カテゴリー「全集」の49件の記事

中公新版「世界の歴史」について

最終巻の記事から数ヶ月も経って、「今さら」という感じもしますが、中央公論社新版世界史全集の感想を改めて書いてみます。

(基本的に各巻の記事でバラバラに書いたことの繰り返しですが。)

高校で世界史を習って興味を持ち、より詳しく知るために手に取ったという、おそらく最大公約数的な想定読者の立場で言うと、ちょっと困るなという記述が多数ありました。

執筆者の方の専攻分野に関することを長々と述べたり、理解に苦しむ詳細なことに多くの紙数を割いたり・・・・・・。

名編集者と謳われた宮脇俊三氏が携わった旧版に比べると、そういった逸脱へのチェックが極めて甘いという印象を受けます。

また叙述形式として、旧来の政治史、伝記偏重の通史が否定されるのはやむを得ないとしても、あまりにも社会史・生活史・心性史・文化史だけに焦点を合わせ過ぎた、逆の偏りがしばしば感じられるのも残念。

まず基礎的な政治史を述べながら、新しい視野から見た歴史像を上手く付け加えるということも可能なはずだし、この全集でも出来のいい巻はそれに十分成功している。

それを達成しているビザンツ・イスラムなどの巻は、読者がその時代と地域に馴染みが薄いことを自覚しているがゆえに、著者が慎重に叙述を進めたせいだろうか。

しかし、これまでの世界史全集の中心だった中国史とヨーロッパ史の巻では失望することが多かった。

極めて役に立つと感じた巻とほとんど得たものが無いと感じた巻の差が極端。

全30巻を通読するのは相当骨が折れるし、「是非挑戦して下さい」とは言い難い。

むしろ前近代に関してはやはり旧版を読んだ方がいいんじゃないかという気さえしてくる。

なお、以下五段階評価で各巻を分類してみます。

一巻が何部かに分かれている場合、悪い方の部分に引きずられて評価してますので、各巻の記事で書いたよりも厳し目の評価になっていると思います。

「最高、言うこと無し」

『3 古代インドの文明と社会』

『8 イスラーム世界の興隆』

『11 ビザンツとスラヴ』

『18 ラテンアメリカ文明の興亡』

「まあまあ、面白いです」

『13 東南アジアの伝統と発展』

『16 ルネサンスと地中海』

『17 ヨーロッパ近世の開花』

『20 近代イスラームの挑戦』

『22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』

『25 アジアと欧米世界』

「普通・・・・・ですかね」

『1 人類の起源と古代オリエント』

『4 オリエント世界の発展』

『5 ギリシアとローマ』

『6 隋唐帝国と古代朝鮮』

『12 明清と李朝の時代』

『15 成熟のイスラーム社会』

『24 アフリカの民族と社会』

『26 世界大戦と現代文化の開幕』

『28 第二次世界大戦から米ソ対立へ』

「いや、これはちょっと・・・・・」

『7 宋と中央ユーラシア』

『9 大モンゴルの時代』

『14 ムガル帝国から英領インドへ』

『19 中華帝国の危機』

『21 アメリカとフランスの革命』

『23 アメリカ合衆国の膨張』

『27 自立へ向うアジア』

『29 冷戦と経済繁栄』

『30 新世紀の世界と日本』

「勘弁して下さい・・・・・」

『2 中華文明の誕生』

『10 西ヨーロッパ世界の形成』

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下斗米伸夫 北岡伸一 『新世紀の世界と日本 (世界の歴史30)』 (中央公論新社)

