カテゴリー「朝鮮」の20件の記事

木村幹 『高宗・閔妃  然らば致し方なし』 (ミネルヴァ日本評伝選)

同じ著者の『韓国現代史』(中公新書)を読了済みで、同シリーズではディキンソン『大正天皇』が既読。

昔は「李太王」などと呼ばれていた李朝末期の君主とその妃。

高宗の生年は1852年なので明治天皇と同い年。

傍系から養子として王になる。

李氏朝鮮の国王をやや遡ると、21代英祖→孫の正祖→子の純祖(1800年ちょうどの即位)→孫の憲宗ときて、外戚の勢道政治がはびこるようになり、続いて哲宗が傍系より即位、その次に本書の主人公高宗が、6代遡って19代粛宗につながるという傍系から国王に登極。

傍系からの即位なので実父は国王ではない。

この存命中だった実父が有名な大院君。

「大院君」という名は固有名詞ではなく、このような、現国王の父であり、かつ前国王ではない人物を指す普通名詞らしく、正式には「興宣大院君」というそうです。

この大院君は後に高宗の妻閔妃一族と激しく対立することになるが、実は大院君自身の母と妻も閔妃と同じ驪興閔氏の出身。

高宗の即位は教科書や用語集では1863年のはずだが、本書では1864年と読める記述がある。

即位式を挙げたのが64年ということかなとも思うが、よくわからず。

1864年と言えば、中国では太平天国が滅亡し、日本では禁門の変、第一次長州征討、四国艦隊下関砲撃事件と近隣諸国で激動があった年です。

即位当初は大院君の執政。

よく知られているように攘夷鎖国政策を遂行、1866年のフランス艦隊による江華島攻撃を退け、同年大同江を遡上したアメリカ船シャーマン号を焼討ちするなど、一応の成果を挙げるが、それも列強の朝鮮への関心の薄さゆえに成り立つ当面の成功だったと評されている。

国内では免税と軍役免除特権のあった儒教「書院」の制限を進めたため、攘夷政策で一致するはずの崔益鉉ら「衛正斥邪派」との距離ができる。

土木事業と軍備拡大による財政悪化とインフレが深刻となり、1873年大院君は失脚。

以後何度か大院君は短期間復帰するが、本格的に政権を担ったのはこの最初の10年ほどだけ。

外戚閔氏が勢威を振るう高宗親政時代が始まるが、清銭の流通禁止という政策は大院君時代のインフレによる混乱とは全く逆に、深刻なデフレを引き起こす。

江華島中心の対外防備から王宮近衛兵重視の軍制改革を進める。

この江華島は近代日朝関係の出発点である江華島事件で有名ですが、それ以前から高麗がモンゴルの侵攻を避け遷都したことからもわかるように、開城と漢陽(ソウル)の海への出口を抑える地点にあるということで、非常に重要な地位を占めているようです。

1875年(この年号は当然暗記)、その江華島事件と翌76年日朝修好条規により、閔氏政権がなし崩し的に開国。

それに反発する衛正斥邪派が高宗より離反、かつての敵大院君派に接近。

この時期の閔氏政権が採っていたのは「親日近代化」政策と言われているが、本書の叙述ではその性格は必ずしも明確ではない。

1882年壬午軍乱勃発。

閔氏政権が育成していた新式軍への反発がきっかけとされるが、この定説にも本書はやや疑問を呈している。

いずれにせよ開国・近代化を進める閔氏政権に対する大院君派の攻撃であり、日本大使館が襲撃され、閔妃も殺害未遂の危機に陥る。

ここで清が一挙に介入、軍乱を鎮圧、大院君を清国に拉致。

日本とは済物浦条約が結ばれるが、以後清による、従来の朝貢関係のレベルを超えた、実質的属邦化工作が激しくなる。

なお、この壬午軍乱の前後で、閔氏政権の立場が「親日」から「親清」へと変化していることは(上記の通り、本書の記述によるとそう単純化できるものでもないようだが)重要ポイントなので意識しておく。

