カテゴリー「近現代概説」の29件の記事

上杉忍 山根徹也 編 『歴史から今を知る  大学生のための世界史講義』 (山川出版社)

図書館で偶然目に付いたのを全く何の気なしに手に取ったもの。

副題に心引かれたのかも。

中身は、横浜市立大学の先生が、学生向けに近現代500年間の世界史を概説したもの。

日本の青少年の歴史的なことがらへの徹底した無関心を憂いて設置された全学共通科目の世界史授業を基に、大学教科書の体裁をとる読み物として出版したと、まえがきに書いてある。

全体の構成として、現代をグローバリゼーションの時代と捉え、その特徴を資本主義的世界体制と主権国家体制の並立であるとし、その発展を五つの段階(前段階を入れると六つ)に区分している。

(0)グローバリゼーション以前(~16世紀)

(1)資本主義的世界体制の形成の時代(1492~1770年)

(2)パクス・ブリタニカの時代(1770~1873年)

(3)帝国主義の時代(1873~1945年)

(4)冷戦の時代(1945~1989年)

(5)現在のグローバリゼーション(1989年~)

章分けで言うと、全12章のうち、(0)が1章、(1)の世界関係の叙述が2章、日本関係が3章、(2)の世界が4章、日本が5章、(3)が6~9章、(4)が10、11章、(5)が12章。

まあ標準的なページ配分。

以下、個々の感想を脈絡無く数点だけ。

まず第1章で、アブー・ルゴドという人の「13世紀世界システム論」というものを採り上げている。

モンゴル征服以後の世界規模の貿易体制を指し、これは近世以降のヨーロッパ主導の近代世界システムよりも平等的・互恵的な側面があったとされている。

最初の掴みとしては面白い導入。

近世初頭の世界地図が載っているが、初心者は、16世紀西欧の進出で非西欧世界が瞬く間に支配されたとはイメージしない方がよい。

アメリカ大陸のアステカ・インカ両帝国は即座に覆滅されたが、ユーラシアのオスマン朝、ムガル朝、明朝の三大帝国に対してはヨーロッパはまだ手が出せない状態(むしろムガル朝は創成期、そしてオスマン朝のバルカンからの中東欧侵攻は16世紀に本格化したことを想起)。

建国間もないサファヴィー朝や日本も同じく。

17世紀帆船で来た西欧人に対しては鎖国できたが、19世紀蒸気船で来た欧米人は追い払えなかった。

近世の大航海時代と、近代の産業革命のヨーロッパの実力差を何となく頭の片隅に入れておく。

社会主義に関する記述で、マルクスの剰余価値説は賛否が分かれていると書くより、理論的には全く間違いだが、無制限・無規制の資本主義による弊害を描写する比喩としては多くの示唆に満ちていると書いてもらった方がすっきりします(引用文(佐伯啓思3))。

日本の開国について、幕府の外交を評価し、全く諸外国のなすがままに不平等条約を受け入れたとは言えないとするのは、中公新版世界史全集『25 アジアと欧米世界』と同じく。

第二次世界大戦時のドイツ占領地のやたら詳しい地図が載ってる。

もののついでに絶滅収容所の位置を確認。

ポーランド国内の1929年の国境で、アウシュヴィッツ・ビルケナウが西南端、マイダネウがワルシャワから見て南東、国土のちょうど中央にあるルブリンのすぐ側、トレブリンカがワルシャワから北東、中央北部。

160ページほどで近現代世界史500年間を叙述するのはそもそも至難の業なのはわかっているが、どうももう一つ。

楽に読めるが、あまり得たものは無い。

時々、随分平板なこと書くなあと思う部分もあった。

高校世界史があやふやな人が、ざっと通読して要点と大まかな流れを身に付けるにはよいのかもしれないが・・・・・。

ちょっと評価に苦しむ本でした。

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山本紀夫 『ジャガイモのきた道  ―文明・飢饉・戦争』 (岩波新書)

私にしては珍しい分野の本。

2008年刊。

確かほぼ同時期に中公新書から『ジャガイモの世界史』も出たはずだが、こちらしか図書館の開架コーナーに無かった。

ジャガイモはトウモロコシ・トマト・タバコと共に、新大陸原産の作物で、大航海時代以降ヨーロッパなど旧大陸に伝えられたことは高校教科書にも出てきます。

現在世界で栽培面積が、小麦、トウモロコシ、稲に次いで第四位の重要な作物。

ジャガイモはもともとアンデス高地に自生していた雑草のひとつ。

(ラテン・アメリカ文明でジャガイモが知られていたのはインカ帝国が繁栄したアンデス地域のみ。トウモロコシはメキシコからアンデスまで広範囲で栽培。)

