カテゴリー「アジア」の10件の記事

浜林正夫 『世界史再入門 歴史のながれと日本の位置を見直す』 (講談社学術文庫)

数ヶ月前に新刊情報の記事の中で、名前だけ出した本を通読。

さほど厚くない、一冊モノの世界史。

私程度の知識しか無い人間が、自分に合わないからといって一刀両断に切り捨てるのは、どんな本であれ宜しくないでしょうし、そんなのを読まされる方も鬱陶しいのはわかっているつもりですが、これについては言わずにおれない。

はっきり言って長所が全くわからない本でした。

「まえがき」で使用方法として、まず各章のまとめの節を先に読んでもらっても良いと書いてあって、こういうふうに明解な指針を読者に示してくれるのには好感が持てる。

しかし、そのまとめを読んでみても「うーん」と思うだけで、全世界史を一望の下に理解することができる認識軸を提示してくれているとは到底思えないし、さしたる感銘も受けない。

(著者には「そりゃ君の頭が悪いだけだ」と言われるかもしれませんが。)

その前後に記されている大まかな史実の流れは、高校教科書の記述を薄めに薄めた絞りかすみたいな文章で、全然面白くない。

最後の「補論 世界史像の再構成へむけて」はまあ興味深い点が無いでは無いが、著者と同じ考えを持てない読者にとっては「???」の連続ではないでしょうか。

(なお、現代史の部分で著者の相当に左派的な立場が打ち出されていますが、そういうことだけで文句を付けているのではありません。)

同じ世界史概説でも、ウィリアム・マクニール『世界史』(中央公論新社)(現在は中公文庫に上・下巻が収録)や宮崎市定『アジア史概説』(中公文庫)と比べれば、天と地ほどの差を感じる。

この両書とはそもそもページ数が違うと指摘されれば、やや対象範囲がせまいとは言え、同じく薄い文庫本である松田壽男『アジアの歴史』(岩波現代文庫)と比べても役に立つ視点が少な過ぎると言いたい。

「読む価値無し」と断言する気はありませんが、積極的にお勧めする気もゼロです。

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加藤祐三 川北稔 『アジアと欧米世界 (世界の歴史25)』 (中央公論社)

タイトルを見て、主に19世紀におけるアジアの植民地化の歴史をざっと叙述する本なんだろうなあと思って目次を眺めたら、何やら様子が違う。

広く近代以降のアジアと欧米諸国との貿易や国際関係について概観する内容らしく、「そういうテーマ史だけで一巻費やすの?」と奇異の念に捕われる。

ギリシア・ローマ史のように明らかなページ数不足と思われる地域と時代もかなりあるのに、この配分は、意気込みは買うにしてもやはりちょっと変じゃないかと言いたくなる。

そういうモヤモヤした気持ちを抱えながら読み始めたが、最初の二章は特に悪くもないが、大して面白くもない。

「こりゃやっぱりハズレかな」と思いながら、川北氏(『砂糖の世界史』の著者)執筆の第3章以降に入ると、印象が全く一変する。

極めて良質で有益な経済史。

「近代世界システム」、「17世紀の危機」、「ジェントルマン資本主義」などの用語を極めて平易に説明してくれている。

大航海時代以降、世界規模の貿易システムが展開した後、ヨーロッパの生活革命に連動して貿易構造が変化し、それが覇権国の盛衰を引き起こす様を、まるで手に取るようにわかりやすく理解させてくれる。

私は他の概説書で、これほど面白い経済史を読んだことがない。

素晴らしい。傑作。

上記『砂糖の世界史』を読むより、少々手間でも本書を読んだ方がはるかに良いと思う。

これには本当に感心させられました。

川北氏の担当章が終わると、加藤氏には申し訳ないのですが、かなりテンションが下がります。

しかし「拙著『イギリスとアジア』(一九八〇年)」という言葉を見て、「えっ」となる。

私は未読ですが、このタイトルの岩波新書はかなり前から知ってましたし、結構有名ですよね。(追記:←と、最初にこの記事を書いたときには思ったのですが、ひょっとして『イギリスと日本』と勘違いしていたんではないかと、読み返して気付きました。)

調子が良過ぎるかもしれませんが、それを知ると、何か前半の文章よりかは面白いと思えるようになった。

日本の開国を扱った章では、幕府の外交をその当時としては最善に近いものだったとして高く評価しているのが印象的。

最初と最後はもう一つですが、中盤は非常に面白くてためになる。

相変わらず自分の第一印象は当てにならんなと反省させられました。

あと、最後の参考文献欄と年表を眺めていて思ったことを書きます。

この巻だけじゃなく中公新版の全集すべてに当てはまるのですが、参考文献がただ並べてあるだけで、著者のコメントが一切付いていないのが非常に残念です。

講談社旧版の全集ではコメントが付されており、これがものすごく助かる。

各書の特徴や難易度、適切な用途など、ごく簡略に一言二言書かれているだけでも初心者にとっては極めて有益で参考になるんですが。

それと年表があまり役に立たないことが多い。

ほとんどの巻で上段が主要対象地域、中段がその他の地域、下段が同時代の日本という構成で、特色が無い。

狭いスペースで無理に同時代の事項を付け加えているので、肝心の主要史実の年表はただ漫然と並べてあるだけという感じになってる。

もうちょっと工夫してわかりやすく有益なものに出来ないでしょうか。

一般向け啓蒙書として、そういう行き届いた配慮があればなお良かったのにと思ってしまいました。

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宮崎市定 『東西交渉史論』 (中公文庫)