ここで中学以来お馴染みの、親日的独立党と親清的事大党の対立が出てくる。

普通これは、閔氏ら保守派が事大党で、金玉均・朴泳孝ら開化派が独立党だとされる。

しかし著者は、日本党=金玉均・朴泳孝・洪英植・徐光範、清国党=趙寧夏・金允植・魚允中・金弘集という人脈を示し、上記二派はともに開化派であり、壬午軍乱以後清国介入の深化に伴い、それへの対応について、かつて一つだった開化派が分裂したものだとする。

前者が清との一切の関係断絶を主張する急進開化派であるのに対し、後者は一定限度の宗属関係を是認する穏健開化派(岡本隆司『世界のなかの日清韓関係史』)。

この両者が1884年甲申事変で激突、清国派が勝利。

(この甲申事変は壬午軍乱からわずか2年しか経っていない時点で起こったこと、日清戦争のちょうど10年前であることをチェック。)

同年清仏戦争の敗北もあり、清が一部譲歩して、1885年日清間に天津条約が結ばれる。

(これに絡んで、85年には大井憲太郎ら自由民権派による大阪事件あり。)

高宗は清の影響力が絶対的になるのを避けるため、「背清引俄(ロシア)」策を採り、ロシアと接近。

大院君が清より帰国を許される。

89年防穀令による軋轢などがありつつも、この時期は概ね清国覇権下の安定した十年となり、閔泳駿・閔泳煥らが率いる閔氏政権全盛期。

そして運命の1894年東学党の乱と日清戦争勃発、金弘集「開化派」内閣成立、大院君も日本に担ぎ出されたものの面従腹背。

95年三国干渉で日本が後退すると、高宗および閔妃、大院君、内閣という、三つ巴の権力構造になる。

閔妃は、まず日本を利用して大院君を排除、次に内閣の分断に成功し、実権を掌握。

ここで、同95年乙未事変と呼ばれる、閔妃暗殺事件が起こる。

日本公使三浦梧楼らの陰謀。

これはいくら帝国主義時代とは言え、やり過ぎでしょう。

明治日本の汚点としか言いようが無いし、個人的には大逆事件よりも腹に堪える不快感がある。

日本によってまたもや大院君が担ぎ出されるが(これで四度目の大院君政権)、親露派・親米派のクーデタ未遂などの動揺が続いた挙句、1896年高宗がロシア公使館に避難(「露館播遷」)、金弘集・魚允中らが殺害され、大院君は軟禁、朴定陽・李完用・李範晋らの内閣が成立(ただし閔氏勢力は回復せず)。

1897年高宗が王宮に帰還、同年国号を大韓帝国とし、清との宗属関係を完全に清算、高宗は皇帝に即位。

1898年に大院君死去。

同年、96年に結成されていた独立協会などによる、下からの国政改革運動が巻き起こり、後の大韓民国初代大統領の李承晩も選出されていた中枢院を拠点にした議会主義運動が激化するが、結局鎮圧される。

なお、1898年という年号ですぐ思い浮かぶ史実があるでしょうか?

日本では第3次伊藤内閣から憲政党の隈板内閣、第2次山県内閣という目まぐるしい政変、清国ではドイツの膠州湾租借に始まる中国分割、変法自強運動挫折と戊戌の政変、というのがすぐ記憶の引き出しから取り出せることが望ましいです。

奇しくも、日清韓三国で国内政局に混乱が見られた年ということになります。

その他、世界では米国のハワイ併合と米西戦争、アフリカで英仏間のファショダ事件があったことも暗記事項。

この時期、閔妃も大院君も開化派も清国派もなく、即位以来はじめて高宗は君権第一主義を貫くことを得るが、大韓帝国は日露の狭間に立たされ、国の独立自体が風前の灯となっていた。

