カテゴリー「オランダ」の4件の記事

モーリス・ブロール 『オランダ史』 (白水社 文庫クセジュ)

白水社の文庫クセジュを初めて通読。

フランスの啓蒙書シリーズの翻訳ですが、どうも気後れしてこれまで読む気がしませんでした。

こういうマイナー分野なら貴重だし、読む価値あるだろと思い、手に取ったのだが、これが意外な拾い物であった。

古代から第二次大戦後までを、もちろん記述の濃淡はあるが、基本的にどの時代も省略無く叙述する通史なのが極めて有益。

非常に面白い岡崎久彦『繁栄と衰退と』(文春文庫)およびあまり面白くないチャールズ・ウィルスン『オランダ共和国』(平凡社)が両方とも16・17世紀のみ集中的に記述しているのと対照的。

まず古代から近世初頭の歴史が述べられて、これが少々ややこしいが、要するに中世末にネーデルラントの大部分がブルゴーニュ公の支配下に入り、ブルゴーニュ自体がフランスに併合された後もネーデルラントにおけるブルゴーニュ家の統治は続き、跡取りのマリがマクシミリアン1世と結婚してハプスブルク家の領地となったことだけ押さえておけばいいでしょう。

この両者から生まれたフィリップが、スペイン国王フェルナンド5世とイサベル女王の一人娘フアナと結婚して、カール5世(カルロス1世)とフェルディナント1世をもうける。(この系図は高校教科書にも載っているから憶えた方がいいでしょうね。)

これで成立したオーストリアとスペインのハプスブルク帝国にヴァロワ朝・ブルボン朝のフランスが激しく対抗するというのが16・17世紀の西ヨーロッパの基本構図な訳ですが、オランダはこの中でフェリペ2世治下のハプスブルク朝スペインから独立を目指すことになります。

このオランダ独立戦争というのが、区切りがいくつもあって面倒なんですが、1568年に独立戦争開始、1579年に南部10州脱落と北部7州によるユトレヒト同盟成立、1581年にネーデルラント連邦共和国独立宣言、1584年オラニエ公ウィレム(1世)暗殺、1588年スペイン無敵艦隊敗北、1609年休戦条約(これは固有名詞が付いてないので単に「休戦条約」としか書きようがない)、1648年ウェストファリア条約で独立正式承認という流れになる。

独立以後の総督(本書の記述では知事)としてウィレム1世、その子のマウリッツおよびフレデリック・ヘンドリック、フレデリック・ヘンドリックの子ウィレム2世、2世の子ウィレム3世(のちに英国王ウィリアム3世)くらいは憶えましょうか。

オラニエ家が君主的存在だったとしても、この時期の政体はあくまで連邦共和国なので、ウィレム3世の前後には、ホラント州の大商人階級が主導権を取っていた、総督不在の期間もあった。

それでいて北部のフリースラント州ではオラニエ家の傍系が知事を務めていたという状況だったらしい。

17世紀後半からの英仏との抗争の経緯は相変わらずややこしいことこの上ない。

この辺は高校世界史では一番複雑な部分の一つじゃないでしょうか。

中央集権を志向するオラニエ派に対して、州分権を強調した大商人の寡頭派について著者はかなり厳しい評価を下している。

1688年名誉革命でウィリアム3世が即位するが、この人が死去すると英蘭の同君連合は解消。

しばらく無総督時代が続いた後、1747年に上記傍系からウィレム4世が総督就任、以後世襲となる。

フランス革命軍に占領され、「バタヴィア共和国」が創られたりフランス帝国の一部として併合されたりした後、ウィーン会議でベルギーを併合してオラニエ家のオランダ王国成立。

七月革命の余波でベルギーが分離した後は、もうヨーロッパ史の主要なプレイヤーでなくなった感がありますので、カルヴァン派、カトリック派、自由主義派、社会主義派の四つ巴の争いが続いた19世紀の記述は軽く流しましょう。

20世紀は、第一次大戦では中立を維持し、第二次大戦ではドイツに蹂躙されたこと、戦後の欧州統合とNATO加盟あたりを押さえておけばいいでしょう。

なかなかいいんじゃないですかね。

140ページほどで読むのにさほどの手間も掛からないし、全般的にバランスが良い。

手軽な通史として十分使える。

末尾の既刊本リストを見ると、『ルーマニア史』とか『ブラジル史』、『近代ギリシア史』などマイナー分野で読書意欲が湧いてくる本がいくつか載ってます。

これらも機会があれば読んでみたいと思います。

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チャールズ・ウィルスン 『オランダ共和国』 (平凡社)

単独のカテゴリを立てながら、一向に増える気配の無いオランダ史に何とか追加するためという、少々妙な動機でこれを読みました。

「オランダ」というカテゴリ名をやめて「ベネルクス」にしようかとも考えましたが、その場合果たしてこの先ベルギー史やルクセンブルク史の本を読むことがあるのかという問題があります。

カテゴリ自体無くしてしまって、「ヨーロッパ」にでも放り込もうかと思ったんですが、近世以降の覇権国を並べると、16世紀スペイン→17世紀前半オランダ→17世紀後半フランス→18世紀イギリス→19世紀イギリス→20世紀アメリカとなるでしょうから、いややはり重要な国なんだろうと思い直してそのまま存続させます。