ただしこの「雑草」とは、人間が恒常的に利用し変化した環境(森林伐採や排泄物処理による)で生育する植物の意で、自然そのままの環境で生える草ではない。

前5000年頃、有毒成分を含むイモ類を人間が品種選択や毒抜き作業によって栽培化。

通説では、文明成立には小麦・米・トウモロコシなど穀物栽培が必要とされ、イモ類栽培は過小評価されてきた。

アンデス文明もトウモロコシを主要作物とする文明と言われてきたが、著者はこれに疑問を呈する。

アンデスのような寒冷・高地ではジャガイモが主食であり、トウモロコシはチチャ酒などの原料になる儀礼的作物だったのではないかとしている。

イモ類は水分が多く、重いので、貯蔵性が低く輸送も困難なのは事実だが、水分(と毒成分)を抜いたチューニョという乾燥イモに加工することにより、その問題も解決することができる。

トウモロコシはコロンブス来航時からヨーロッパ人に知られていたこともあり、ラテン・アメリカ文明はすべてトウモロコシが主作物だったようなイメージがあるが、アステカ帝国はトウモロコシ栽培の上に立つ文明である一方、インカ帝国はジャガイモ栽培によって成り立っていたとしている。

(ヨーロッパ人侵入以前のラテン・アメリカで、ジャガイモの栽培地域がアンデスに限られるということは高校世界史では出てこないはず。)

トウモロコシに比べて、ヨーロッパへのジャガイモの普及は遅れ、本格化したのは18世紀末頃。

例外的にアイルランドでは18世紀には主食の地位を占める。

しかし過度の依存が禍して、19世紀中頃に疫病による「ジャガイモ飢饉」発生。

多数の死者が出て、移民も急増。

この時アメリカに移住した中にはケネディ一家も含まれる。

あと、他の地域への栽培伝播とその影響について。

ネパール東部、エベレスト南のシェルパの例が挙げられている。

この「シェルパ」は登山ガイドの意味かと思ったら、民族名だそうです。

続いて日本では江戸時代半ばから後期に普及したことが述べられて、インカの末裔である現在のアンデスに住む人々の農耕・牧畜について論じてお仕舞い。

楽に読めて、結構実のある知識を仕入れることができる。

悪くない本です。

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B・H・リデルハート 『第一次世界大戦  その戦略』 (原書房)

同じ著者の『第二次世界大戦』(中央公論新社)の記事で触れた『第一次世界大戦』とは厚さが違い過ぎますんで、たぶん別の著作。

原題は“THE WAR IN OUTLINE”。

戦間期の1936年刊で、1939年冨山房から出た翻訳を、仮名遣いと漢字を新字体に改めて原書房が1980年に復刊、それをさらに今年新装刊したものが本書。

一年ごとに章分けして、綿密な戦史を叙述していく形式。

まず総論として、特に機関銃の発達により、当時の軍事技術では攻撃側に対する防御側の優位が揺るぎないものとなっており、そのため歩兵兵力の大きさが実際の戦力に反映せず、それを悟らなかった軍事指揮官が無意味な攻勢を採ったため、犠牲のみを大きくしたといったことが書いてある。

本文を読んでいく上で、各国の軍司令官として、フランスのジョッフル、ニヴェル、ペタン、フォッシュ、イギリスのフレンチ、ヘイグ、キッチナー、ジェリコー、ドイツの小モルトケ、ファルケンハイン、ヒンデンブルク、ルーデンドルフ、アメリカのパーシングなどの名前は頭の片隅に記憶しておいた方が良い。

以下ごく基礎的な事項のみ挙げた、簡略な年表形式のメモ。

1914

6月末  サライェヴォ事件

7月末  オーストリア、対セルビア宣戦

8月初  ドイツ、対露・対仏宣戦、ベルギー中立侵犯→イギリス、対独宣戦

8月末  タンネンベルクの戦いでドイツ軍がロシアに圧勝

9月末  マルヌの会戦  フランス軍がドイツ軍の進撃を押し止め、戦線膠着化・持久戦へ

この「マルヌの奇跡」を現出したフランス軍司令はジョッフルだが、本書ではジョッフル自身はこの時点での反撃計画に消極的だったとして、その評価は甚だ低い(というかイギリス軍含め評価の高い軍司令官などほとんどいないんですが)。

