カテゴリー「ラテン・アメリカ」の13件の記事

ブラジル史についてのメモ その2

金七紀男『ブラジル史』(東洋書店)より。

1945年から64年の軍政開始まで、右派の全国民主同盟と左派の社会民主党・ブラジル労働党が対峙する政治情勢の模様。

1946~51年クーデタを起こしたドゥトラ将軍が大統領。

保守的で全国民主同盟寄り。

51年ヴァルガスが大統領復帰、左派的ポピュリズム政策を取るが行き詰まり54年に自殺。

暫定的なフィーリョ政権を経て、56~61年クビシェッキ政権(社会民主党・労働党)。

野心的経済開発計画を推進、60年ブラジリア遷都を行うが、インフレ進行。

以後も経済の調子が良くなるとインフレが進み失速するというパターンの繰り返しとなる。

61年小政党出身のクアドロス政権、全国民主同盟の支持を受け国内政策では左派から批判を受けるが、容共的な外交政策では右派からも反発され、政権運営が行き詰まり8ヶ月で辞任。

61~64年ゴラール政権(労働党)、経済危機と党派対立が続く。

64年軍事クーデタ勃発、軍政が開始(85年まで)。

大統領間接選挙導入、既成政党廃止。

与党として「国家革新同盟」(元全国民主同盟、社会民主党)、官製野党として「ブラジル民主運動」(元労働党)結成。

64~67年カステロ・ブランコ政権、67~69年コスタ・エ・シルヴァ政権を経て、69~74年最も抑圧的なメディシ政権が続くが、経済的には躍進を遂げ、「ブラジルの奇跡」と呼ばれる。

74~79年軍内穏健派のガイゼル政権を経て、79~85年フィゲイレード政権。

79年政党結成が自由化され国家革新同盟は民主社会党に、ブラジル民主運動はブラジル民主運動党になり、民主社会党から自由戦線党が分離、他に野党として労働者党、民主労働党などが結成。

軍政終了後、85~90年サルネイ政権、元民主社会党出身で軍政とも深い関わりを持つが、権威主義体制からの脱却に成功、しかし経済は混乱。

90~92年コーロル政権、経済政策の失敗と汚職で辞任。

92~95年イタマール・フランコ政権、蔵相カルドゾが新通貨レアル導入。

95~2002年カルドゾ政権、ハイパーインフレ収束、経済自由化を進め、高成長達成。

このカルドゾは中道右派のブラジル社会民主党所属と書いてあるが、上記民主社会党が改名でもしたのか?、それとも軍政以前の社会民主党が復活したのか?

残念ながら不明。

2003年以後労働者党出身のルラ現政権。

左派政権ながらインフレ抑制策と経済安定化策は前政権を継承、ただし所得格差是正に力を入れる。

最後に政党の勢力分布が載っているが、多党分立の上、名前だけだとどれが左派・右派でどんな立場かわからない。

新聞の国際面でたまにブラジル政治に関する記事が載っていても、わかりずらいのはこれが原因。

有力四政党のうち、ブラジル民主運動党と労働者党が与党、ブラジル社会民主党と民主党(自由戦線党から改称)が野党。

他に進歩党、共和党、ブラジル社会党、ブラジル労働党、共産党、(共産党から分かれた)社会民衆党など。

多すぎてよくわからん・・・・・・。

思ったより短くて読みやすい。

マイナー分野でこれくらいなら充分使える。

しかしやはり中公新書で『物語ブラジルの歴史』を期待したいものです。

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ブラジル史についてのメモ その1

金七紀男『ブラジル史』(東洋書店)より。

ペドロ1世統治時代が第一帝政。

君主権の強い欽定憲法制定。

新大陸では長年唯一の君主制国家。

メキシコとハイチがごく短期間帝政だったと書いてあったと思うが、メキシコは思い出せるが、ハイチがどういう状況だったのかは忘れた。

広大な領土が旧スペイン領地域のように分裂せず一体性を保ったのは帝政の求心力によると『ラテンアメリカ文明の興亡』で書かれていたが、本書ではそれを認めながらも、各地で分離独立の武装反乱が多く起こったことを挙げ、中央政府による軍事鎮圧で統一を維持したことも事実だとしている。

連合王国時代に併合していた最南部のスペイン系住民地域がアルゼンチンの支援を得て、ブラジルから分離、1828年ウルグアイとして独立。

この時の戦費負担増大から財政破綻・経済危機が起こり、1831年ペドロ1世退位、息子のペドロ2世即位。

9年間の摂政期を経て、1840年から第二帝政、これが1889年まで約半世紀続く。

1850年奴隷貿易廃止(国内の奴隷制度は維持)。

実証主義の影響を受けた革新的軍人台頭。

帝政の支持基盤で奴隷制を必要としていたリオデジャネイロの「コーヒー男爵」から、賃金労働者を使用して奴隷制維持に関心を持たないサンパウロのコーヒー・ブルジョワジーへ経済力が移動。

