませんのであしからず。

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塚本青史 『呂后』 (講談社文庫)

宮城谷昌光氏と同じく、この人も中国史を題材に採った歴史小説を多数書いてる人だが、どうも積極的に読む気がおきない。

本書は私の好きな前漢時代を扱ったものなので、読んでみたが何か俗っぽい描写が多くあまり感心しなかった。

劉邦死後の宮中内抗争のあらましを楽に頭に入れられるのはいいんですけどね。

司馬遼太郎の『項羽と劉邦』と比べるのはあまりに酷ですが、まあ正直雲泥の差があります。

塚本氏の文章が趣味に合う人なら、宮城谷氏と同じく著作が多いので読み応えがあるでしょう。

一度書店か図書館で手にとってお確かめください。

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田村実造 責任編集 『世界の歴史 9 最後の東洋的社会』 (中公文庫)

前にも書きましたが、本シリーズでの中国史の完成度は極めて高い。

これまでの研究の蓄積から、素人にも読みやすく面白い要素を抽出して、それを達意の文章で表現してくれている。

その他インド史、西アジア史、朝鮮史の部分も簡略ながら非常に良い。

西アジア史の章では、「この分野の研究は日本ではまだまだ日が浅いので、以下の叙述も不十分なものとなる恐れがある、これから優れた研究者が多くでることを期待したい」みたいな楽屋話がいきなり出てきてちょっと驚くが、それでも十分面白い。

全般的に見て非常に優れた啓蒙書に仕上がっている。

残念ながらこれだけ手放しで賞賛できるのは本シリーズではこの巻が最後になるのだが。

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衛藤瀋吉 『近代東アジア国際関係史』 (東京大学出版会)

えらく硬いタイトルだが、東大での国際政治学の講義を活字にしたもので、話し言葉に近く読みやすい。

『眠れる獅子』や著作集の『二十世紀日中関係史』との重複も多いが、変な偏りのある本を多く読むより、こういう本をしっかり読んだ方がいいと思う。

ただ末尾に近くの、日米開戦以後の部分は面白さがガクンと落ちます。

避けようも無い惨敗の描写となりますので、それも仕方ないでしょうが。

先の大戦への評価について本書はかなり否定的だが、私はそれを「自虐的」と切って棄てる気は無い。

著者の立場に必ずしも同意するものではないが、歴史の基礎的素養を得る本として優れていることに間違いないと思う。

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宮崎市定 責任編集 『世界の歴史 6 宋と元』 (中公文庫)

ついに来ました、宮崎御大の編集の巻。

弟子の佐伯富氏との共著で御大執筆の章は全体の半分くらい。

佐伯氏の文章が悪いわけではないが、できれば御大の単独執筆にして貰いたかったものである。

ですが最初の方の章で御大がいきなりカマしてくれます。

ちかごろ、「起義」という言葉がはやる。専制政治の下で起こった反乱はすべて反乱軍の側に正義があるので、反乱はすなわち正義のためにたち上がった壮挙であるという見方である。

従来の歴史はもっぱら為政者側の記録をもとにして編集されているから、当時の政権に反抗する運動は、事の是非を問わず一律に反乱、すなわち不当行為として扱われてきた傾向があり、この点は考えなおす必要があろう。

さりながら、従来の記録はすべて政府側におもねったもので、反乱軍の行動に関する好ましくない記述はみなでたらめだということにしたらば、これは新しい史観の行き過ぎというものであろう。

極めてオーソドックスでありながらわかりやすい史実の叙述、その整理に役立つ評言、豊富で面白い挿話、印象深い人物描写が全編高水準で続く。

最高。言うこと無し。

本シリーズでの最も出来が良い巻であるのみならず、どの概説書と比べても劣ることのない内容を持っている。

他の巻は読まずとも、この巻だけは買ってください。

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塚本善隆 責任編集 『世界の歴史 4 唐とインド』 (中公文庫)