とうとう最終巻です。

冷戦終結から本書が刊行された1999年までの約10年間の日本と世界の動きを記したもの。

もちろんテーマによっては80年代やそれ以前にも遡って説明されるが、前巻の記述範囲に比べると、ややバランスに欠けるような気がしないでもない。

確かに1989~91年あたりの国際情勢の変化は激烈であり、ここで時代を区切るのはある意味当然なんですが。

この辺は私にとって新聞・テレビ・雑誌で完全に動きを追っていた時代であり、ああこういうのも「歴史」になったんだなあと、ある種の感慨に浸ってしまう。

著者の分担は、ごく大まかに言って下斗米氏が世界情勢全般、北岡氏が日本と東アジアです。

またまた偉そうな感想で恐縮ですが、下斗米氏執筆の章はどうもイマイチ。

言いにくいんですが、文章があまり上手くないのではないかと・・・・・。

文と文とがうまく繋がっていないと思われる箇所が相当数あった。

内容自体は普通なんですけど。

北岡氏の章は文意も論旨も明解で読みやすいですが、特筆すべき点はやはり無し。

本書刊行からさらに10年経った現在ではやや古くなりましたが、ポスト冷戦期の国際関係史としては希少価値はあります。

ただこういう完全な同時代史についてはあまり類書を知らないので、初心者向けの本としての的確な評価は下しかねます。

まあ悪い本じゃないとは思います、はい。

ようやくこの中公新版「世界の歴史」も終わりましたね。

去年の夏から始めて半年弱かかりましたが、自分としてはかなりのハイペースでした。

全巻通読した感想は、基本的に各巻の記事の中で書いたことの繰り返しになりますので、ここでは書かないでおきます。

ちょっと間隔を空けて、改めて記事にするかもしれませんが。

ごく簡単に言えば、基礎を固めるために世界史全集をどれか一つ読みたいと決意された場合、これを選ぶのが無難かなあとも思うのですが、時々「これは到底初心者向けじゃないだろ」という部分が出てきて厄介、ということになります。

諸手を挙げてお勧めできる、という感じじゃないのが難しい。

文庫版も刊行中ですが、それを書店で見て、面白そうならとりあえずその巻だけ手にとってみるというのでいいのかもしれません。

さて、次に何を読むべきか。

一度日本史の全集を一つ通読すべきかなとも考えます。

何しろ近現代の外交史を除けば、自分の知識は依然高校教科書のレベルに留まっているので。

というか、高校教科書でも細かな部分は頭に入ってないのだから、本当に自分の血肉となっている日本史知識は小学校の頃読んだ学研版『漫画日本の歴史』だったりする。

いくら何でも情けないので、近年再文庫化された中公旧版『日本の歴史』でも読もうかと思ったことがあったが、日本史の全集は世界史のそれよりも経年劣化が激しいというか、ある程度新しいものでないと信頼して読めないという気がする。

どうしたもんかなあと今検討中です。

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猪木武徳 高橋進 『冷戦と経済繁栄 (世界の歴史29)』 (中央公論新社)

1950年代以降の国際政治史。

末尾は1990年ドイツ統一までで、残り一巻あるはずなのに「えっ、ここまで進むの?」という感じ。

半分くらいのページが経済史に費やされているが、経済に関しては誇張じゃなしに高校生並みの知識しかないので、理解に苦しむところが多い。

完全に理解できなくても何とか頭の中で話の辻褄が合うようにするため、2、3度読み返すことがあった。

全般的な感想を言うと、いろいろな事項を盛り込もうとするあまり、雑然とした印象を受ける。

うまく言えませんが、話の筋が通ってないというか、一貫した視点によって練られた史書という性質が希薄で、史実の羅列と思える点が多いのは残念。

と言って、戦後史について非常に詳しいデータが載っているという印象も無いのが不思議。

米ソ欧中の大国間の外交に焦点を絞って綿密に叙述するでもなく、各地域の政治情勢を詳しく取り上げるというのでもない。

どっちつかずで、私には良さが汲み取れない。

また偉そうな感想で申し訳ありませんが、率直に言ってあまり面白くないです。

国際政治史としては、相当古い本であっても文春大世界史の猪木正道『冷戦と共存』や、講談社旧版の猪木正道 佐瀬昌盛『現代の世界』の方が面白いし、初心者にとって有益と思われる。

それに加えてやはり高坂正堯『現代の国際政治』(講談社学術文庫)(前2著に比べれば新しいがこれも文庫化から20年ほど経ってる)の三つを基本テキストにしたい。

まあ好みの問題もありますから、押し付ける気は毛頭ございませんが、本書はあくまで副読本として使うべきではないかなあと思います。

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油井大三郎 古田元夫 『第二次世界大戦から米ソ対立へ (世界の歴史28)』 (中央公論社)

1939年第二次世界大戦開戦から1960年代初頭辺りまでが対象範囲。

ただし終章のヴェトナム戦争の項は1975年の戦争終結まで扱われている。

本書のように1945年で区切らずその前後を通して記述するというのは、最近の本では珍しくないんですかね?