宮崎御大の東西交渉と中国周辺部の歴史に関する文章を集めた本。

真ん中あたりの「条支と大秦と西海」や「南洋を東西洋に分つ根拠に就いて」は少々難しいので、飛ばし読みでいいでしょう。

あとはスラスラ読めて割と面白い。

本書も1998年に出た時には読まずにいたら、今は品切れ。

せめて中公文庫の宮崎氏の本は全部在庫してもらえませんかね。

といっても未読の分のうち、『九品官人法の研究』は難しすぎて読めないし、『謎の七支刀』と『水滸伝』は興味が薄いので読む気がしないのも事実なんですが。

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松田壽男 『アジアの歴史』 (岩波現代文庫)

副題が「東西交渉からみた前近代の世界像」。

古代から近代の「欧勢東漸」までのユーラシア史を極めて巨視的な視点から概観した本。

ごく短い本でありながら、濃い内容。

著者が作成したいくつかの概念図が興味深くわかりやすい。

中央アジアに関しては細かな事実関係でも教えられるところがある。

誰でも簡単に読めて、世界史を俯瞰する上で役に立つ見方を提供してくれる優れた本。

岩波同時代ライブラリーに収録されていた時から知っていたが、当時は無視していた。

今読んでみて、その判断が間違いだとよくわかりました。

楽に読めてわりと面白い本なので、皆様にもお勧めします。

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杉山正明 『遊牧民から見た世界史』 (日経ビジネス人文庫)

去年の6月27日井上靖『蒼き狼』の記事で、杉山氏の本は当ブログで紹介することはないと思うと書きましたが、慢性的ネタ不足なので本書を取り上げてみます。

遊牧民勢力への肯定的再評価を通じて今までのユーラシア史のイメージを一新するという意気込みは大変結構なんですが、不必要に断定的で攻撃的な口調がいちいち神経に障る。

そういう文章への反発から、最初もっともだと思えた定説への批判すらだんだん疑わしく思えてくる。

私は三分の一くらい読んだ辺りで耐え切れず放り出しました。

ただし、私ほど短気でなく、こういう「杉山節」が気にならない方にとっては、本書や中公新版「世界の歴史」および講談社新版「中国の歴史」の杉山氏執筆巻は良質な啓蒙書だと思いますので、一度お試しください。

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ウィリアム・マクニール 『世界史』 (中央公論新社)

一冊の本で全世界史を物語ることは可能だろうか。

毒にも薬にもならない平板な教科書的記述ではなく、一人の著者によって書かれその人独自の史観が感じられ一貫した読物となっている一冊の世界史というのは有り得るか。

この問いに肯定的に答えるのは難しい。

今まで紹介した本の中では、宮崎市定氏の『アジア史概説』(中公文庫)および『アジア史論』(中公クラシックス)が最も近いかもしれない。

本書は以上の宮崎氏の著書と並んで、その稀な例外となっている、アメリカ歴史学界の長老が書いた世界史概説。

人類史における諸文明の興亡の明快かつ的確な見取り図を提示してくれる。

例示される史実とその説明は、無味乾燥な簡略さと晦渋な煩雑さの双方を避け深く説得的なものとなっている。

読後感は予想よりはるかに良かった。

定価3990円と結構値が張りますが、品切れにならないうちに買って手元に置いておくのが宜しいかと。

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衛藤瀋吉 『近代東アジア国際関係史』 (東京大学出版会)

えらく硬いタイトルだが、東大での国際政治学の講義を活字にしたもので、話し言葉に近く読みやすい。

『眠れる獅子』や著作集の『二十世紀日中関係史』との重複も多いが、変な偏りのある本を多く読むより、こういう本をしっかり読んだ方がいいと思う。

ただ末尾に近くの、日米開戦以後の部分は面白さがガクンと落ちます。

避けようも無い惨敗の描写となりますので、それも仕方ないでしょうが。

先の大戦への評価について本書はかなり否定的だが、私はそれを「自虐的」と切って棄てる気は無い。

著者の立場に必ずしも同意するものではないが、歴史の基礎的素養を得る本として優れていることに間違いないと思う。

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衛藤瀋吉 『眠れる獅子 (大世界史20)』 (文芸春秋)

中国を中心としたヨーロッパ進出後のアジア史。著者は戦後非マルクス主義的、現実主義的な立場で名を知られた中国研究者。

物語風の叙述で読みやすい。歴史的事象の評価も穏当でバランスが取れている。

例えば太平天国や義和団について民族抵抗の面と破壊野蛮の面の両方を認めている。

変な偏りが無く、安心して読める良い入門書。

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宮崎市定 『アジア史論』 (中央公論社)

主にかつて刊行された「世界の名著」シリーズを再版したものが多い、新書版の中公クラシックスの中の一冊。

それら文字通りの古典に交じって、これは宮崎氏の著作から、巨視的な概観的論文を集めたアンソロジー。

岩波書店刊の全集でしか手に入りづらかった論文が収録されていておいしい。

収録作のうちでは『東洋的近世』が中心だが、その他の論文もコンパクトでありながら、密度が高く有益。

素人が御大の世界史観を知るには、前述の『アジア史概説』より、こちらを勧める。

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宮崎市定 『アジア史概説』 (中公文庫)

宮崎氏の時代区分論を全アジア史にわたって展開した本。

イスラム時代という(宮崎氏の定義による)近世にいち早く達した西アジアの他地域に対する先進性が説かれる。

また、大幅に遅れて近世的発展に達したヨーロッパが極めて短い時間のうちにそれを完成させ、産業革命を中核とする全く新しい近代的段階に達し、アジアへ勢力を拡張する様を描く。

叙述はダイナミックで相変わらず面白いのだが、あまりに対象範囲が広すぎて、所々教科書的な事実整理の記述が続き、御大の著作には珍しく冗長に思える部分がある。

とは言え、これだけの力作を読まないのも惜しい。

少し気合を入れれば、初心者でも通読は難しくないので、買ってみましょう。

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