順調に4巻目に来たこのシリーズだが、この巻ではじめてつまづく。

歴史専門家ではなく、仏教研究家が書いたためか、やや難渋で読みにくい部分がある。

少々面白みに欠け、ひょっとしたらこの巻で挫折してしまうのかとも思ったが、何とか通読。

後でパラパラ読み返すと、面白そうな記述も多く、初読の際よりは良い印象を持ったが、やはり今までの3巻に比べるとやや落ちるか。

まあそんなに酷くはないので、とばさず読破しましょう。

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貝塚茂樹 責任編集 『世界の歴史 1 古代文明の発見』 (中公文庫)

いわゆる中公旧版の世界史全集第1巻。

白状すると各社各種の「世界の歴史」で全巻通読したのはこのシリーズだけである。

刊行年代は1960年代初期という古さだが、中身は他のシリーズに勝るとも劣らない。

まず初心者が物語として読んで面白いという点を何より重視して、最後までそれに徹しているのが素晴らしい。

図式的で平板な記述はできるだけ避け、豊富な挿話やエピソードを交え、魅力的な人物描写に力を注ぎ、時に学界の内輪話で息継ぎをするという感じ。

著者の努力はもちろんだが、本シリーズについては中公側の編集者がよほど優秀だったのだなと思う。

以上の方針を徹底させるため、著者にビシバシ意見したであろうことは容易に推察できる。

最初の巻である本書においても、貝塚氏ら著者のサービス精神がよく発揮され、北京原人から始まり、いわゆる四大文明の盛衰を描いた、面白い通史に仕上がっている。

後漢以後とオリエント末期がやや駆け足なのは残念だが、入門書としては十分の出来。

以後の巻を記していくにつれて、かなり腐すこともあるかと思いますが、初学者向けの本として基本的には非常に優れた面があることを認めた上の批判であることをご考慮ください。

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本田濟・訳 『漢書・後漢書・三国志列伝選』 (平凡社)

すみません、これも買っただけです。

正史でも、『史記』を完全に別格として、この三つは著者の個性の出た良作との評価が定着しているようである。

それが一冊になっているので便利だなあと思い買ったのだが、確か最初の「司馬遷伝」を読んだだけで挫折してしまった。

漢書・後漢書の部分を読み通すのはやはりかなり苦しい。

ただ三国志の部分は収録人数が少なくやや物足りない気もする、って読んでないのに私が言えた立場じゃないですね。

今はもう品切れで新刊としては手に入らないみたいです。

図書館で借りて、難易度を確認してから買うのも良いと思います。

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班固 『漢書列伝選』 (筑摩書房)

すみません、買っただけです。

中国正史において、隔絶した傑作である『史記』に次いで重要と思われる『漢書』ではあるが、とてもじゃないがちくま学芸文庫の全訳は読み切れない。

本書は『漢書』のうち、『史記』と重複する部分を除いて、主要な十数人の人物の伝を集めたものなので、これならと思い買ってみた。

しかしほんの数ページ読んだだけで挫折。

時間を置いて、もう一度挑戦してみたが同じ。

ろくに読んでないので何とも言えない。

存在だけは紹介しておきます。

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曽先之 『十八史略 上・下』 (近藤出版社)

『十八史略』とは太古から南宋の滅亡までの中国史を、正史を中心にしたさまざまな史書から抜き出した記述で構成した本。

ごく簡略な史書で俗書と貶められてきたが、日本では初学者向けの入門書として江戸時代から重宝されてきたそうである。

だが現在、陳舜臣の『小説十八史略』はじめ、原作にさまざまな記述を水増しして書かれた本はあるものの、原作本文だけを忠実に訳した本というのがなかなか無い。

本書はその稀な例外である。

漢楚の争いや三国などよく知ってる時代はやはり退屈だが、後漢の建国や南朝の興亡などはこの程度の簡略な記述がわかりやすく面白い。

ただやたら版形がでかいのがかなわない。こういう本は文庫でいつでも手に入るようにしてもらいたいもんです。

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宮崎市定 『中国に学ぶ』 (中公文庫)

歴史・思想・時事・学界など多分野にわたるエッセイ集であるが、他の学者ならつまらない雑文集に堕すところ、御大の手に成るものだけに珠玉の一品となっている。

中国史学の発展や太平天国への評価、内藤湖南など先達への敬意に満ちた紹介など、実に面白くて役に立つ文章が満載。

一時品切れだったのが復刊になったのはいいが、値が張るようになったねえ。

もうちょっと勉強してもらえませんか、中央公論様。

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羅貫中 『完訳 三国志 全8巻』 (岩波文庫)