私の場合、感覚が古いせいか、何か違和感があるんですが。

叙述の質自体はまたもや普通です。

取り立てて言うべき長所も無いかわり、大きな欠点も無いといった感じ。

戦中期を扱った前半より、戦後期の後半の方がやや面白いが、話があちこちに飛ぶので、年代をある程度把握していない人は少し混乱するのではないかと思った。

個々の記述では興味深い点があるのに(例えば古田氏[『ホー・チミン』(岩波書店)の著者]が書いたヴェトナム戦争史など)、少々まとまりに欠けるという印象を与えるのが残念。

戦後の国際政治史はわりと得意なので(あくまで他の分野に比べればの話ですが)、やや物足りないし、もうちょっと明解で突っ込んだ記述にならないものかなあと思ってしまった。

以下、瑣末な事項ばかりですが、個人的にメモしておきたいことの羅列です。

1943年ムッソリーニ失脚後のバドリオ政権に対し、自由党・キリスト教民主党・共産党・社会党などレジスタンス勢力の国民解放委員会は一時不承認政策を取り、ムッソリーニが北部で組織した「イタリア社会共和国」と並んで三つの政治勢力が分立した状態になる。

44年3月にモスクワと共産党指導者トリアッティが統一戦線方式を提唱して、バドリオ政権が国民解放委員会代表を含む形で改組された。

6月に米英軍がローマを占領し、国民解放委員会主導のボノーミ政権樹立。

(この辺の経緯はロマノ・ヴルピッタ『ムッソリーニ』(中央公論新社)に載っているはずだが、ほぼ忘れていた。)

インドネシアの対蘭独立戦争の最中、1948年9月元首相のシャリフディンと共産党指導者のムソが率いる左派系組織「人民民主戦線」が、ジャワ島東部マディウンでスカルノ率いる中央政府に対して反乱を起こす。

このマディウン蜂起は中央政府に鎮圧されるが、これがアメリカにインドネシア独立運動の「容共性」の疑念を晴らすという意外な働きをし、その後国連で独立支持の決議が採択され、49年12月のハーグ協定で独立承認となる。

なお1948年にはマラヤ・ビルマ・フィリピンなど他のアジア地域でも共産党が他の民族主義勢力から離れて武装闘争路線に入ったが、これについて2月インドのカルカッタで開かれた共産党系の青年組織会議でソ連からの指令があったとの説が有力で、そういう話は高坂正堯『現代の国際政治』(講談社学術文庫)はじめ、いろいろな本に出てくる。

同48年のチェコ・クーデタ、ユーゴスラヴィアのコミンフォルム追放、ベルリン封鎖などと連携したソ連の攻勢の一環と思われるが、本書では「最近では、この説の信憑性は疑われている」としているが、論拠が書いてない。

ソ連崩壊後の文書公開でもその手の指令が見つからなかったとか、そういうことでしょうか?

インドネシアとは対照的に対仏闘争を行うヴェトナム民主共和国を、アメリカは強い疑念を持って見ていた。

「自由タイ」勢力が政府を組織していたタイは一時フランス復帰に反対する北ヴェトナムに同情的でバンコクに代表部設置を許可していたが、47年ピブン派軍人のクーデタが起きると反共政策に舵を取り、関係が悪化(村嶋英治『ピブーン』(岩波書店)参照)。

1960年コンゴ動乱で一時分離独立したカタンガ州は南部にあることを確認。

ちょっと詳しい本ならこの地名は必ず出てくるのに、地図がなかなか載ってないんですよねえ。

後半部に入ると、新たな知識や視点を得ることができてなかなか良いです。

生意気な言い方ですが、このシリーズの平均点はクリアしてると思います。

さて、本年もこれで最後です。

年が明けても、もうしばらくの間、今くらいのペースで更新を続けたいと思っておりますので、よろしければお付き合い下さい。

それではよいお年を。

(追記:本記事もいつも通り午前6時に更新されるよう設定してあったのですが、昼前の時点で反映されていないようでしたので、手動で更新しました。以前もこういう現象がありましたので、しばらく更新時間が不規則になるかもしれません。)

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狭間直樹 長崎暢子 『自立へ向かうアジア (世界の歴史27)』 (中央公論新社)