1904年日露戦争勃発。

併合への道標となった四つの外交協定のうち、最初の日韓議定書と第一次日韓協約は、開戦の年である04年に締結。

内容は、前者が日本の軍事行動への便宜提供、後者が財政・外交顧問の設置。

翌05年、ポーツマス条約後に第二次日韓協約。

内容は外交権剥奪と保護国化で、これがおそらく最も重要。

統監府設置、初代統監伊藤博文。

この役職に関する伊藤の企図については、伊藤博文についてのメモ その2を参照。

1907年、列強に独立回復を提訴しようとしたハーグ密使事件が起こり、高宗は退位させられ、純宗(閔妃の子)が即位。

他に厳妃の子である英親王李垠がいる。

昔の教科書や概説書で、少年時代に日本の軍服を着せられて伊藤博文と並んだ写真がよく載せられていたのは、たぶんこの人。

後に梨本宮方子(まさこ)妃と結婚することになる。

同07年第三次日韓協約、内政権も日本が掌握、韓国軍隊は解散。

1909年安重根による伊藤暗殺、1910年韓国併合。

併合後、純宗が「李王」、高宗が「李太王」と称せられる。

ああそうか、まず元皇帝の純宗に李王の称号をあてがって、その父だから李太王か、そりゃ近年そう呼ばないはずだ、と得心しました。

1919年高宗死去、日本による毒殺の噂が流れ、同年の三・一独立運動に影響を与えたのはご存知の通り。

かなり細部に亘る本だが、読みやすく面白い。

明らかな誤植と思えるものが2、3箇所あったが、大きな問題ではないでしょう。

類書の呉善花『韓国併合への道』(文春新書)よりかなり詳しく、読み応えがある。

その分、通読に骨が折れるが、見返りも大きい。

十分お勧めできる良書です。

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金両基 『物語韓国史』 (中公新書)

ソウル五輪の翌年、1989(平成元)年刊。

これは中公新書の『物語~の歴史』シリーズではない気がする。

後に出たシリーズと似たタイトルなので、結果的にその中に含まれるような扱いになっていると思われる。

存在自体には随分前から気付いていたが、これまで通読することはなかった。

立ち読みしたところ、皇国史観が韓国史を従属的に扱ったことを批判するのはいいにしても、逆に民族主義色が濃すぎるんじゃないですかとの感想を持ったので敬遠していた。

しかし、実際読んでみるとそうした点は意外に目立たない。

少なくとも読むに耐えないというほどではない。

(と言うか私の考え方が変わっただけか。)

内容は、古代史に非常な重点が置かれていて、300ページ弱の本文のうち、新羅の滅亡までで220ページ超を費やしている。

よって高麗、李氏朝鮮時代はかなり簡略だが、それでも最低限押さえるべき事項はきちんと記されていると思われる。

古代の諸国家については建国神話から筆を起こし、その起源にまつわる史話を述べた後、主要な国王の事績を拾っていくという形式。

かなり大胆に省略もされてますが、各国の全ての国王を紹介できるはずもないし、特筆すべき人だけ述べている方がいいでしょう。

本書に出てくる人名が、金素雲『三韓昔がたり』『朝鮮史譚』に載っているか調べて、該当するエピソードを読めば、相当的確に記憶できると思います。

さすがに近代史はスカスカですが、日韓間で一番歴史認識のぶつかりやすいところなので、あっさり済ませた方がいいのかもしれない。

なお、著者があとがきで書いている以下の文章には心から共感します。

学生やこどもたちに「歴史」の話をしようとすると、難しい話はご免だ、というような表情にかわる。学生時代のわたしにも、そのような体験がある。

歴史書の多くは、歴史的事実を学問的に整理しようとするためか、えてして表現が無味乾燥で遊びがほとんどない。歴史を、歴史教育の枠のなかに閉じこめると、そのようなことになる。本書は、歴史の専門家でないわたしが、その枠を打ち破り、歴史を生活の周辺に呼び戻しながら味わってみたい、という想いにかられて書いた。

日々の生活が、時を経て歴史になっていくのであるから、歴史そのものは、決して難しいものではない。難しくては困るのである。その想いをどのように読者に伝えるかを、わたしなりに苦心して書いた。父が子に語る韓国の歴史、そのような肩のこらない本になったと思う。物語を読むように、韓国の五千年の歴史を散遊してみた。

上で書いたような気になる点が無いでは無いが、それほど悪い本ではないです。

叙述範囲はかなりアンバランスなので、この一冊だけでは不十分ですが、最初に読む朝鮮史としてこれを選んでも、大きな問題は無いでしょう。

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岡本隆司 『世界のなかの日清韓関係史 交隣と属国、自主と独立』 (講談社選書メチエ)