こちらは正史ではなく、小説の三国志演義の完訳である。

吉川三国志を読破したあと、元ネタの小説も読んでおこうかと買い求めた。

すらすら読めて通読は比較的楽にできたのだが、正直あえて読破する価値があったのかは微妙。

大抵の三国志本でごく簡略に触れられるだけの、孔明死後晋による三国統一までの物語が他の期間と同じ密度で記されていることが取り得か。

三国志マニア以外は特に読む必要は無いかも。

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陳寿 『正史三国志 5 蜀書』 (ちくま学芸文庫)

明代に完成した小説『三国志演義』の元となった、西晋時代に書かれた正史『三国志』の一部である。

中国正史のうち、他をはるかに引き離す、ずば抜けた傑作である『史記』と言えども、「列伝」だけでなく、「本紀」「世家」「書」「表」含め、全巻を読破するのは素人には到底不可能(だと思う)。

まして『漢書』『後漢書』や他の正史に至ってはたとえ全訳があっても絶対無理だろう。(『漢書』はちくま学芸文庫に全訳あり。)

だがこのちくま学芸文庫で全8巻の『三国志』についてはぱっと見、可能なように思える。

少なからぬ人が中国史の他の時代とは段違いに細かな知識を持っており、脇役に過ぎない武将・文官についてもよく知っている。

実は私もそう思って、通読に挑戦しようと全巻買い込んだのだが、やはり無理でした。

余程の三国志マニアが演義での人物像が正史ではどうなっているのかを逐一知るという強い目的意識を持って取り組まないと到底無理です。

結局読んだのはこの「蜀書」の部分だけ。

正史においてはあくまで後漢を継ぐ正統王朝は魏であり、後世のような蜀漢の理想化は生じていなかったのは知っていたが、それでも本文をじっくり読んだ感想は、劉備というのは実に魅力的な人物だったのだなあということであった。

陳寿の劉備や諸葛亮への敬慕の念が隠しても伝わってくるような文章であった。

バラで買える本だし、この5巻だけ買って読むのも良し、あえて全巻揃えて事典のように使って暇なとき面白そうなところだけ読むのも良いんじゃないでしょうか。

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宮崎市定 『東洋における素朴主義の民族と文明主義の社会』 (平凡社 東洋文庫)

やたら長いタイトルのこの本、戦前に宮崎氏がはじめて書いた中国通史。戦後書かれた「東洋的近世」を同時収録。

古典ばかりの東洋文庫に著作が生前に堂々と収録されるんだから、さすがです。

中国史を遊牧民と農耕民との相克として捉えるのは定番だが、本書はそれを「素朴主義」と「文明主義」という人生観・生活観の対立として叙述していく。

岩波の『中国史』とはまた違った面の面白さがあるとは思うのだが、やや読みにくい文章。

異民族の漢字表記にルビが振ってないのが、私程度の読者には不親切である。

推測できるところもあるが、「これなんて読むんだ?」と思った人名もあった。

なお最後の方で「中国史において文明主義の社会が停滞したとき、素朴主義の進入が中国に刺激を与え活性化と再生の契機になった、そして日本も素朴主義民族であり云々」といった記述が見られるが、解説でも書かれているが、これを「時局追従」の言と見做すのはやはり皮相に過ぎるだろう。

少なくとも私はそのような見方はしない。

「東洋的近世」は『アジア史論』(中央公論新社)にも収められているので読むことが出来る。

そろそろ『素朴主義~』だけ単独で岩波文庫あたりに入れてもらえませんかねえ。

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吉川英治 『三国志 全8巻』 (講談社文庫)