20世紀以降の民族独立史。

タイトルに「アジア」とあるが、記述対象は第1部の中国と第2部のインドだけ。

目次見た途端にガックリきました。

この全集も残り3巻ですが、以後は国際関係の概説だけのようだし、中印以外のアジア・アフリカ諸国の詳しい独立史が記されているとも思えない。

地域ごとの巻でも、19・20世紀の歴史についてはそれほど細かな記述は無かった気がする。

この中公新版は巻数が多い分、世界史のほとんどの地域と時代をカバーしているという印象があったのですが、何やら必ずしもそうとは言えないのではないかという疑念が頭をもたげてきます。

変なところで昔ながらの世界史全集に見られた主要国中心主義のケがありますね。

気乗りしないまま第1部の中国現代史を読み始めたのですが、うーん・・・・・と首を傾げてしまう。

近現代史に関して右とか左とかいう鬱陶しい話は出来るだけしない方がいいんでしょうし、ちょっとでも左派的なことを書いてたら無条件でダメだなんて偏狭なことを言うつもりは毛頭無いんですが(恥ずかしながら以前そう考えていたことがあったのです)、本書の記述にはやはりある種の「硬直」や固定観念を感じる。

辛亥革命から日本の敗戦までの主要史実をコンパクトにまとめてあるところは長所と言えるのかもしれませんが、史実の評価や整理の仕方に関しては斬新で感心するような新たな視点はほとんど無いと言わざるを得ない。

10年前ならこれが平均的記述というところだったんでしょうし、今世間で溢れている単純で偏狭な反中国世論に基いて再解釈された歴史が正しいとも思いませんが、個人的にはやはりちょっとついて行けない部分が多かった。

第2部のインド独立史に入っても、どうももう一つ。

長崎氏は『インド大反乱1857年』の著者で高名なインド研究者なんでしょうが、あんまり面白いと思わない。

ただ、他の概説でも植民地化以後のインド史にはあまり興味が持てず、面白く読んだ覚えが無いので、単に私個人の問題かもしれませんが。

僭越ながら正直な感想を言わせて頂くと、残念ながらこの巻はハズレです。

あんまり得たものはありませんでした。

この全集を通して読む場合、避けてとばすほど悪いとは思いませんが、20世紀前半の中国史、インド史を知るためにわざわざこれを選ぶ必要も無いのではないかと言わざるを得ない。

まあ自分の無知を棚に上げて本の悪口言うのが大好きな私ですから、話半分に聞いて下さい。

当たり前過ぎますが、最終的には皆様が読んでご判断下さい。

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木村靖二 柴宜弘 長沼秀世 『世界大戦と現代文化の開幕 (世界の歴史26)』 (中央公論社)

両大戦間の米英仏独ソ各国史を中心にした概説。

第1部が第一次世界大戦とその余波、第2部が1920年代、第3部が30年代で末尾は第二次大戦開戦まで。

対象とする時期自体はさほど長くなくとも、極めて密度の濃い重要な時代なので、扱うべき事項が多く、厚さは普通なのに全部で17章もある。

その分1章ごとのページ数は少ないが、これを読みやすいと見るべきか、内容が薄いと見るべきか。

読み始めてみると、最初の方はあまり詳しくもなく、どうも漫然とした記述が続くだけのように思えて、もう一つである。

しかし、途中から最近の研究成果に基いた史実の新たな見方を紹介してくれる文章が増えて、割と面白くなってきた。

特にナチ体制の実像を叙述した章はなかなか。

第二次大戦へと向かう外交史も宥和政策の評価などが興味深いし、挿入される個々のエピソードも印象的で歴史の流れを記憶する助けになる。

後になればなるほど良い。

非常に楽にページを手繰ることができ、休日に部屋で寝転がりながら眺めてたら土日の二日で読めました。

しかし、記述が必ずしも時系列順になっておらず、話の配列が上手くないような感がするのは気のせいでしょうか。

読後感は比較的良好なのですが、教科書レベルの次に即読むべき本かというと迷ってしまう。

内容に時代遅れの面があっても、個人的にこの時代の概説としては、まず文春大世界史シリーズの林健太郎『二つの大戦の谷間』野田宣雄『ヒトラーの時代』を推奨したい。

「こんな骨董品勧めるなよ」と言われるでしょうが、高校世界史に毛が生えた程度の初心者(つまり私)のための啓蒙書という観点からすれば、この二書の完成度は本当にただごとではないです。

まずこれらを読んだ後、本書に取り組めばより多くのものを得られると思います。

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加藤祐三 川北稔 『アジアと欧米世界 (世界の歴史25)』 (中央公論社)