10月  トルコ、同盟側に参戦

1915

2月~  トルコ・マルモラ海のエーゲ海側入口にあるガリポリへの英軍上陸作戦失敗

5月   ルシタニア号撃沈事件

同月   イタリア、三国同盟破棄し対オーストリア宣戦

といってもイタリア軍は極めて不振で、歴史地図を見るとオーストリアにヴェネツィア近くにまで攻め込まれている。

9月   フサイン・マクマホン協定(アラブの蜂起は翌年)

10月  ブルガリアが同盟側参戦

結局、同盟国は独・墺・土・ブルガリアの四ヶ国。本書では“四国同盟”との表記あり。

ここで中小国の参戦・中立態度を整理。

バルカン諸国ではセルビアが連合(協商)国側なのは当然として、兄弟国(?)のモンテネグロも連合国側。

ブルガリアは上述の通り同盟国、ルーマニアとギリシアは連合国側。

セルビアとルーマニアは国土のほとんどが占領された状態に陥っている。

1913年独立したばかりのアルバニアは中立国の表示だが、地図を見ると領土のかなりの部分が独墺に占領されているような表示となっている。

北欧諸国のデンマーク・ノルウェー・スウェーデンは中立、フィンランドは当時ロシア領で国自体存在せず。

ベルギーは当然連合国、戦後のルール占領にフランスと共に参加したことを想起。

隣のオランダは中立、そのため戦後ヴィルヘルム2世が亡命し、連合国が引渡しを要求しても応じなかった。

イベリア半島ではスペインが中立なのに対し、ポルトガルは連合国側で参戦(ちなみにポルトガルは1910年以降フランス・スイスと並んで第一次大戦前の欧州には珍しい共和国)。

スイスはイメージ通り両大戦とも中立。

第二次大戦ではデンマーク・ノルウェー・オランダ・ベルギーはフランス攻略の露払いのような感じでドイツに撃破され、スウェーデンのみ中立、フィンランドはソ連に攻撃されたこともあって枢軸側、フランコ政権のスペインとサラザール政権のポルトガルは賢明にも中立を守り、チェコ・ユーゴ・ギリシアがドイツに占領されたのに対し、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアは同盟関係といったところはもちろん記憶。

1916

2月~12月にかけて断続的にドイツの攻勢によるヴェルダン要塞攻防戦

6月~11月には逆に英仏の攻撃によるソンムの戦い

両者とも莫大な犠牲を出しながら決定的勝利を得られず。

私はこのソンムの戦いをなぜか1917年の出来事と以前記憶していたが16年です。

6月   ユトランド沖海戦  英・独両艦隊が激突するが勝敗つかず

同月   フサイン挙兵によるアラブの反乱(しかし同年サイクス・ピコ協定)

高校教科書レベルで出てくる個々の戦いは、第二次世界大戦ではミッドウェーとスターリングラードだけですが、第一次大戦では上記マルヌ、タンネンベルク、ヴェルダン、ソンム、ユトランド沖と、こちらの数の方が多いのも何か不思議な感じがしないでもない。

11月   墺帝フランツ・ヨーゼフ1世(位1848~)死去

12月   英ロイド・ジョージ内閣

開戦時の英国政権は1908年以来のアスキス自由党内閣。

アスキス自身は指導力に乏しいパッとしない人という感じの評価らしく外相のグレーの方が有名。

この辺の記述を読んで思うのがドイツ軍の精強さ。

西部で英仏とがっぷりよつに組みながら、ロシア・イタリア戦線でオーストリアの危機を救い、劣勢を挽回。

イギリスが中立を守り、もちろんアメリカも参戦しないという条件なら、仏・露二正面作戦になっても勝ってたんじゃないかと思わせる。

無論そうしたドイツの大陸制覇を防ぐためにイギリスは参戦したんでしょうが。

1917

2月   独、無制限潜水艦戦

これに対してロイド・ジョージら英国首脳らは渋る海軍に護送船団方式を強要。

少々理解に苦しむが、それまで軍艦が商船を直接護衛するという発想は、護衛を必要とする船団の数の問題などから、全く無かったらしい。

春頃には仏軍内で抗命・反乱の動きが広がる。

この時フランス軍司令官がニヴェルからペタンに代わるが、ペタンは援護火力を重視し、犠牲のみ多い無謀な攻撃を退けることで軍内部の動揺を鎮めたとして、本書での評価はかなり高いようである。