横山光輝の漫画とか、最近では北方謙三の著作などがあるが、日本の三国志といえばやはり基本はこれでしょう。

しかし外国の歴史のある一時代についてこれだけ詳しい知識を相当数の人間が持っているというのも考えれば不思議な話だ。

文章に独特のリズムがあり、非常に読みやすい。

横山三国志を読んでいないという人は先に漫画で大筋を頭に入れておこうなどと考えず、むしろこちらを通読することを勧める。

横山三国志は本書をほぼ忠実になぞっているので、漫画を先に読むと大幅に興趣が削がれます。

しかし三国時代だけは中国史でも別格というくらい各種文献が豊富ですね。

なんかもう世界史とは別ジャンルといった感じ。

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司馬遷 『史記 1 本紀』 (ちくま学芸文庫)

前日『史記』のような古典はやはり通読しておいたほうがいいかもと書いたが、それはあくまで「列伝」についてである。

「本紀」「世家」や「書・表」まで含めれば、とてもじゃないが初心者が全巻読むのは不可能である。

宮崎市定氏の『史記を語る』で大体の内容を知っていれば十分。

そうなのだが本書については、どうしても「項羽本紀」と「高祖本紀」を読みたくて手にとってみた。

その両者は確かに面白い。知っている話も多いが、物語性が豊富で飽きさせない。

だが他の部分は非常に苦しい。馴染みの無い人名・地名・官職名がぎっしり詰まって、無味乾燥という言葉がぴったりくる。

どこかの出版社が「項羽本紀」「高祖本紀」と孔子以後の世家をまとめた抄訳本を出してくれないかなあと思う。

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司馬遷 『史記列伝 全5巻』 (岩波文庫)

これも抄訳を紹介済みであるが、ヘロドトス・トゥキュディデス・ギボンと並んで世界史の四大古典というべき(私が勝手にそう思ってる)なので、やはり全訳を読んだ方がいいかなあと思い全巻購入。

1回通読はしたのだが、その後手放してしまった。

「蘇秦列伝」「張儀列伝」中の演説での同じような内容の繰り返しや、「司馬相如列伝」でのやたらに長い韻文、その他通読には苦しい部分も多く、抄訳版が有り難く思えるときがある。

だがこれだけ有名な古典だし、初心者でも通読は不可能ではないと思うので、財布に余裕があるときに買っておいてもいいんじゃないでしょうか。

私もできれば買いなおすつもりです。

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小竹文夫、草野文男 『現代中国革命史』 (弘文堂)

これは相当入手しにくいと思う。非常に古い本だし、図書館でも置いていないところが多いだろう。

だが機会があれば是非読んで頂きたいと思います。

衛藤瀋吉氏の著作集(先日紹介したのとは別の巻に収録)の「中共研究ノート」(すみません、微妙にタイトルが違うかもしれません)で本書の存在を知る。

昭和33年(1958年)刊で、この年代の本にしては珍しく中共に批判的な中国現代史。

冒頭のアヘン戦争と太平天国の叙述からして、太平軍より、それを鎮圧した曽国藩ら漢人勢力を評価しているように、各時代において最も急進主義的な勢力が正しいという、凡庸な史書にありがちなドグマに縛られていない。(近代中国において、太平天国より洋務運動に真の近代性を認めるのは宮崎市定氏と同じく。)

その後もバランスの取れた歴史評価と史実の選択で安心して読める本に仕上がっている。

これに類する穏当な本が一定期間消え去ってしまったのは、やはりある種の歪みがあったと見做さざるを得ないだろう。

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司馬遷 『史記世家 下』 (岩波文庫)

タイトルに上、中が無いのは書き忘れではありません。

「世家」全部読むのは素人にはキツイ。下巻は陳勝から始まって以後、劉邦の功臣の伝記が続くので、司馬遼太郎『項羽と劉邦』などを読んだ人なら興味深く読める。

上巻・中巻にも有名で面白い部分はあるでしょうが、私は未だに読めないままです。

根気のある方はどうぞ挑戦してみて下さい。

ただ、この下巻に収録されている一つ前が確か「孔子世家」のはず。それが入ってればちょうど良かったのにと思いました。

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『衛藤瀋吉著作集第三巻 二十世紀日中関係史』 (東方書店)

1960年代初頭に出た、中央公論社の旧版『世界の歴史』シリーズから、衛藤氏が執筆した東アジア関連の章を抜粋したものをまとめた本。

巻末に衛藤氏と弟子筋学者二人との鼎談が載っているが、そこで中公旧版『世界の歴史』について、「他の章を見ればわかるように、枠組みは圧倒的にマルクス主義的だった」と衛藤氏は発言している。

