カテゴリー「ヨーロッパ」の35件の記事

マイケル・ハワード 『改訂版 ヨーロッパ史における戦争』 (中公文庫)

原著は1976年初版、2009年改訂版刊行。

著者は有名な軍事史家だが、私程度では「何度か名前を聞いたことがあるなあ」と思えるくらい。

戦争の技術的側面にだけ着目するのではなく、常に社会との関係に留意した、簡潔・明解なヨーロッパ戦争史。

本文は、「封建騎士の戦争」→「傭兵の戦争」→「商人の戦争」→「専門家の戦争」→「革命の戦争」→「民族の戦争」→「技術者の戦争」という章建てで進んでいく。

それぞれの章が大体どの年代に当たるのか、そしてその時代の戦いの大まかな様相をイメージできるようになれば良い。

個人的感想を言えば、ヨーロッパの黄金時代はやはり19世紀ではなく18世紀(上記区分で言えば「専門家の戦争」の時代)ではないかと思えた。

当時は戦争の限定的性格が最も強かった時代で、民間への被害も少なく、戦争は王朝国家間の厳格なルールに則った一種のゲームであり、戦闘の規模も小さく、徹底性にも欠けていた。

戦争は、イデオロギーや熱狂に煽られた「世論」には基づいておらず、純粋に上層階級による国益の計算によって遂行された。

近世初頭の宗教的熱狂は後退し、フランス革命以後の民衆的ナショナリズムは未だ知られていない時期。

交戦状態にある国民同士が憎悪し合うこともなく、合従連衡の同盟の組み合わせも頻繁に変化した。

こういうバランスが崩壊して19世紀を迎え、そこで人類史上最悪の20世紀の悲劇が準備されたように思える。

それほど細かな史実が取り上げられているわけではないが、全くの初心者が読むには不適当と思われる。

他の概説などを一通り読みこなした人がざっと通読してイメージをより明確にするための本というべきか。

悪い本ではないです。

・・・・・軍国主義的ナショナリズムは純然たるブルジョワ的現象ではなかった。マルクスが労働者は国家を持たないと書いたとき、彼は実は初期産業革命の労働者について語っていたのである。彼らは、田舎の安定した社会から引き離され、都市に惨めな状態で群がっていたが、都市はいまだ一体感を発展させておらず、彼らを搾取する社会からまさしく疎外されていたのである。しかし、五十年後、国家教育、合法化された強力な労働組合、そして多分最も重要であった、安価で煽情的な新聞が、この状況を一変させた。二十世紀の初めまでに、労働者階級は、社会主義の刺激と少なくとも同じように、ナショナリズムの刺激に対しても進んで反応していた。その両方の主張を混ぜ合わせられる者が、最も成功した政治指導者となった。国境を越える階級統合の訴えは、1914年に一たびラッパが鳴り始めるや、雲散霧消してしまった。

一部の歴史家が示唆したところによれば、二十世紀初頭の熱狂的で軍国主義的なナショナリズムは、革命から大衆の支持を引き離して、彼らを既定の秩序の方に引き付けるように教え込もうとする、反動的支配階級によって引き起こされたものであった。しかしこれは粗雑な機械論である。ナショナリズムを最も信じなかったのは、実は、支配階級の中の最も反動的な人々であった。ヘーゲルとマッツィーニの思想はそれ自体の価値と主張を持っていたし、デモクラシーとナショナリズムとは互いに養分を与え合っていた。国事への参加意識が大きければ大きいほど、国家は国家を生み出した唯一無比の価値体系の具現化だと見なされるようになり、国家を守り国家に奉仕する責務はいよいよ大きくなった。その上、組織宗教の力が低調になってきた時代には、民族が人びとの忠誠の焦点として現われてきたのである。奇蹟の時代は卒業したが、流行歌スターの時代にはまだ入っていなかった人々は、国家によって、目的、生彩、刺激、威厳を与えられた。

・・・・・もし本当に社会の軍国主義化が古いエリートの用意周到な計略であったのならば、彼らは非常に悪い取引をした。というのは、彼らを滅ぼすようになったのは、不可能な勝利を求めてあらゆるものを犠牲にした、他ならぬ愛国的な民衆であったからである

以上、20世紀以降君主制・貴族制が崩壊した、多くの国で同じですね。

(日本も似たようなものか。)