タイトルを見て、主に19世紀におけるアジアの植民地化の歴史をざっと叙述する本なんだろうなあと思って目次を眺めたら、何やら様子が違う。

広く近代以降のアジアと欧米諸国との貿易や国際関係について概観する内容らしく、「そういうテーマ史だけで一巻費やすの?」と奇異の念に捕われる。

ギリシア・ローマ史のように明らかなページ数不足と思われる地域と時代もかなりあるのに、この配分は、意気込みは買うにしてもやはりちょっと変じゃないかと言いたくなる。

そういうモヤモヤした気持ちを抱えながら読み始めたが、最初の二章は特に悪くもないが、大して面白くもない。

「こりゃやっぱりハズレかな」と思いながら、川北氏(『砂糖の世界史』の著者)執筆の第3章以降に入ると、印象が全く一変する。

極めて良質で有益な経済史。

「近代世界システム」、「17世紀の危機」、「ジェントルマン資本主義」などの用語を極めて平易に説明してくれている。

大航海時代以降、世界規模の貿易システムが展開した後、ヨーロッパの生活革命に連動して貿易構造が変化し、それが覇権国の盛衰を引き起こす様を、まるで手に取るようにわかりやすく理解させてくれる。

私は他の概説書で、これほど面白い経済史を読んだことがない。

素晴らしい。傑作。

上記『砂糖の世界史』を読むより、少々手間でも本書を読んだ方がはるかに良いと思う。

これには本当に感心させられました。

川北氏の担当章が終わると、加藤氏には申し訳ないのですが、かなりテンションが下がります。

しかし「拙著『イギリスとアジア』(一九八〇年)」という言葉を見て、「えっ」となる。

私は未読ですが、このタイトルの岩波新書はかなり前から知ってましたし、結構有名ですよね。(追記:←と、最初にこの記事を書いたときには思ったのですが、ひょっとして『イギリスと日本』と勘違いしていたんではないかと、読み返して気付きました。)

調子が良過ぎるかもしれませんが、それを知ると、何か前半の文章よりかは面白いと思えるようになった。

日本の開国を扱った章では、幕府の外交をその当時としては最善に近いものだったとして高く評価しているのが印象的。

最初と最後はもう一つですが、中盤は非常に面白くてためになる。

相変わらず自分の第一印象は当てにならんなと反省させられました。

あと、最後の参考文献欄と年表を眺めていて思ったことを書きます。

この巻だけじゃなく中公新版の全集すべてに当てはまるのですが、参考文献がただ並べてあるだけで、著者のコメントが一切付いていないのが非常に残念です。

講談社旧版の全集ではコメントが付されており、これがものすごく助かる。

各書の特徴や難易度、適切な用途など、ごく簡略に一言二言書かれているだけでも初心者にとっては極めて有益で参考になるんですが。

それと年表があまり役に立たないことが多い。

ほとんどの巻で上段が主要対象地域、中段がその他の地域、下段が同時代の日本という構成で、特色が無い。

狭いスペースで無理に同時代の事項を付け加えているので、肝心の主要史実の年表はただ漫然と並べてあるだけという感じになってる。

もうちょっと工夫してわかりやすく有益なものに出来ないでしょうか。

一般向け啓蒙書として、そういう行き届いた配慮があればなお良かったのにと思ってしまいました。

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福井勝義 赤阪賢 大塚和夫 『アフリカの民族と社会 (世界の歴史24)』 (中央公論社)