確かにこのシリーズを通読したところ、フランス革命以後の巻はそういう傾向が顕著であったと思う。

その中でも衛藤氏執筆部分はまた違った趣があったので新鮮に感じたものであった。

ごく初歩的で読みやすい叙述であり、初心者に最適。

最近の風潮からするとこの記述でも「自虐的」と感じる人がいるかもしれないが、基本的に偏った人が書いているのではないという安心感があるため、個人的には特に違和感無く読み通すことができた。

この衛藤氏の著作集の他の巻も読めばそれなりに役立つでしょうが、初学者はこれだけ読めば十分じゃないでしょうか。

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丁抒 『人禍 1958~1962』 (学陽書房)

共産中国の「大躍進」政策の実態に迫ったドキュメント。

大学に入った頃、新聞広告を見て面白そうと思ったので、即購入。

一読してものすごい衝撃を受ける。

「人為的に引き起こされた、人類史上最大規模の飢餓」の悲惨な実態を余すところ無く活写している。

こういうことを学校で一切教えられなかったことに不信感を抱いたことを覚えている。

訳文はこなれていて読みやすい。中国現代史副読本として必読。

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ジョン・マクマリー 『平和はいかに失われたか』 (原書房)

ジョージ・ケナン『アメリカ外交50年』の極東関係の章で引用されていた、戦前アメリカの現実主義的外交官の覚書に編者のウォルドロン教授の長文の解説を付したもの。

ワシントン体制を崩壊に導いたのは日本というより、既存条約の性急な否認と破壊を繰り返した中国の革命外交とそれに迎合したアメリカ政府であり、満州事変はその帰結であったと主張している。

この視点に立てば、幣原外交と田中外交の評価も大きく変わる可能性がある。

必ずしも著者の主張に納得しなくても、じっくり通読すれば、戦前の東アジア情勢について重要な一面を知ることができる。

なお本書と同じような問題意識に貫かれた本として、クリストファー・ソーン著『満州事変とは何だったのか 上・下』(草思社)があるが、関係国の外交文書や外交官の覚書、回顧録を駆使した詳細なものであり、自分は上巻の三分の二くらいで挫折してしまった。興味のある方はどうぞ。

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ディック・ウィルソン 『周恩来 不倒翁波瀾の生涯』 (時事通信社)

毛沢東と蒋介石関連の著作と共に一冊くらいは周恩来の伝記を。

原著が出たのは1984年。改革開放政策が完全に定着し、周の評価が最も高かった時期か。

毛との対比で、中国共産党内で、最も穏健で現実主義的で人間味のある人物として描かれている。

長征や西安事件前の記述も詳しいのが貴重。通読する価値有り。

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李志綏 『毛沢東の私生活 上・下』 (文春文庫)

10年あまり前に出版されかなり話題になった本の文庫版。毛沢東の主治医による回顧録。

毛の個人生活の描写と当時の政治情勢の解説が絶妙に組み合わさっていて、非常に面白い物語に仕上がっている。

訳者あとがきによると背景説明の部分はやはり編者の手が入っているそうだ。

だがそのおかげで非常にわかりやすくなっているのでマイナスとは思えない。

中国現代史の参考文献として是非読むべき本ではないだろうか。

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犬養健 『揚子江は今も流れている』 (中公文庫)

日中戦争勃発後、和平運動に努力した汪兆銘・周仏海・陳公博・高宗武(文中では仮名・唐紹武)らとの交流を描いた本。

以前紹介した『人我を漢奸と呼ぶ』はかなりの部分を本書に拠っているのがわかった。

会話文の多い迫力ある描写で全く退屈せず読み通すことができた。

自らの信念に従いあえて厳しく危険な道を選んだ汪兆銘派の人々に同情を禁じえない。

著者は犬養毅の息子で戦後法務大臣などを歴任。

ちなみに和平運動の日本側責任者として本書に頻繁に登場する影佐禎昭・元陸軍中将は谷垣禎一財務大臣の母方の祖父にあたるそうな。

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宮城谷昌光 『長城のかげ』 (文春文庫)