3月   ロシア三月革命

4月   アメリカ、対独宣戦

11月  ロシア十一月革命、仏クレマンソー内閣、バルフォア宣言

1918

3月   ブレスト・リトフスク条約

これを受けて東部戦線から兵力を移動したドイツが春に西部戦線で最後の大攻勢をかける。

しかし夏には連合国軍が反攻。

11月  ドイツ革命と休戦条約調印

結局、ドイツ本国内に攻め込まれる前に休戦。

これがドイツは戦場で敗れたのではなく革命によって背後を一突きされたのだ、という「匕首伝説」を生み、それをナチスはじめ極右勢力が利用したとかいう話は教科書には出てこないが、初心者でも頭に入れておきましょう。

開戦が1914年、ヴェルサイユ条約が1919年というのは憶えている人が多いが、実際の戦闘中止をもたらした休戦条約が18年なのは要チェック。

評価は「普通」です。

初版の発行年代が発行年代ですから、言い回しが古く読みにくく感じる部分がある。

前半部分に一箇所明らかな乱丁があり、誤植も数箇所あった。

上記リデル・ハートの同名著より分量が少ないのはいいが、A・J・P・テイラー『第一次世界大戦 目で見る戦史』(新評論)より特に本書が優れているということもない。

あまり強くお勧めする気は湧いてこない本でした。

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山上正太郎 『第一次世界大戦  忘れられた戦争』 (講談社学術文庫)

著者名とタイトルを見て、すぐにピンときました。

ヘルマン・グラーザー『ドイツ第三帝国』(中公文庫)と同じく、元は社会思想社の教養文庫収録作品。

たまたま手元に読む本の無い時に目に付いたので、読んでみた。

1914年大戦勃発から1920年代前半に至る国際関係史。

感想は・・・・・普通・・・・・ですかね。

取り立てて言うべきこともない標準的な概説。

著者のあとがきによると(これは今回の文庫化にあわせて書き下ろされたもので奥付の著者紹介を見ると90歳を超えて現在もお元気でおられるようだ)、第一次大戦を戦史や国内情勢ではなく外交と国際関係中心に叙述し、しかもそれを各国指導者の個性描写を通じて行った、とある。

また通常テーマごとにまとめて述べられる事項を、あえて時系列順に並べて事件の同時進行性を読者が感じられるようにしたとも書いてある。

言われてみると確かにそういう特徴が感じられないでもないが、さりとてそれが本書を他の概説から隔絶したものにしているとも思えない。

時々思いがけないほど細かな史実に触れていて、それが意外性を感じさせるときもあるが、基本はこれといった短所も無いがあくまで無難な通史といった本。

例によって偉そうな感想で恐縮ですが、平板な印象は拭えない。

初心者がざっと読んで、基本事項を復習するのには有益かもしれない。

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猪木武徳 『戦後世界経済史 自由と平等の視点から』 (中公新書)

中公新書の記念すべきちょうど2000点目。

今年5月刊。

経済史といっても、あまり難解な理論や複雑な数式は全く無く、細かな統計数字もほとんど出てこない。

地域・時代ごとの平易な概説で、私でも読める。

著者はたしか猪木正道氏の息子さん。

末尾の謝辞で「94歳の父」とあるので、年齢も合う。

第一章「あらまし」、全体の視点と問題意識の説明、戦後世界経済の変化の概観。

第二章「復興と冷戦」、マーシャル・プランと欧州復興、ソ連の農業不振とスプートニクなど科学技術上の成果、西ドイツ通貨改革と経済奇跡。

第三章「混合経済の成長過程」、日米経済紛争、米国のケインズ政策採用とその帰結、欧州統合と英仏伊スウェーデン各国経済の変遷。

第四章「発展と停滞」、中国の社会主義経済の挫折、東欧諸国の苦境、中南米・インド・アフリカ諸国の経済建設。

第五章「転換」、石油危機、スタグフレーション、東アジアの経済発展、80年代以降の新自由主義。

第六章「破綻」、80年代の中南米諸国累積債務問題、97年アジア通貨危機、社会主義計画経済の崩壊、地域経済統合とグローバリズム、07・08年以降の世界金融危機。

最後の「むすびにかえて」で、サブタイトルに関わる話をしてお仕舞い。

非常にわかりやすく、平易に書かれてある本だと思うが、正直に言うとこの程度でも私の頭では理解できない部分がある。

例えば87ページの西ドイツ通貨改革の叙述で、新・旧マルクの交換比率の内容説明が、悲しいかな、何度読んでもわからない。

全体的に便利ではあるが、ものすごく面白いといった感じでもない。

自分が不得意な分野で断定的なことは言わない方が良いのでしょうが、絶対必読本とまで言えない気がします。

ただ、同じ著者で、中公新版世界史全集29巻の、『冷戦と経済繁栄』よりは、本書の方が良いと思います。

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臼井隆一郎 『コーヒーが廻り世界史が廻る 近代市民社会の黒い血液』 (中公新書)