私にとって四冊目のアフリカ史。

3部構成で、第1部が人類学や民族学の視点から見た概説。

アフリカの多くの地域が無文字社会だったのだから、こういう記述が多いのも仕方ないが、これを面白く読めるかというと、私の能力では無理としかいいようがない。

言語による民族分類が載っていたので、それをメモ。

1.ニジェール・コンゴ語族

アフリカ全言語の三分の二が属する。そのうち最大のグループがバントゥー諸語。

カメルーンとナイジェリア国境辺りから東部および南部の広範囲に広がる。

ケニアのキクユ語、ウガンダのガンダ語、南アフリカのズールー語も含む。

東アフリカのスワヒリ語もバントゥー語にアラビア語の語彙が多く入って形成されたもの。

2.ナイル・サハラ語族

ソンガイ語、マーサイ語、カヌリ語(ボルヌ・カネム王国の言語)など。

3.アフロ・アジア語族。

かつての「ハム・セム語」。アラビア語、エチオピアのアムハラ語、古代エジプト語、ベルベル語群など。

4.コイサン語族。

かつての「ホッテントットおよびブッシュマン語」。ナミビアのナマ語を除けば消滅途上にある。

あと、第1部では133ページの現代アフリカ地図をじーっと眺めて、できるだけ多くの国名を頭に入れる。

白地図で正確な位置を示せなくても、国名を聞いて東西南北、中央のどの地域にある国か、大体でいいから言えるようになりたい。

第2部に入ると、普通の通史。

本文を読み進める途中で、164ページの王国分布図に面倒くさがらずに立ち返り、ごく大まかな位置関係を確認した方がよい。

高校教科書で必ず出てくる王国はクシュ、アクスム、ガーナ、マリ、ソンガイ、モノモタパの六つだけだが、本書ではその他にアシャンティ、ダオメー、ヨルバ、ハウサ、カネム・ボルヌ、エチオピア、ガンダ、コンゴ、ズールーあたりを押さえておきたい。

位置関係の他にできれば大体の存続期間も頭に浮かぶようになればなおよい。

ヨーロッパ勢力が進出し始めた15・16世紀以降に繁栄した国も結構あることにご注意。

第3部はイスラム・アフリカ史。

イスラム改革・復古運動の記述が多く、やたら細かい人名・地名・教団名が出てくるので読むのが疲れる。

時々ムハンマド・アフマドとかサモリ・トゥーレとか知っている名前が出てくるが、読み通すのにやや苦労することに変わりなし。

細かな部分は無理に覚えようとしなくてもいいでしょう。

ただリビア独立時の王朝のイドリス朝がその手のイスラム改革教団から生まれたものだということは記憶に留め置いた。

その他、1147年ムワッヒド朝滅亡後のマグリブ地域で、モロッコのマリーン朝、アルジェリアのザイヤーン朝、チュニジアのハフス朝という三つの王朝が成立したことをメモ。

モロッコのマリーン朝は15世紀半ばにワッタース朝に取って代わられ、スペイン・ポルトガルの進出にワッタース朝が有効に対抗できないうちに、さらにサアド朝に倒された。

ガーナ王国がムラービト朝に滅ぼされたことは高校教科書にも載っているが、後継国家のマリ王国とソンガイ王国の衰亡もこのサアド朝モロッコの攻撃が原因になっている。

サアド朝は1659年アラウィー朝に倒され、このアラウィー朝系統の王家が現在でもモロッコで王制を敷いている。

第1部と第3部がもう一つといった感じですが、第2部はコンパクトにまとまってよく出来ていると思うし、『新書アフリカ史』に取り組む前の予習として使えば、有益と言えるのかもしれません。

まあまあの内容を持つ本じゃないでしょうかね。

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紀平英作 亀井俊介 『アメリカ合衆国の膨張 (世界の歴史23)』 (中央公論社)

19世紀初頭からウィルソン政権までのアメリカ史。

通常の政治史は最初から三分の二だけで、残り三分の一が文化史に当てられているのがいかにも今風の概説です。

前半部では、政治構造の変遷を中央政府と州の関係や、経済・社会の動き、奴隷制度をめぐる論争などと絡めながら、比較的わかりやすく説明している。

ただ必ずしも大統領の任期ごとにまとめられたものではないので、ビアード『アメリカ政党史』の記事で書いたような歴代大統領の一覧を手元に置いて参照した方がよい。

文化史の章は、エマーソン、ソロー、ホーソン、メルヴィル、ホイットマンなどの文学者だけを取り上げたものではなく、エンタテイメント的な大衆娯楽や技術史、風俗史なども含めた多彩な内容。

楽に読めて、特に違和感を覚える部分も無い。

しかし個人的には何か感銘を受けるほどでもない。

書くことが無くて困ります。

まあ普通の概説ということで。

個々の史実に深入りしないのがやや物足りないし、登場人物の描写にもう一つ面白みが無かったような気がしないでもない。

これも無いものねだりかもしれませんけど。

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谷川稔 北原敦 鈴木健夫 村岡健次 『近代ヨーロッパの情熱と苦悩 (世界の歴史22)』 (中央公論社)