著者は古代中国を舞台にした歴史小説を多数書いているが、正直あまり読書欲をそそられなかった。

本書は比較的時代が下がって、項羽と劉邦の時代を描いたもの。

この時代が個人的に好きなこともあって読んでみたが、そこそこ面白い。

著作が多いので、図書館や書店で他のものもざっと眺めてみてもいいかもしれない。

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杉森久英 『人われを漢奸と呼ぶ』 (文芸春秋)

日中戦争の最中、対日協力政権をつくった汪兆銘に同情的な伝記。

くだけた記述で読みやすい。

共産党でも国民党主流でもない第三の視点から見た中国現代史として興味深い。

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中嶋嶺雄 『北京烈烈』 (講談社学術文庫)

文化大革命中に書かれた論文集をそのまま収録した作品。

多くの中国研究者が醜態を晒しまくっていた当時、冷静な観察眼を維持したことは高く評価されている。

初心者にはやや詳しすぎるかもしれないが、極めて良質の現代中国政治史であることは間違いないので、挑戦してみる価値はあり。

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保阪正康 『蒋介石』 (文春新書)

毛沢東関係の著作は結構あるので、たまには蒋介石の標準的伝記を。

蒋と国民党に同情的でオーソドックスな伝記。

すごく面白いというわけでもないが、蒋介石関係の単著は少ないので貴重。

新書にしてはやや厚いが、ページの配分も適当で偏りがない。

「自虐」でも「自尊」でもない著者の史観について議論はあるだろうが、たとえ読者が同意できない場合でも本書からは学ぶべきところはあると思う。

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産経新聞取材班 『毛沢東秘録 上・中・下』 (扶桑社文庫)

改革開放政策導入後の中国で出版された二次資料を収集して再構成した、「大躍進」から毛沢東死後の四人組失脚までの歴史。

これは非常に面白い。要人の会話文が多く引用され迫力ある描写。

元が新聞連載なので、各節が短く文章も読みやすい。

その分、前節の内容要約と繰り返しが多いが、私のようにモノ覚えの悪い人間にはかえって有難い。

中国現代史入門書としてはかなりの名著と言っていいように思う。

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衛藤瀋吉 『眠れる獅子 (大世界史20)』 (文芸春秋)

中国を中心としたヨーロッパ進出後のアジア史。著者は戦後非マルクス主義的、現実主義的な立場で名を知られた中国研究者。

物語風の叙述で読みやすい。歴史的事象の評価も穏当でバランスが取れている。

例えば太平天国や義和団について民族抵抗の面と破壊野蛮の面の両方を認めている。

変な偏りが無く、安心して読める良い入門書。

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高島俊男 『三国志 きらめく群像』 (ちくま文庫)

三国志の主要人物列伝。この辺は漫画や小説ですでに詳しい知識を持ってる人が多いだろうが、これは小説である「三国志演義」はもちろん、正史としての陳寿著「三国志」の叙述も疑って史実に迫り、一種の「偶像破壊」を試みた本。

後漢末・三国時代の中心があくまで曹操と魏王朝であり、呉・蜀とは圧倒的な力の差があったことを繰り返し述べている。

著者の高島氏は一般読者向けの読ませ方を心得てる。文章も面白く、読みやすい。

どこから読んでもいい体裁になっているので、暇なときパラパラ眺めるだけでも良い。

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宮崎市定 『中国のめざめ (中国文明の歴史11)』 (中公文庫)

宮崎氏には珍しい近代史の著作。辛亥革命から国民党の北伐完成まで。

ご本人の全集の後書きで「自分は中国史の独自性に興味があるのであって、それが失われていく近代史は一番不得手である」と述べられていたが、これはよくまとまった概説になっている。

この時代の辺りから「史観」が政治的に喧しく議論されることになるが、戦前文部省から日本至上主義のアジア史を書くように依頼されたのを断り(それで出来たのが『アジア史概説』の元)、戦後はマルクス主義的唯物史観全盛の風潮に組せず、その後岩波書店から出てる全集の後書きで堂々と大東亜戦争(半)肯定論書いちゃう御大のことだから、時流に迎合していい加減なことを書くはずも無く、安心して読める。