『茶の世界史』『砂糖の世界史』と来て、今度はコーヒーです。

東アフリカ原産のコーヒーが15世紀末イエメンのモカに伝わり、そこから食欲抑制と睡眠節制の効果を見込んだスーフィー(神秘主義)教団を通じてイスラム圏に広まっていく。

17世紀半ば辺りからヨーロッパにも普及し、コーヒー・ハウスが新しい公共圏を形作り、海運・保険・証券取引などの経済活動や新聞・パンフレットを媒介にした世論形成の場を提供したことが記される。

消費国としてのイギリス・フランス・ドイツ、生産地としてのジャワ、ハイチ、マルティニク(仏領西インド)、ブラジル(サントス)、東アフリカ(キリマンジャロ)の様相が描写されている。

面白い。

コーヒーという嗜好品・商品作物から近現代の世界史を診るという大風呂敷をかなりの程度成功させている。

最初はややたるいと思っていたが、後半部は非常に興味深い。

私のような社会史嫌いでも大いに愉しめる本。

これはかなりの名著ではないでしょうか。

一度試しに借りてみることをお勧めします。

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長谷川公昭 『ファシスト群像』 (中公新書)

1982年刊で存在自体は前から知っていたこれを通読。

ドイツ・イタリア以外のヨーロッパのファッショ的あるいは権威主義的指導者の系譜をざっと概観する本。

1章と2章はフランスで、シャルル・モーラスとレオン・ドーデの「アクション・フランセーズ」を始めとする右翼・ファシスト団体の紹介。

まあ特にどうってことない記述。

このうち、ド・ラ・ロック大佐率いる「火の十字架団」に関しては、去年出た剣持久木『記憶の中のファシズム』(講談社選書メチエ)でかなり詳しく触れられているようですが、私は未読。

この辺の記述に興味があれば、福田和也『奇妙な廃墟』(ちくま学芸文庫)を精読されると良いと思います。

第3章は西欧・南欧の章で、フランコ、サラザールという大物から、プリモ・デ・リベラ(スペイン、ミゲールとホセ・アントニオの親子)、ドルフス(オーストリア)、ザイス・インクヴァルト(オーストリア)、クヴィスリング(ノルウェー)といったそこそこの有名人、ドグレル(ベルギー)やムッセルト(オランダ)みたいに「誰ですか、それ?」という人物が記述される。

まあ、普通。

第4章は東欧諸国で、この章が本書では一番役に立つのではないでしょうか。

本書程度の、各国のごく簡略な通史でも類書が少ないので、初心者にはかなり有益。

独伊に盲従する「真性ファッショ」と、右翼権威主義的政権との間の微妙な協力と対立の経緯が読んでいくと結構面白い。

ハンガリーのホルティ、スロヴァキアのティソ、ルーマニアのアントネスク、ギリシアのメタクサスなどがその種の指導者。

最後の第5章は英米の親ファッショ団体の記述。

あんまり面白くもないし、まあこんなもんかと軽く流せばよいかと。

ここに載ってる指導者で名前を知っていたのはイギリスのモーズリくらいですか。

あとチャールズ・リンドバーグも参加した「アメリカ・ファースト委員会」は聞いたことがありました。

しかしかなりのページを割いて述べられている同じアメリカのカフリン神父なんて、全然知りませんでしたね。

まあこれも読みやすくはあるが、さほどの面白さは無い。

一日、二日で読めるので損した気分は無いが、非常に多くのものを得られるというわけではない。

史的評価の基準として、ファシズム・ナチズムと右派的権威主義との区別を一応はつけていると思われるが、いまいち明確ではなく、それがやや平板な印象を与える。

結論を言えば、ごく普通の読後感でした。

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A・J・P・テイラー 『ヨーロッパ 栄光と凋落』 (未来社)