16世紀から日露戦争までの日清韓三国の関係について考察する本。

叙述の中心は李氏朝鮮におかれているようなので、カテゴリはアジアではなく朝鮮にします。

清・韓間の宗属関係、日・韓間の交隣関係という、それなりに安定した国際秩序が、19世紀以降の西力東漸により変化を余儀なくされ、崩壊していく中で、日清韓がそれぞれどのような思惑を持って行動していったのかを巧みに描写している。

特に1880年代の状況に詳しい。

別にわかりにくいところも無く、論旨は明快だとは思うが、内容は豊富で多岐にわたるので、本書もメモを取りにくい。

それを考えるとレベルは少し高めなのかもしれない。

朝鮮開国後、清・韓間で伝統的な朝貢・冊封関係から生じた「属国自主」体制が形作られ、これは日本と欧米列強の脅威に対するものであるが、朝鮮側は清の保護を受けるための名目上の服属関係という意識を持っていたのに対し、清朝は「属国」を実質化する意図を示し、両国の思惑は必ずしも一致せず、1882年壬午軍乱後、清の干渉が露骨化する中で、清との一切の関係断絶を主張する急進開化派(独立党)と、一定限度の関係継続を是認する穏健開化派(事大党)との対立が生じ、1884年甲申事変で両者が激突し、1894年日清戦争に至って、朝鮮半島における微妙な勢力均衡が崩壊し、「属国と自主のあいだ」という李朝の国際法上曖昧な地位にも終止符が打たれる、といったことが書いてあると思うが、私にはうまくまとめられません。

誤読もあるかもしれませんので、以上は鵜呑みにはなさらないで下さい。

事実関係を学んで基礎を固めるためというより、俯瞰的視野からの歴史解釈を得るための本というべきか。

個人的には、本書を読んでいて、李朝末期の史実が、意外なほど頭に入っていないことを自覚して反省しました。

『韓国併合への道』か、他の本でも読んで復習すべきだなと思った。

良書だと思いますし、難解極まるというわけでは決してないが、全くの初心者向けではない。

基礎が身に付いた人が読めば、得るところ大でしょう。

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姜在彦 『歴史物語 朝鮮半島』 (朝日選書)

2006年刊。

檀君朝鮮から日韓併合までの通史。

あんまり面白くないです。

古代史の部分はやや中身が薄い印象がある。

仏教関係や日中両国との交流についての挿話はやや退屈。

制度史の説明も無味乾燥に思える。

物語性に乏しく、歴史の流れを記憶する助けになるエピソードや人物描写は少ない。

李朝時代になるとかなりマシになるが、特筆すべき長所は無い。

韓国通史としては、以前記事にした水野俊平『韓国の歴史』(河出書房新社)の方がやはり優れていると思う。

それに加えて、金素雲『三韓昔がたり』『朝鮮史譚』(講談社学術文庫)で史話・挿話の類いを補強すると良いでしょう。

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木村幹 『韓国現代史 大統領たちの栄光と蹉跌』 (中公新書)

08年8月刊。

日本の敗北から李明博現政権までの韓国政治史を叙述した本。

大統領の列伝をただ重ねた形式ではなく、年代で区切ってその時在任していた大統領だけでなく、将来の就任者の活動も記述している。

例えば、李承晩時代の朴正熙、金泳三、金大中といった具合。

これが非常に面白く、その試みは十分成功している。

全体的に史実の配列とその説明が適切で極めて理解しやすい。

巻末に置かれた「韓国政党変遷図」と「韓国の憲法制度変遷」という図も有益。

特に前者は極めて貴重なので、本文を読みながら常に参照すべき。

最後の年表も詳細でとても役に立つ。

これら図表も含めて丁寧な作りの本で、非常な好印象を受ける。

本書を読んでいく上で、大統領の任期はもちろん憶えるべきだが、それだけでなく建国から現在まで政体によって区分される六つの共和国と一つの軍政期の存続期間(多くは大統領任期と一致しますが)と、与野党の主要政治勢力が頭に浮かぶようにすべき。

与党系として、自由党、民主共和党、民主正義党、民主自由党・・・・・など。

なお野党勢力分立の系譜は類書が少ないだけに、本書の記述は極めて貴重。

その離合集散の過程を正確に記憶するのはちょっと苦しいかもしれませんが、民主党、民政党、民衆党、新民党、新韓民主党、統一民主党、平和民主党など、主要政党の名前はできれば指導者共々、大体頭に浮かぶくらいにはなった方がいいでしょう。