この本で宮崎氏の一般向け概説はほぼ打ち止め(他にいくつかテーマ史的著作はあるが)。残念至極である。

現在中公文庫で旧版『日本の歴史』の再刊行をしているが、そのあと旧版『世界の歴史』を続けて出すのだろうか。

宮崎氏編の第6巻『宋と元』を再度手に入れたいので、是非復刊お願いします。

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宮崎市定 『清帝国の繁栄 (中国文明の歴史9)』 (中公文庫)

明の滅亡から乾隆帝の晩年までの概説。

宮崎氏の他の概説に比べてやや異色で、文化史の比重が大きい。

そういうのは個人的には好きではないのだが、御大の一般向け概説書は珠玉の存在だから、贅沢は言っていられない。

2、3回は読んで、内容をしゃぶり尽くしたいものである。

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高島俊男 『中国の大盗賊・完全版』 (講談社現代新書)

泥棒から見た中国社会史、では全く無く、王朝末期の反乱の首魁たちに関する歴史エッセイ。

凡庸な農民反乱史観ではなく、毛沢東も盗賊皇帝だなんて見方で、滅法面白い。

くだけた平易な表現で読みやすいし、それでいて結構多くの知識も得られるのでお勧め。

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井上靖 『蒼き狼』 (新潮文庫)

チンギス・ハンを対象にした、かなり著名な歴史小説。

大岡昇平に絡まれたり、批判もいろいろあったようだが、素人は別に気にしなくていいでしょう。

『元朝秘史』に基づいて流暢に記された文章で、チンギス・ハン一代の事績についてかなり詳細に知ることができる。

今年はモンゴル帝国建国800年ということで、日経新聞に堺屋太一がチンギス・ハンを主人公にした小説を連載したり、他にも何点か関連書が出ているようだが、初心者はとりあえずこの一冊を読んでおけばいいんじゃないでしょうか。

(なおモンゴル史関係で著名な研究者に杉山正明氏がいる。モンゴルをはじめとする遊牧民に染み付いた「野蛮」「未開」「破壊勢力」のイメージを強く否定し、定住農耕民中心史観や西欧中心史観を強く排撃する人なのだが、どうも定説を攻撃するときのエキセントリックさについて行けず、著作を途中で放り出してしまったことがある。よってこのブログで紹介することは無いと思うが、一般向けにわかりやすい著作を多数出している方なので、書店や図書館で一度手にとってみることをお勧めします)

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宮崎市定 『史記を語る』 (岩波文庫)

元は岩波新書だが、それが堂々古典的著作として岩波文庫入り。さすが宮崎御大。

史記の目次に沿っての内容紹介と著者自身の学説のわかりやすい解説が並ぶ。

ざっと読むことで、中国古代史のおさらいが出来て便利。

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司馬遼太郎 『韃靼疾風録 上・下』 (中公文庫)

著者のもう一つの中国歴史小説。こちらは17世紀の明・清交替期を描いた作品。

本書でも合間に挟まれる歴史余話が非常に面白い。

ストーリーを楽しみながら、著者の含蓄ある歴史観を吸収できる。

自分は『竜馬がゆく』も『翔ぶが如く』も『菜の花の沖』も『国盗り物語』も『関ヶ原』も、その他著者の代表作と見做されるものを全然読んでないひどい読者なわけだが、本書のようなレベルで日本史の各時代を語ってくれているのなら、「国民作家」として広範な読者を得ているのも十分理解できる気がする。

ただ世界史好きの読者からすれば、あと少し中国史や朝鮮史関連のまとまった著作があればと思うのは望み過ぎか。

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司馬遼太郎 『項羽と劉邦 上・中・下』 (新潮文庫)

言わずと知れた国民作家の手に成る中国歴史小説。

この作者の膨大な著作のうち世界史関連のものだけに関心があるという、極めて偏った変わり者の読者である自分にとって、これは本当の最高傑作。

人物造詣の巧みさ、的確さは「ああ、きっと史実でもこういう感じだったんだろうなあ」との思いを抱かせる。

ストーリーの途中で時おり挿まれる著者自身の感想、歴史観にも深く頷かされる。(儒教的価値観を持つ人物に異様に点が辛いのをやや別にして)