それに比べて民主主義国はお気楽なもんです。

例えば、不確かな根拠で予防的先制攻撃を仕掛け他国に侵攻した指導者を民衆が圧倒的に支持しておいて、それがどう頑張っても弁護しきれない程の悲惨な状況をもたらすと一転反対党の候補を指導者に押し上げ、他国の膨大な犠牲者は忘れた素振りで「私たちは過ちも犯すが、それを正す力も持っている」と更なる自己満悦に耽る、と・・・・・・。

全く結構な政治体制です。

バークのこの引用文を思い出します。

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フェルナン・ブローデル 『歴史入門』 (中公文庫)

大著『地中海』(藤原書店)の著者で、アナール派社会史学の泰斗ブローデルの本。

本文が140ページ余りと非常に薄いので、これなら挫折することもないだろうと手に取ってみた。

中身はブローデルのもう一つの大著『物質文明・経済・資本主義』(みすず書房)の内容に沿った講演を収録したもの。

15~19世紀ヨーロッパを中心にした経済史。

邦訳タイトルと内容が合ってないような気がします。

市・大市・取引所の発展、物質生活と市場経済と資本主義の区別、ヨーロッパと日本・イスラム・インド・中国との比較など。

大体何が書いてあるかは読み取れたが、迂闊に内容メモすると間違えそうなので止めときます。

一日あれば余裕で読める。

帯に「アナール派歴史学への最良の入門書」と書いてあって、確かに私でも全く理解できないということもなかったので、まあいい本だとは言えるんでしょう。

短すぎてそれほどの充実感も無いですが。

かと言って、私が『地中海』を読破するというのは・・・・・・まず無理でしょうね。

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玉木俊明 『近代ヨーロッパの誕生  オランダからイギリスへ』 (講談社選書メチエ)

大づかみ過ぎて内容がよくわからないタイトルで、副題を見てもはっきりしないでしょうが、中味は16世紀から18世紀までの近世ヨーロッパ経済史です。

読む前にまず前提として、極めて大雑把でいいから、世紀ごとに近世ヨーロッパ政治史の横の繋がりを確認。

16世紀は、スペインとオーストリアのハプスブルク家が大きな勢力を保ち、その両者とヴァロワ朝フランスが死闘を繰り返す。

イギリスはテューダー朝絶対王政下に繁栄の道を歩み始め、イタリアはルネサンスの栄光からスペイン支配下へ転落。

全体としてスペイン覇権時代と言えるが、世紀後半にはオランダが独立、次世紀の覇権を準備する。

東欧ではポーランドでヤギェウォ朝が断絶し選挙王制に移行、バルカンにはオスマン朝が進出し、ロシアがモスクワ大公国の下、統一への一歩を進める。

17世紀は、オランダの黄金時代。

スペイン、イタリアは没落、イギリスでは二度の革命、ドイツでは三十年戦争と各国で危機が続発する中、フランスはブルボン朝の下、世紀後半に覇権に手を伸ばす。

ロシアではロマノフ朝が成立するも、この時期の北欧の雄はスウェーデン。

18世紀、オランダが衰退、前世紀末に議会制的政治体制を整えたイギリスがフランスと激しい植民地争奪抗争を繰り広げる。

スペインがブルボン朝に変わるが、ルイ14世の野心は阻止される。

ドイツでオーストリア継承戦争、七年戦争を経てプロイセンが台頭、東・北欧ではピョートル大帝が北方戦争でスウェーデンを蹴落とし、同地域での覇権はロシアに。

植民地戦争で世紀半ばにイギリスが決定的勝利を得るが、アメリカ独立によってやや後退、世紀末にはフランス革命と産業革命、それを経て19世紀初頭にはイギリスの覇権が揺るぎないものとなる。

以上のような政治史を頭に入れて、本文を読み進むべき。

ざっと内容をメモすると、まず16世紀のヨーロッパ経済の中心は依然イタリア(特にヴェネツィア)で、それが同世紀後半にはブリュージュ・アントウェルペンからアムステルダムへ移行。

17世紀にはイタリアなど地中海諸国は明らかに衰退し、オランダ・イギリスの台頭が顕著となる。

著者はこれを、地中海貿易が衰微し、大航海時代からの大西洋貿易に取って代わられたからだと、単純に解釈することを戒める。

16世紀を通じてヨーロッパの人口が増大を続け、特に地中海諸国では穀物不足と食糧輸入への依存が高まる。

また森林資源も枯渇し、工業用材料・船舶用資材も不足。

地中海諸国がこれらをバルト海地方(特にポーランドの穀物)からの輸入に頼るようになり、そのバルトの商業・海運業をオランダに押さえられていたことこそ決定的であったとされている。