本書の欠点としては、尹潽善のような知名度の劣る大統領や、前職・現職の盧武鉉・李明博が取り上げられているのに、全斗煥・盧泰愚という重要性の高い大統領が背景説明としてしか記述されていないところ。

著者もあとがきでこの点に触れ、両者が退任後裁判にかけられたせいで客観的研究に乏しく、詳細な記述を断念したと書いている。

ただ、こういう啓蒙書レベルの本なら、著者自身の見解を基に、他の大統領と同様の形で書くことができたのではと思われてならないので、これはやはり残念。

また叙述の対象はほぼ内政に限られ、北朝鮮および諸外国との関係には最小限度触れられるだけである。

(これは紙数の問題もあるでしょうし、かえってコンパクトな通史になるという利点もあるでしょうが。)

以上を差し引いても、初心者にとって極めて有益な入門書であることに変わりありません。

予備知識はほとんど不要で、最後まで熟読すれば非常に力がつく。

強くお勧め致します。

借りてもいいですけど、買って手元に置いておく価値のある本だと思います。

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徐大粛 『金日成と金正日 (現代アジアの肖像6)』 (岩波書店)

金日成が死んで二年後、1996年に出たもの。

2002年の日朝首脳会談前で、岩波刊でこの人物とくれば、同じシリーズの『ホー・チ・ミン』以上に、何かとんでもなく偏った内容なのではと危惧したくなりますが、そのような心配は本書についても杞憂です。

著者は戦後米国に移住した韓国人学者でハワイ大学教授。

金日成の満州での抗日運動が戦後「革命神話」の域に達するまで誇張されたとしながらも、いわゆる「金日成偽者説」は採らず、独立闘争において確たる実績があったことを認めている。

また建国後の行動では、朝鮮戦争開戦という誤った判断をした責任を問いながら、中ソ対立の狭間で自主路線を確立したことは評価し、しかし硬直的な個人独裁体制と権力世襲は非難するといったスタンス。

批判的姿勢は保ちながらも、極端な罵倒や攻撃を避け、南北朝鮮を出来る限り公平な立場でみようとしている。

本来、こういう冷静なアプローチは、他の国や指導者に対してなら大いに共感するところなのだが、本書については頂けない。

この親子に対しては嫌悪と軽蔑以外の感情を持つことが極めて難しい。

彼らが作った体制もその異常性と残虐さにおいて、他の共産主義国からずば抜けている。

日本人拉致があったからというだけではなく、それ以外でも正気の沙汰とは思えない事実が洩れ聞えてくる。

90年代初頭、大学に入った辺りで、金元祚『凍土の共和国』(亜紀書房)とか全富億『金日成・正日の北朝鮮』(日新報道)、李佑泓『どん底の共和国』(亜紀書房)、月刊朝鮮編『北朝鮮その衝撃の実像』(講談社)、黄民基『金日成調書』(光文社)などを読んで、「一体何なんだ、この国は・・・・・」と唖然としたのを覚えている。

とにかく、同じ共産圏の指導者でも、周恩来、胡耀邦、ホー・チ・ミン、チトー、カストロなどと比べると人品に差があり過ぎる。

おまけに無駄に長生きし過ぎ。

1945年ソ連軍によって指導者に選ばれた時に若干33歳ですからねえ・・・・・。

スターリン批判と非毛沢東化を見た上で、死後も自己絶対化を永続させるために息子を後継者に準備するだけの時間的余裕を得てしまった。

中ソ対立も利用して自主路線を打ち立てたことは本書でも評価されているが、逆に言えばソ連の非スターリン化や中国の改革開放の流れに乗り遅れたとも言える。

朝鮮人の不幸と周辺国民の迷惑を考えると、こんなたわいもないことでも言いたくなる。

悪書だとか、読んでも無駄などとは決して言いませんが、特に勧めたくなる本でもありませんでした。

ちなみに、この岩波の「現代アジアの肖像」シリーズも結構読んでますが、全15巻のうち、李鍾元『7 李承晩と朴正熙』と藤原帰一『12 マルコス』は結局出なかったようですね。