共和主義運動と奴隷制廃止運動が連動し始める。

1888年奴隷制が廃止されると、リオのコーヒー男爵も反君主制へ。

1889年フォンセッカ将軍のクーデタ、帝政崩壊、共和政移行。

以後の大統領名などは細かいのでパス。

要は、コーヒー生産州であるサンパウロ州とミナスジェライス州が連携して寡頭政治体制を確立。

この体制が1930年まで続く。

この年、前年の世界恐慌以後の混乱と軍事反乱の中でヴァルガスが政権を握り、ブラジルは新時代に入る。

このヴァルガスは高校世界史では名前の出る唯一のブラジル大統領、というか唯一のブラジル史の人物か。

なお細かいことですが、スペイン語の「V」音は「ヴ」とは発音しないそうで、例えばセルバンテス、ベラスケス、ベネズエラはこの日本語表記が適切らしいです。

ポルトガル語の場合は、「ヴァルガス」の表記でいいようです。

30~34年臨時大統領、34~37年正規大統領、37年に独裁色の濃い新国家体制に移行、以後45年まで、実に15年にわたって政権維持。

ファッショ的インテグラリズモ(統合主義)党と共産党の、極右・極左両党を弾圧した後、全政党を廃止して権威主義的支配体制確立。

ヴァルガスの権威主義は、ファシズムの影響を受けたが現状打破を目的に大衆を動員するファシズムそのものではなく、陸軍を後ろ盾に独裁政治を行ったが軍事独裁でもなかった。新国家体制の支持基盤は一枚岩ではなく、軍部のほかに工業ブルジョワジー、都市の中産階級と労働者に支えられていた。工業ブルジョワジーは工業化重視政策によってさまざまな恩恵を受け、中産階級は官僚組織の肥大化によるポストの増大や工業化による雇用の拡大で新体制を歓迎した。そして労働者階級は共産党の壊滅で牙を抜かれ、ヴァルガスの提示する労働者保護策を受け入れて新国家体制を容認し、体制のなかに組み込まれてしまった。世界の全体主義的な傾向も国民に独裁体制を抵抗なく受け入れさせる要因となった。

44年保守的反ヴァルガス派が「全国民主同盟」結成。

ヴァルガス派は「社会民主党」、「ブラジル労働党」結成。

ヴァルガスが子飼いの労組幹部らに作らせた労働党など左派勢力に軸足を置いて政権延命を計ると、社会民主党が反ヴァルガス派軍部に接近したとかなんとか、そんなことが書いてあった気がするが、ここのところはっきり読み取れない。

45年軍事クーデタでヴァルガス退陣。

まだ終わらないので、戦後史は続きで。

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金七紀男 『ブラジル史』 (東洋書店)

09年7月刊。

この国でまず押さえておくべきことは、中南米諸国のほとんどがスペイン語圏なのに対し、最大の国家ブラジルがポルトガル語圏であるということ。

(著者には『ポルトガル史』も有り。)

ハンチントン『文明の衝突』で、ブラジルの言語的な孤立がラテン・アメリカの地域大国の座を阻むと書いてあった。

本書ではまず地理的知識の確認をしてくれている。

南米大陸の約半分の面積を占めると書いてあって、そんなにもなるのかと思った。

隣国は北の方から、ギアナ三国(という言い方はしないのか)、西からガイアナ、スリナム、仏領ギアナ。

続いてベネズエラ、コロンビア、ペルー、ボリビア、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイ。

南米諸国で国境を接していないのはエクアドルとチリのみ。

自然環境では、北からアマゾン川、サンフランシスコ川、ラプラタ川の三水系があることを確認。

地理的区分として、北部、北東部、南東部、南部、中西部。

それぞれの州名は憶えなくてもいいでしょう。

ただ最重要都市のリオデジャネイロとサンパウロおよびその北にあるミナスジェライス州が南東部に属することと、1960年に現首都ブラジリアが中西部に建設されたことだけは暗記。

あと暗記の必要は無くとも、本文中に州名が出てきた時は、面倒臭がらずその都度巻頭地図で位置を確認した方が良い。

歴史部分に入って、まず1493年アレクサンドル6世の教皇子午線でスペイン・ポルトガルの新世界分割。

翌1494年トルデシリャス条約で境界が西方に移動、これで南米大陸の出っ張った部分がポルトガル領に。

この変更が、ポルトガル国王ジョアン2世がブラジルの存在に気付いていたが故の意図的行為なのか、それとも単なる偶然なのかは現在も不明。

1498年ヴァスコ・ダ・ガマのカリカット到着に続いて、1500年ちょうど、カブラルのブラジル「発見」。

カ「ブラ」ルから「ブラ」ジルを連想するのは、高校世界史で定番の語呂合わせ。

以後のポルトガル植民地時代は主要産品で時代区分。

1500~50年代  パウ・ブラジルの時代(国名の由来にもなった赤色の染料剤に利用する樹木)