17世紀オランダの黄金時代には、遠距離のアジア貿易よりバルト海貿易の方が重要だったらしい。

著者は貿易収支だけに注目する従来の経済史研究を批判し、輸送料の重要性を強調する。

この時期のオランダは貿易収支の赤字を輸送料と貿易商人の利益が上回っている貿易構造。

また「中継貿易しかできない商業資本主義だったので、オランダは後に産業資本主義のイギリスに敗れた」という解釈は単純過ぎるとしている。

アムステルダムはヨーロッパの物流だけでなく、商業に関する情報・知識・ノウハウの中心となり繁栄を極める。

なお16世紀のいわゆる「価格革命」について、本書では以下のように書かれている。

かつて「価格革命」といえば、スペイン領アメリカからの貴金属流入量が大幅に増加したために生じたとする貨幣数量説の見解が主流であったが、こんにちではむしろ価格革命と呼ばれる現象自体存在しておらず、人口増のため農作物価格が工業製品の価格以上のスピードで上昇したという見方が一般的である。

これは教科書にある通説と全く異なる説明で、非常に面白いと思った。

18世紀、大西洋貿易の拡大とともにイギリスが台頭。

「分裂国家」オランダに対して、イギリスが中央集権的であったことが強調される。

日独など後発資本主義国が国家の主導・介入による経済発展を遂げ、先進国へのキャッチアップを果たしたのに対し、イギリスは自生的で国家介入のない産業発展が進行したと従来思われてきたが、現実にはイギリス自身がオランダに対して経済的には後進国であり、中央集権的「財政=軍事国家」として航海条令など重商主義政策を採用し、国家が企業の保護費用を負担したことが重要であったと述べられている。

オランダが支配していたバルト海貿易にイギリスも参入。

なお当時の北欧では、ロシアの主要貿易港は新首都サンクト・ペテルブルクの他に、はるか北の白海にあるアルハンゲリスクがある。

スウェーデンは現フィンランドの領域も有し、ノルウェーはデンマーク領になっている。

教科書で確認したら、ノルウェーはその後1814年にスウェーデン領に変わり、1905年平和的に独立と書いてあった。

この辺、武田龍夫『物語北欧の歴史』(中公新書)を読み返して確認する必要がありますね。

18世紀に入って、ヨーロッパの商業・金融の中心はアムステルダム一極集中からアムステルダム・ロンドン・ハンブルクの鼎立体制に変わる。

高校世界史では、この時期のハンブルクの繁栄は全く触れられていないはず。

英仏の植民地をめぐる争いの中、新大陸の物産を扱うボルドーが発展するが、著者は当時の三大経済都市の一つは、フランスとの関係が深かったハンブルクだとしている。

ここで、旧ハンザ同盟都市の位置関係を確認。

北ドイツ沿岸部で、ユトランド半島の東にあるのがリューベック、ハンブルクは西、そのさらに西にブレーメンがある。

ナポレオン戦争・大陸封鎖令の影響でハンブルクは衰退、19世紀初頭にはロンドンが首位を占めるようになる。

面白い。

著者の研究書を一般読者向けに語り直したものらしいが、非常に良い。

通説と最近の学説を常に比較対照するのが興味深い。

こういう経済史なら私でも読める。

高校教科書での経済史がごく大まかにでも頭に入っていれば、十分読み進められるレベル。

200ページ弱と短いのも何より。

堅実な良書であり、お勧めします。

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ジャック・ル・ゴフ 『子どもたちに語るヨーロッパ史』 (ちくま学芸文庫)

著者はフランスの著名な中世史家。

アナール派社会史家で『煉獄の誕生』(法政大学出版局)などの著書で知られる、みたいなことは以前から知っていた。

大学で中世ヨーロッパ法思想史の講義を受けたとき、中世盛期に台頭著しい商人階層の救済のためにこれまでカトリックの教義には無かった煉獄という存在が生み出されて、何とかかんとかという話を聞いた際、ル・ゴフの名前も聞いた記憶がある。