特に後者は是非読んでみたかった気がする。

藤原先生もよくメディアでお見かけしますし、お忙しい方なんでしょうが、できれば刊行して頂きたかったなあと思いました。

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岸本美緒 宮嶋博史 『明清と李朝の時代 (世界の歴史12)』 (中央公論社)

この巻は、1部・2部に分かれてはおらず、明清時代の中国史と李朝時代の朝鮮史の章が交互に続く構成で、両者のページ配分はちょうど半分ずつ。

第7巻の10ページ未満の高麗史は一体何だったのかと改めて不審に思う・・・・・。

岸本氏執筆の中国史の章はごく平均的な記述。

驚くほどの面白さはないが、なかなかシャープで手際が良く読みやすい。

一方、宮嶋氏執筆の朝鮮史はやや戸惑う。

両班や親族構造に関する社会史的記述が多く、読むのに難儀する。

個人的にはもうちょっとレベルを落として、より基礎重視の通史を書いてもらいたかったところである。

よって、宮嶋氏著の『両班』(中公新書)も貴重な本だとは思いながら、未読のまま。

本巻の感想は・・・・・「普通」です。

内容は特に書くことも無いのですが、最後の「ヒトと社会 比較伝統社会論」の章は十分理解できたわけではないですが、それでもなかなか面白いと感じました。

陽明学の解説もごく平易でわかりやすく、役に立つ。

他は別に無し。

あっさり済ませて次に行きます。

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礪波護 武田幸男 『隋唐帝国と古代朝鮮 (世界の歴史6)』 (中央公論社)

この度少々思うところあり、中公新版「世界の歴史」の全巻通読に取り組むことにしました。

全30巻のうち、これまで読んだものが4巻だけで、なおかつ他の本も読みながらですから、そもそも挫折する可能性もありますが、少しずつこなしていくつもりです。

本書は第3回配本分。

十余年前の刊行時には、確かこの巻の途中で嫌気が差して読むのを止めたんだと思う。

自分の忍耐力の無さに改めて呆れます。

今回は3日間ほどで無事読了。

しかし評価は微妙です。

三国時代から唐滅亡までの中国史と、先史時代から新羅滅亡までの朝鮮史が叙述範囲。

全14章のうち、中国史の第1部が8章で、朝鮮史の第2部が6章と、朝鮮史の比重が比較的高めの構成。

その分、中国史の部分は概括的記述が続くだけで、突っ込んだ説明に乏しく、物足りなさを覚えた。

合間に挟まれるエピソードも、仏教関係の細々した話が多くてそれほど興味が持てず、他の話もどうも面白いと思えなかった。

同じ時代を扱った宮崎市定『大唐帝国』(中公文庫)が再三再四の味読に値するのに比べたら、正直かなり落ちるなと感じてしまいました。

個々の記述に関しては、五胡十六国の興亡が簡略ながら説明されており、民族系統別に色分けされたわかりやすい図表が載っている。

これはなかなかいいんですが、やはり全体像を覚えるのは相当苦しいです。

この図表は単行本では色分けがはっきり区別できますが、文庫本だとわかりにくいかもしれませんね。

コストの問題もあるんでしょうが、文庫化の際、オールカラーじゃなくなったのはやはりかなり残念です。

なお西晋末の八王の乱は細かな記述が一切無いのですが、宮崎市定『東洋における素朴主義の民族と文明主義の社会』(平凡社東洋文庫)に確か司馬氏一族内の政権移動を図示した系図付きで詳細な叙述があったと思います。

しかしこれも私には暗記不可能です。本当に複雑すぎる。

本書がそういう煩雑さを避けたのは結構なんですが、この厚さの全集本ならもうちょっと読み応えのある明解な政治史を読みたかったところです。

朝鮮史の第2部に入ると、こちらはページに余裕があるせいか、ごく標準的な通史といった感じでまずは良い。

しかし読み進めていくと、全くの初心者向けの朝鮮史としては、あまり整理されておらずまとまりに欠ける印象がある。

私の頭が悪いせいもあるんでしょうが、話が前後して流れが掴みにくいという感想を持った。

細かな官職名の考察なんかは省いて、高句麗・新羅・百済と加羅諸国の民族的起源などをもう少し丁寧に説いてくれればと思いました。

偏った意見かもしれませんが、本書はあんまり面白い良好な出来ではない気がします。

昔の世界史全集と違って、すべての地域をカバーする必要がある以上、中国史のように伝統的に重視されてきた分野に過度の紙数を費やすことはできないんでしょうが、しかし本書の記述を読むとこの先不安になる。