これだけ読みやすく、面白い歴史小説を措いておくことはない。初心者は即買いましょう。

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宮崎市定 『科挙』 (中公文庫)

制度史というと面倒だなあと思ってしまうが、これだけメジャーな制度について宮崎御大が書かれたものなら例外。

中国において極めて重要な役割を果たした試験制度について、面白いエピソードを交えながら、概略をわかりやすく説明してくれている。

素人は大体ここに書かれてることくらいわかってれば十分じゃないでしょうか。

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中嶋嶺雄 『中国  歴史・社会・国際関係』 (中公新書)

著名な中国研究者による入門書。

「穏歩」と「急進」のサイクルという観点からの時代区分で、中華人民共和国成立後の政治の流れがよく理解できる。

高校生・大学生向けとしては最良の中国現代史入門書と思われる。

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宮崎市定 『雍正帝』 (中公文庫)

終戦後間もない頃、岩波新書の一冊として出版され、名著の誉れが高かったが、ずっと入手困難だった本。

今上陛下も若い頃愛読されていたとか。

幸いにして10年ほど前中公文庫として復刊。即購入。

一読したときどうも読みにくさを感じ、世評の高さの割りに感銘を受けなかったが、どう考えてもこちらの問題であろう。

ある意味康熙、乾隆を上まわる名君についての貴重な伝記であることに間違いない。

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宮崎市定 『隋の煬帝』 (中公文庫)

宮崎氏の一般向け著作はどれも全く外れ無し。

これもわかりやすく面白い。

『大唐帝国』の一部で扱っている時代をさらに詳細に記述したものだが、当時の時代背景から煬帝の個人的肖像まで実に生き生きと描写されている。

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貝塚茂樹編 『世界の名著 司馬遷』 (中央公論社)

これも抄訳。

「史記列伝」も岩波文庫で全5巻の訳が出てるが、巻によって同内容の繰り返しや砂を噛むような地名・人名・官名の羅列など冗長に思える部分があり、通読はきついかも。

それでこれの出番となる。

一冊で誰もが知ってる古典的名著のキモは掴める。

しかし『ヘロドトス~』にも言えることだが、全訳はしんどいが、抄訳だと物足りない気がする。

本書でも省略された人物に興味が湧くことが多い。

やはりいつ通読するかわからなくても、全訳本は手元に置いた方がいいかも。

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宮崎市定 『大唐帝国』 (中公文庫)

数種類ある宮崎先生の時代別概説書では一番面白い。

時期的には後漢の崩壊から唐の滅亡まで、宮崎氏の定義では中国の中世の歴史を扱う。

五胡の侵入をゲルマン民族大移動に、東晋王朝を東ローマ帝国に例えたりする視点が素人には実に面白い。

的確に重要史実を述べ、興味深い逸話を挟みながら、自身の学説をわかりやすい形で提示するという概説書のお手本のような書。

著者の語り口の見事さはすべての著作に共通している。

何度も読み返すに足る充実した内容を持っていると思う。

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宮崎市定 『中国史 上・下』 (岩波書店)

大学入学してすぐの頃、中公文庫の『世界の歴史』全16巻を通読した。

興味深いと思った巻もあったが、冗長に思えたところもあり、特に近現代の巻は首をかしげるような部分も多かった。

その中で宮崎市定氏編集の巻、『宋と元』の面白さが圧倒的に思えた。

その後、大学図書館で宮崎氏の『中国史 上・下』を見つけ、パラパラ眺めた後、帰り道の大型書店で即購入。

この種の中国史概説書というのは腐るほどの数があるが、これは全く隔絶した出来栄え。

冒頭の独自の時代区分論からして素人には「へぇへぇへぇ」の連続。

巧みな史実の語り口、歴史的事件の的確な評価、魅力的な人物描写と何をとっても素晴らしい。

以後、宮崎氏の著書は本屋で見かける度、即購入することになった。

初心者向け中国史入門書としては最も優れていると思う。

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