上記本やその他の著作は私のレベルでは荷が重いので、たまたま目に付いたこれを読んでみた。

最近、やる気が出ないので、軽めのものばかり読んでますね・・・・・。

「子どもたちに語るヨーロッパ」と「子どもたちに語る中世」の2作品入り。

文字通り完全に子供向けのものなので、いくらヨーロッパ人読者を想定して書いたものでも内容については特にどうと言うことも無い。

自由で寛容で公正な統合ヨーロッパを目指そうとする著者の強い決意は心に迫るものがあるが、さすがに何か具体的史実で新たに知った情報は皆無。

ただ、中世の部分で、リューベックとハンブルクを中心としたハンザ同盟にロンドンが加入していたと読める文があり、「えっ?」と思って教科書で確認したら、単に在外商館があったというだけでロンドン自体は加盟していなかった。

あと、フランス革命の部分で、この短い紙数の中で、革命のプラス面だけでなくマイナス面にもきちんと触れているのは、極めて公平な態度だと思った。

260ページほどあるが、誰でも楽に通読できる。

是非読んでおくべきとは申しませんが、まあ機会があれば手に取っても損はしないんじゃないでしょうか。

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梅田修 『世界人名ものがたり 名前でみるヨーロッパ文化』 (講談社現代新書)

かなり前にこれを読んでいたのを、突然思い出した。

10年ほど前なので内容はよく憶えていないが、まあまあ面白かった記憶がある。

『世界人名~』というタイトルだが、実質ヨーロッパ人の名前だけについてあれこれ書いた本でしょう。

高校世界史で同じ人名でも国によって、チャールズ(英)、シャルル(仏)、カール(独)、カルロス(西)とか、ヘンリ(英)、アンリ(仏)、ハインリヒ(独)、エンリケ(西・ポ)とか呼び名が違いますが、そういうことも含むのか。

そういや、高校2年の時、世界史を担当してもらった先生はカール大帝やカール5世のことをチャールズ大帝、チャールズ5世とか言う人だったなと思い出した。

気さくでいい先生だったので今も感謝しているんですが、この呼び方は反ってややこしい。

さすがにヴィルヘルム1世や2世をウィリアムとは言ってませんでしたが。

すみません、書くことが無いので、今日はこれまでです。

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ジョゼフ・ギース フランシス・ギース 『中世ヨーロッパの城の生活』 (講談社学術文庫)

同じ著者の『都市の生活』『農村の生活』の読後感が比較的良好だったので、これも読みました。

領主・騎士という支配層から見た中世ヨーロッパ社会点描。

主に、11世紀から13世紀の中世盛期におけるイングランドとウェールズの事例が取り上げられている。

このシリーズすべてに言えることですが、読みにくいと感じた部分は軽く流して、どんどん読み進んだ方がいいです。

途中から興味がわいてくる文章が出てきて、楽にページが手繰れるようになりますので。

本書も、上記二著と同じく、なかなか良い。

社会史関連で、中世ヨーロッパはかなり類書が多い分野だと思いますし、他にもいい本が幾らでもあるんでしょうが、とりあえず『刑吏の社会史』『魔女狩り』『ペスト大流行』とこのシリーズ三点を読むだけにしておきます。

村の人口の大部分を占める農奴にとって、理屈の上では領主が絶対的権力者だった。領主は農奴の地代や奉仕の義務を勝手に増やしたり、所有物を差し押さえたりすることができるとされていた。しかし、実際のところは、昔から積み重ねられた慣習が法律と同じような効力を持っていて、領主の法的立場を制限していた。それに、小作人の奉仕がなければ領主の暮らしが立ちゆかないという現実もあったから、小作人たちが逃げ出したり、反抗を企てたりするほど締めつける領主はまれにしかいなかった。小作人は奉仕の義務を怠らない限り、小作地を維持し、跡継ぎに譲ることができたのだ。森や荒れ地も厳密には領主の所有物ではあったにしろ、小作人は慣習によって決められた範囲内で開拓することもできたのである。・・・・・小作人と領主との関係は互恵的、現実的であり、その上、永続的なものだった。農奴は土地にしばられてはいたが、同時に、その小作地を奪ってはならないという慣習によって守られてもいたのだ。