ナポレオン時代から1950年代までのヨーロッパ史に関するエッセイ集のような本。

短めの文章が多いので、全部で53章もある。

まあ470ページ超と結構な厚みもあるので、通読には少々手間取ります。

かなり骨のある部分もあり、ビスマルク外交やヒトラーへの宥和政策の章はかなり詳細で、十分に理解することが難しかった。

近代歴史学の父ランケに関する章は、『世界の名著』での林健太郎氏の解説と読み比べると、テイラーの評価にあまり納得できなかったりする。

第二次大戦直後に書いた文章が多いこともあって、やっぱりこの人は近代ドイツに偏見持ってるなあと感じる部分もかなりある。

あの最悪の書(あくまで私にとってですが)『近代ドイツの辿った道』のように、「読むに耐えない」というほどではありませんが。

全般的な印象を言うと、ややシニカルな筆致なので、著者が肯定的な意味を込めて書いてるのか、否定的な意味で書いているのか、さらっと読んだだけだとよくつかめない部分があった。

滅茶苦茶難解なことばかり書いていて理解できないということは全くない。

練達の歴史家らしい、平易で明解な叙述の片鱗は、私でも感じ取ることができた。

しかし、かなりの予備知識が無いと、この本の良さはわからないんじゃないですかね。

教科書レベルの次にこれを読んでも、あまり効用は期待できない気がする。

私自身、多くのものを得たという印象はありません。

5日ほどかけて読みましたが、是非お勧めしますとは言い難い本。

ひとまず図書館で借りて、どんなもんか飛ばし読みしてみて下さい。

あと、テイラーの本で読むべきなのは『イギリス現代史』(みすず書房)でしょうか。

しかし、これも分厚いですね・・・・・。

いつ読めることやらわかりません。

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木村靖二 柴宜弘 長沼秀世 『世界大戦と現代文化の開幕 (世界の歴史26)』 (中央公論社)

両大戦間の米英仏独ソ各国史を中心にした概説。

第1部が第一次世界大戦とその余波、第2部が1920年代、第3部が30年代で末尾は第二次大戦開戦まで。

対象とする時期自体はさほど長くなくとも、極めて密度の濃い重要な時代なので、扱うべき事項が多く、厚さは普通なのに全部で17章もある。

その分1章ごとのページ数は少ないが、これを読みやすいと見るべきか、内容が薄いと見るべきか。

読み始めてみると、最初の方はあまり詳しくもなく、どうも漫然とした記述が続くだけのように思えて、もう一つである。

しかし、途中から最近の研究成果に基いた史実の新たな見方を紹介してくれる文章が増えて、割と面白くなってきた。

特にナチ体制の実像を叙述した章はなかなか。

第二次大戦へと向かう外交史も宥和政策の評価などが興味深いし、挿入される個々のエピソードも印象的で歴史の流れを記憶する助けになる。

後になればなるほど良い。

非常に楽にページを手繰ることができ、休日に部屋で寝転がりながら眺めてたら土日の二日で読めました。

しかし、記述が必ずしも時系列順になっておらず、話の配列が上手くないような感がするのは気のせいでしょうか。

読後感は比較的良好なのですが、教科書レベルの次に即読むべき本かというと迷ってしまう。

内容に時代遅れの面があっても、個人的にこの時代の概説としては、まず文春大世界史シリーズの林健太郎『二つの大戦の谷間』野田宣雄『ヒトラーの時代』を推奨したい。

「こんな骨董品勧めるなよ」と言われるでしょうが、高校世界史に毛が生えた程度の初心者(つまり私)のための啓蒙書という観点からすれば、この二書の完成度は本当にただごとではないです。

まずこれらを読んだ後、本書に取り組めばより多くのものを得られると思います。

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川北稔 『砂糖の世界史』 (岩波ジュニア新書)

またまたジュニア新書。読むのが楽ですからね・・・・・。

以前紹介した角山栄『茶の世界史』(中公新書)と似たタイプの本。

カリブ海諸島・ブラジルの砂糖キビ・プランテーションとアフリカ奴隷貿易、イギリス商業革命・産業革命との関わり合いを平易に説明してくれている。

社会史・生活史・経済史を程よくブレンドして、読者の新たな視野を啓いてくれる本。

なかなか評判の良い本らしい。

個人的には目の冴えるような面白さは無かった気がするが・・・・・。

しかし通読して決して無駄にはならない本ではあると思いますので、皆様もどうぞ。

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