17世紀を中心にしたオランダ史概説。

年代順に政治史的記述を積み重ねる本ではなく、経済・社会・文化に重点を置いてテーマごとに論じていく。

どちらかと言えば私にとって苦手なタイプの本。

基礎的な通史的知識は岡崎久彦『繁栄と衰退と』(文春文庫)で押さえておく必要がある。(この本は物語として非常に面白いので是非お勧めします。)

しかしごく大まかな傾向とイメージだけ読み取ろうと割り切るとそれなりに有益。

(美術・建築関係の文化史の章はさすがに読み飛ばしたが。)

読んでる途中で、この書名はどこかで見た覚えがあるなあと思って調べたら、高坂正堯『文明が衰亡するとき』(新潮社)に参考文献として名が挙げられていた。

そこで、「すぐれた概説書である」と評価されてるから、やはりいい本ではあるんでしょう。

機会があればお読み下さい。

以下、一応高校世界史の範囲内でありながら、何度読んでも忘れる英蘭戦争とルイ14世の征服戦争関連の史実と年代を私的にメモしておきます。

1651年 航海条令(英クロムウェル政権)

1652~54年 第1次英蘭戦争

1659年 ピレネー条約(仏、アルトワ、ルシヨン併合)

1660年 イギリス王政復古

1661年 ルイ14世親政

1664年 英、ニューアムステルダム奪取、ニューヨークと改名

1665~67年 第2次英蘭戦争

1667~68年 南ネーデルラント継承戦争

1668年 アーヘンの和約(仏、リール併合)

1672~74年 第3次英蘭戦争

1672~78年 オランダ戦争

1678年 ナイメーヘン条約(仏、フランシュ・コンテ、カンブレー等併合)

1681年 仏、ストラスブール併合

1688年 名誉革命 オランダ総督ウィレム、ウィリアム3世として英国王に即位

1688~97年 ファルツ継承戦争(アウグスブルク同盟戦争・植民地ではウィリアム王戦争)

1697年 ライスワイク条約(仏、アルザスの未獲得部分併合)

1701~13年 スペイン継承戦争(植民地では02年からアン女王戦争)

1713年 ユトレヒト条約(英、ジブラルタル・ミノルカ島・ハドソン湾地方・ニューファンドランド・アカディア併合)

1714年 ラシュタット条約(墺、南ネーデルラント・ミラノ・ナポリ・サルデーニャ島領有)

上の第3次英蘭戦争とルイ14世のオランダ戦争が重なった時期に英仏両国を敵にまわしてオランダは亡国の危機に陥るが、しばらくして名誉革命という「奇跡」が起こり、以後英蘭が同盟関係に入り、仏に対抗する形勢となる。

1659年のピレネー条約は、高校世界史範囲外だが、三十年戦争中から続いていたフランス・スペイン間戦争の講和条約。

アルトワは東北国境ベルギー近くの土地で、ルシヨンは西南部仏西国境の一地方。

スペイン継承戦争でオーストリア・ハプスブルク家領有となったナポリと、サヴォイ領からハプスブルク領になったシチリアから成る両シチリア王国がブルボン家の領土となった経緯およびフランスのロレーヌ併合については、『ポーランド民族の歴史』の記事の真ん中あたりを参照。

なお、高校世界史では四回にわたる「ルイ14世の侵略戦争」は「若干の領土を得ただけで成果無く終わった」と断定的に評価されているが、以上を見ると東部国境でかなりの領土を拡張している。

この部分は吉川弘文館の『世界史年表・地図』の中の「フランスの東部発展」という歴史地図を参照。(こういう詳しい図は普通の高校副読本では載ってないかもしれない。それがこの吉川弘文館のものを推奨する理由の一つ。)

例えばリールというのは、確かシャルル・ド・ゴールの出身地のはず。

ここを併合しなければ20世紀フランスの危機におけるド・ゴール将軍の出現もあり得なかったことを思えばそれだけでお釣りがくるというのはふざけ過ぎか。

ピエール・ガクソット『フランス人の歴史』(みすず書房)では、これらの戦争の原因はルイ14世の個人的野心にのみ帰せられるものではなく、結果としてフランスは安全な東部国境を持つことになったとある程度肯定的に評価している。

そしてストラスブールをはじめとする併合領土の住民が、強制によってではなく自発的に自らの運命をフランスのそれと同一視するようになったことを誇りを持って記している。

それを読んでかなりの程度説得的に思えたので、やはり歴史にはいろいろな見方があるんだなと感じました。

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シュテファン・ツヴァイク 『エラスムスの勝利と悲劇』 (みすず書房)

宗教改革の激動の中で、狂信を排し寛容を主張した「最大の人文主義者」エラスムスを讃えた本。

それは結構なのだが、訳者解説で述べられているように、本書でエラスムスの敵役となるルターへの非難は、執筆当時のツヴァイクの反ファシズムの主張を込めて描くという意図がストレートに出すぎて、かなり一方的で歴史の実像を正確には反映していないように思える。

面白くないことはなかったのだが、以上のことが気になって気になって仕様が無かった。

まあ良質な歴史読み物ではあると思う。

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岡崎久彦 『繁栄と衰退と』 (文春文庫)

独立戦争から名誉革命までおよそ100年余りのオランダ史。

80年代の日本・アメリカ・ソ連を、それぞれ当時のオランダ・イギリス・フランスに例えるという著者の問題意識が興味深い。

そういうのは抜きにしても、類書が少ないオランダ史なんていう分野で、稀に見る面白い通史に仕上がっていて、非常に貴重。

読みやすいし、確実に世界史読書ラインナップに加えるべき良書。

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