19世紀ヨーロッパ史の巻。

第1部がフランス・ドイツ史、第2部がイタリア史、第3部がロシア史、第4部がイギリス史という構成。

こう書くと、いかにも大国中心の偏った記述とも思われるが、実際この時代の主要な史実はほとんど上の五か国の歴史の中に収まってしまうのだからしょうがない。

この時代のスペイン・ポルトガル・オランダ・北欧諸国などの歴史を同じ密度で叙述するのは不可能だしその意味も無いと思うので、これでいいと割り切る。

それにスペイン立憲運動やベルギー独立などの重要史実は一応触れられているので、問題無い。

さて、肝心の内容ですが、かなり良くできていると思われます。

事実関係でそれほど詳細な記述は少ないですが、要領がよく流れるような説明ですっきりと頭が整理されます。

しばしば通説と異なった史的解釈が記され、それが非常に興味をかき立てて面白い。

「従来はこう考えられてきたが、最近の学説ではこうだ」という形で、読者に斬新な視点を平易に持たせてくれる。

特に第1部と第4部にはそれを感じる。

以下、脈絡の無いメモと感想。

第1部では、フランス革命とその反作用として生じたドイツ・ナショナリズムの双方に冷ややかな視線を向けるゲーテや、自身が最も愛着を持つプロイセンの伝統が統一ドイツに吸収・消滅させられることを恐れて、皇帝即位を忌避し泣き崩れるヴィルヘルム1世などの描写が非常に興味深い。

歴史の多面的な見方を教えてくれる良質な文章。

なお、ゴーロ・マン『近代ドイツ史』からの引用がしばしば載ってますが、この本は絶対に読むべき傑作です。

セバスティアン・ハフナーの『ドイツ帝国の興亡』『プロイセンの歴史』も是非参照して下さい。

第2部について、マックス・ガロ『イタリアか、死か』の記事で教皇領の北側三分の二が普仏戦争を待たずに併合されてるようだと書いたが、やはり1860年ガリバルディのシチリア・ナポリ征服直後に教会国家のマルケとウンブリアの二地域が住民投票を経て併合されたと簡単に書いてあった。

第3部では書くべきことは特に無いが、過去の帝政ロシアでの上からの改革の再評価や農村共同体(ミール)の認識と評価の変遷などが面白かった。

第4部、まず19世紀イギリスでの地主階級の優越が語られる。

地主階級は爵位を持つ貴族とそれを持たないジェントリに分かれ、ジェントリのうちには准男爵・騎士爵の保有者があり、それ以外のジェントリがエスクワイア(スクァイア)と呼ばれる(このスクァイアという言葉は確かアンドレ・モロワ『英国史』に頻出したはずだから、それを読む際覚えておいたほうが良い)。

産業革命によって台頭した中流階級は地主階級を敵視し打倒しようとするのではなく、彼らに強い憧れを持ち自らもそれと同化しようとする。

この上流階級の融合が社会の安定と保守的漸進的改革を可能にし、その意味ではイギリスにはブルジョワ革命は起こらなかったと書かれているのが興味深い。

あと、本文ではなくヴィクトリア女王の肖像画下の説明で、女王即位とともにジョージ1世以来のイギリスとハノーヴァーとの同君連合が終わったと書かれている。

これは高校世界史の範囲外なので、私はモロワの『英国史』を読むまで知らなかった。

女王即位から約30年後、普墺戦争でハノーヴァーはプロイセンに併合されるが、この時まで同君連合が続いていたらどうなっていたか、想像するとなかなか面白い。

本巻は極めて良好な出来だと思います。

個人的評価としてはイギリス史>フランス・ドイツ史>ロシア史>イタリア史といった感じですが、どの章も平均レベルは十分クリアしているはず。

同じ時代を扱った中公旧版『ブルジョワの世紀』、河出版『ヨーロッパの栄光』、文春大世界史『自由と統一をめざして』と比べれば(講談社旧版は未読なのでわかりません)、やはり本書がずば抜けてます。

現在の歴史学に沿った叙述形式と歴史解釈に則って書いても、これだけ面白いものができるという良いお手本と言えるのではないでしょうか。

ヨーロッパ史概説として、17巻『ヨーロッパ近世の開花』と同じく、手堅い良作。

それにひきかえ、中世史の第10巻は・・・・・・と言いたくなりますが、しつこいので止めておきましょう。

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