それぞれの階級の枠内で機会が均等に与えられ、隣人同士が協力して働き、身分と血筋の維持が重視された村の共同体の理念は、何世紀にもわたって保たれた。これとは対照的に、中世の都市生活者が理想とし、職人ギルドが目指した理念―各人がそれぞれの職業に勤しみ、作ったものを売り、極端な金持ちも貧乏人もいない社会―は、ほんの短い期間、しかも不完全な形で実現したにすぎず、やがて商業の発達によって大商人が生まれ、貧富の差がますます開いていくことになる。

村の理念が長く続いたのは、主に貨幣経済の浸透が地方ではゆっくりと進んだからである。成功した都市住民を豊かにしたような新しい事業や産業を起こす場は、荘園制のもとでは生まれにくかったのだ。イングランドで資本家農民が出現し、耕作地が囲い込まれて牧草地となり、小作人が賃金労働者に変わったのは十六世紀になってからだった。そして、歴史家R・H・トーニーの言葉によれば、「農奴はいなくなったが、救貧法が制定される」ことになってしまったのである。

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浜林正夫 『世界史再入門 歴史のながれと日本の位置を見直す』 (講談社学術文庫)

数ヶ月前に新刊情報の記事の中で、名前だけ出した本を通読。

さほど厚くない、一冊モノの世界史。

私程度の知識しか無い人間が、自分に合わないからといって一刀両断に切り捨てるのは、どんな本であれ宜しくないでしょうし、そんなのを読まされる方も鬱陶しいのはわかっているつもりですが、これについては言わずにおれない。

はっきり言って長所が全くわからない本でした。

「まえがき」で使用方法として、まず各章のまとめの節を先に読んでもらっても良いと書いてあって、こういうふうに明解な指針を読者に示してくれるのには好感が持てる。

しかし、そのまとめを読んでみても「うーん」と思うだけで、全世界史を一望の下に理解することができる認識軸を提示してくれているとは到底思えないし、さしたる感銘も受けない。

(著者には「そりゃ君の頭が悪いだけだ」と言われるかもしれませんが。)

その前後に記されている大まかな史実の流れは、高校教科書の記述を薄めに薄めた絞りかすみたいな文章で、全然面白くない。

最後の「補論 世界史像の再構成へむけて」はまあ興味深い点が無いでは無いが、著者と同じ考えを持てない読者にとっては「???」の連続ではないでしょうか。

(なお、現代史の部分で著者の相当に左派的な立場が打ち出されていますが、そういうことだけで文句を付けているのではありません。)

同じ世界史概説でも、ウィリアム・マクニール『世界史』(中央公論新社)(現在は中公文庫に上・下巻が収録)や宮崎市定『アジア史概説』(中公文庫)と比べれば、天と地ほどの差を感じる。

この両書とはそもそもページ数が違うと指摘されれば、やや対象範囲がせまいとは言え、同じく薄い文庫本である松田壽男『アジアの歴史』(岩波現代文庫)と比べても役に立つ視点が少な過ぎると言いたい。

「読む価値無し」と断言する気はありませんが、積極的にお勧めする気もゼロです。

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ジョゼフ・ギース フランシス・ギース 『中世ヨーロッパの農村の生活』 (講談社学術文庫)

ちょっと前に記事にした『中世ヨーロッパの都市の生活』の姉妹編。

同じ講談社学術文庫に『中世ヨーロッパの城の生活』も収録されている模様。

本書では13世紀イングランドのエルトンという村を定点観測することで、中世農村の暮らしを再現している。

村の概観と領主の支配、村人の身分・階層別と日々の生活、共同で行なう農作業と牧畜、冠婚葬祭と教会、司法の実態などが史料に忠実に描写されている。

厳しい秩序と支配の下にありながら、慣習という強固な拠り所を武器にして、自らの利益を守る農奴と自由農民の姿が印象的。

現在よりもはるかに過酷で貧しい生活を送ってはいるが、本質的には我々とあまり変わらない心性を持った人々が織り成す悲喜劇が垣間見れる。

終章の黒死病とワット・タイラーの乱を経た中世末期の記述もなかなか面白い。

本書も、細かなところに引っ掛からずざっと一読してイメージをつかむための本なので、下手に何かを憶えようとしない方が良い。

最初はやや取っ付きにくいが、途中からは読むスピードも上がるでしょう。

結構面白いのでお勧めします。

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ジョゼフ・ギース フランシス・ギース 『中世ヨーロッパの都市の生活』 (講談社学術文庫)