この後も『明清と李朝の時代』という巻があるように、本全集では中国史の巻中に朝鮮史を組み込む方針のようですが、できれば朝鮮史を独立させて一巻割り当てて欲しかったところです。

まあ、以上はあくまで私の個人的感想ですのである程度割り引いてお読み下さい。

悪い本だとまで断言する気はありませんので。

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林建彦 『朴正熙の時代』 (悠思社)

1991年刊。副題は「韓国『上からの革命』の十八年」。

1960~70年代の韓国史。

おそらく現代史上最も成功した権威主義政権である朴政権を高く評価する視点から書かれている。

個人的にはかなり前から朴正熙という人物に敬意を抱いていたので、素直に得心がいった。

この本も実は刊行当初何度か図書館で飛ばし読みしていたのだが、通読は今回が初めて。

特に難渋なところもなく、読みやすい。

できれば朴体制の前後も充実させて、より広い範囲をカバーした韓国現代史にして欲しかったところですが、紙数の問題もありますからまあこれでいいのかもしれません。

重要事件とその年代を確認しながら読み進むのが良いでしょう。

1948年大韓民国成立、50年朝鮮戦争、60年四・一九学生革命と李承晩退陣、61年五・一六軍事革命、63年民政移管と朴大統領就任、65年日韓基本条約とヴェトナム派兵、68年青瓦台武装ゲリラ事件、71年米中接近と南北赤十字会談、72年南北共同声明と「維新」体制への移行、73年金大中事件、74年文世光事件、77年カーター政権成立と「人権外交」・在韓地上米軍撤退をめぐる摩擦、79年側近による朴暗殺。

悪い本ではないですが、やや対象範囲が狭いので、神谷不二『朝鮮半島で起きたこと起きること』(PHP研究所)などと併読して下さい。

なお朴政権下の韓国については、岡崎久彦『隣の国で考えたこと』(中公文庫)という素晴らしい本がありますので、こちらも是非どうぞ。

ついでに歴史に限らず、韓国関係で面白かった本を挙げると、鄭大均『韓国のイメージ』『日本のイメージ』(共に中公新書)は非常に良いと思いました。

そこで紹介されている任文桓『愛と民族 ある韓国人の提言』(同成社)も出色の出来。

中公文庫に収録されていた『日韓理解への道』および『日韓ソウルの友情』という司馬遼太郎らの座談会も読めば参考になるところ大。

その参加者の一人である鮮于煇氏が両書で末尾に書いた文章が本当に素晴らしい。

最後にあまり知られていない本だと思いますが、吉岡忠雄『ソウル・ラプソディ』(草風館)。

紀行文の一種ですが、この本が醸し出す品位と哀切には強く心を動かされる。

気が向いたら以上の本も一度図書館で借りてみて下さい。

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水野俊平 『韓国の歴史』 (河出書房新社)

朝鮮史のカテゴリでごく一般的な体裁の通史が無いのは不恰好だなあと思っていたんですが、最近本書が出たのを知って、著者名とタイトルを見て即注文。

結果はやはり買って正解でした。

バランスの取れた叙述で、左右の妙なバイアスを感じることは少ない。

近現代史の記述は、右派的な人には異論もあるだろうが、この程度ならまだおとなしいほうで、読むに耐えないというほどではないと思う。

日本の大学教授の李景珉という人が監修者として名前が載っていて、著者とどういう役割分担なのか明確に書いていないのが気にかかるが、意見交換と記述へのアドバイスといったところだろうか。

李朝時代がなかなか詳しく、できればそれ以外の時代も同じ密度で叙述してくれればとも思ったが、初歩的な概説書としてはこの程度でいいのかもしれない。

類書として、金両基『物語韓国史』(中公新書)、姜在彦『歴史物語 朝鮮半島』(朝日新聞社)、武田幸男『朝鮮史 (新版世界各国史)』(山川出版社)などいろいろありますが、教科書レベルの次に読む韓国通史としては、現時点ではこれが一番良いと思います。

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