私にしては珍しく社会史の本。

中世ヨーロッパと言っても、時代も地域も広範囲に及ぶが、本書では西暦1250年におけるフランス・シャンパーニュ地方の都市トロワを取り上げ、その社会を詳しく描写している。

この地方の領主シャンパーニュ伯の系図などが出てきますが、こんなのは別に憶える必要は無いでしょう。

社会史の本ではあるが、具体的な事実を記した生活史であり、抽象的な心性史・精神史ではないので、私でも楽しく読める。

著者は専門の歴史研究者ではなくアメリカの作家で、原著は1960年代末に書かれたもの。

そのせいか、難解な部分は全く無く、平易で読みやすい。

当時の都市住民の衣食住と冠婚葬祭、市政の運営と広範な経済取引、教会の文化事業についてわかりやすく述べられている。

役人、職人、商人、聖職者、学生が織り成す様々な活動を生き生きと知らせてくれる。

なかなかの本だと思います。

中世ヨーロッパ史の副読本として、たまにはこういう本を読むのも良いでしょう。

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加藤祐三 川北稔 『アジアと欧米世界 (世界の歴史25)』 (中央公論社)

タイトルを見て、主に19世紀におけるアジアの植民地化の歴史をざっと叙述する本なんだろうなあと思って目次を眺めたら、何やら様子が違う。

広く近代以降のアジアと欧米諸国との貿易や国際関係について概観する内容らしく、「そういうテーマ史だけで一巻費やすの?」と奇異の念に捕われる。

ギリシア・ローマ史のように明らかなページ数不足と思われる地域と時代もかなりあるのに、この配分は、意気込みは買うにしてもやはりちょっと変じゃないかと言いたくなる。

そういうモヤモヤした気持ちを抱えながら読み始めたが、最初の二章は特に悪くもないが、大して面白くもない。

「こりゃやっぱりハズレかな」と思いながら、川北氏(『砂糖の世界史』の著者)執筆の第3章以降に入ると、印象が全く一変する。

極めて良質で有益な経済史。

「近代世界システム」、「17世紀の危機」、「ジェントルマン資本主義」などの用語を極めて平易に説明してくれている。

大航海時代以降、世界規模の貿易システムが展開した後、ヨーロッパの生活革命に連動して貿易構造が変化し、それが覇権国の盛衰を引き起こす様を、まるで手に取るようにわかりやすく理解させてくれる。

私は他の概説書で、これほど面白い経済史を読んだことがない。

素晴らしい。傑作。

上記『砂糖の世界史』を読むより、少々手間でも本書を読んだ方がはるかに良いと思う。

これには本当に感心させられました。

川北氏の担当章が終わると、加藤氏には申し訳ないのですが、かなりテンションが下がります。

しかし「拙著『イギリスとアジア』(一九八〇年)」という言葉を見て、「えっ」となる。

私は未読ですが、このタイトルの岩波新書はかなり前から知ってましたし、結構有名ですよね。(追記:←と、最初にこの記事を書いたときには思ったのですが、ひょっとして『イギリスと日本』と勘違いしていたんではないかと、読み返して気付きました。)

調子が良過ぎるかもしれませんが、それを知ると、何か前半の文章よりかは面白いと思えるようになった。

日本の開国を扱った章では、幕府の外交をその当時としては最善に近いものだったとして高く評価しているのが印象的。

最初と最後はもう一つですが、中盤は非常に面白くてためになる。

相変わらず自分の第一印象は当てにならんなと反省させられました。

あと、最後の参考文献欄と年表を眺めていて思ったことを書きます。

この巻だけじゃなく中公新版の全集すべてに当てはまるのですが、参考文献がただ並べてあるだけで、著者のコメントが一切付いていないのが非常に残念です。

講談社旧版の全集ではコメントが付されており、これがものすごく助かる。

各書の特徴や難易度、適切な用途など、ごく簡略に一言二言書かれているだけでも初心者にとっては極めて有益で参考になるんですが。

それと年表があまり役に立たないことが多い。

ほとんどの巻で上段が主要対象地域、中段がその他の地域、下段が同時代の日本という構成で、特色が無い。

狭いスペースで無理に同時代の事項を付け加えているので、肝心の主要史実の年表はただ漫然と並べてあるだけという感じになってる。

もうちょっと工夫してわかりやすく有益なものに出来ないでしょうか。

一般向け啓蒙書として、そういう行き届いた配慮があればなお良かったのにと思ってしまいました。

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