1570~1670年  砂糖の時代

1690~1760年  金の時代

(独立後)1830~1930年  コーヒーの時代

ここで最初の目次に戻ると、大きく分けて第1部が植民地ブラジル、第2部が独立以後の近代ブラジル、そして第3部現代ブラジルの最初は帝政から共和政への移行ではなく、1930年後述のヴァルガス政権成立に置かれているのが特徴。

植民地時代の経済・社会史は軽く流します。

独立の前段階として、ナポレオンの圧迫を受けたポルトガル王室が英海軍に護衛されながらブラジルへ1807年に避難(本書で評されている通り、独立のいきさつもそうですが、このこと自体前代未聞で非常に特異な経緯を辿っています)。

ナポレオン没落後も王室はヨーロッパに帰らず、ブラジルを植民地から昇格させ、ポルトガル・ブラジル連合王国を形成。

1820年本国ポルトガルで自由主義革命が勃発、国王は新政府の要請を受け帰国。

自由主義新政府がブラジルを再び実質植民地の境遇に落とすことを通達すると、ブラジル社会各層が反発。

残留していた国王の長子ドン・ペドロを担ぎ、1822年ブラジル帝国として独立。

初代皇帝ペドロ1世、首都はリオデジャネイロ。

人口は400万近く、この時点ですでに宗主国のポルトガルを上回っていたという。

あるところで、ポルトガルとブラジルの関係について、旧植民地の方が旧宗主国よりもはるかに重要になってしまった珍しい例だと書かれていて、そう言えばそうかと思ったが、独立当初からかなりの程度当てはまることだったのかもしれない。

また長くなりそうなので、独立後は後日。

(追記:続きは以下

ブラジル史についてのメモ その1

ブラジル史についてのメモ その2

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高橋均 網野徹哉 『ラテンアメリカ文明の興亡 (世界の歴史18)』 (中央公論社)

まず目次を見て、何か「あれっ」と思う。

読み始めると、その違和感の正体がわかった。

前半部に書かれている、スペイン人侵攻以前と植民地時代の歴史を通じて、メソアメリカ文明とアステカ王国は極めて簡略に済まされており、叙述の重点は常にアンデス文明とインカ帝国に置かれている。

執筆者である網野氏の専攻分野の関係なんでしょうが、これはちょっとアンバランスではないかと・・・・・。

しかし、本文の内容自体はかなり良い。

以前記事にした『インカ帝国の虚像と実像』よりも相当わかりやすい記述。

スペイン人の侵攻後は、一方的に虐待・搾取され、全く為す術なく衰亡していったという、アメリカ先住民の一般的イメージに反し、様々な手段を通じて植民者への抵抗・妥協を行い生き延びていった賢明な人々といった面でインディオを捉えている。

例えば、有名なポトシ銀山も、初期の段階ではインディオが主導権を持って開発されていたなんていう意外な事実が紹介されている。

後半部、高橋氏執筆の独立以後の章も非常に良くできている。

最初に大まかな時代区分を設定し、その根拠を説明した後、個々の史実のうち重要なものを拾っていくというわかりやすい形式。

それもただ事実を漫然と並べるだけでなく、必ず背景説明を伴って叙述されるのですが、これが非常に明解ですっきりと理解できる。

史実の意味付けがしっかりしており、記憶に残りやすい絶妙な叙述で、本当に感心させられました。

この巻は当たりです。

大当たり。

全集を読んでいくと、私の場合のラテン・アメリカのような手薄な分野にも自動的に補充されていくのが良いですね。

特に、この巻は全集を通読しようと決意した人でなくても、単独でラテン・アメリカ史の標準的概説として手に取る価値有りです。

最初に書いた対象地域の偏りだけが瑕疵ですが、それ以外は何の欠点も無い。

強くお勧め致します。

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染田秀藤 『インカ帝国の虚像と実像』 (講談社選書メチエ)

タイトルが実に面白そうなので、取り寄せて読み始める。

しかし冒頭からスペイン人が書いた数々の記録文書の紹介が続く。

それぞれの著者の立場がその記述にどう反映しているかや、そうした文書が描き出すインカ文明像を検討しているのだが、では現実のインカ帝国の実像はどうだったのかという話は最後の第四章まで出てこないので、ちょっと辛い。

通常の形式のインカ帝国史またはインカ征服史とは言い難く、使いにくい本。

増田義郎『インカ帝国探検記』(中公文庫)をまず読むべき。

上記の本を読んで、余裕があればどうぞといった感じ。

特に面白くもなく、強くはお勧めしません。

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大垣貴志郎 『物語メキシコの歴史』 (中公新書)

先月下旬に出たばかりの新刊。

このシリーズで中南米地域では『物語ラテン・アメリカの歴史』は出ていたが、各国別の本はこれが初めて。

あとキューバ・ブラジル・アルゼンチン・ペルー・チリあたりは出そうですね。

気長に待ちましょう。

本書はまずスペイン侵入以前のメソアメリカ文明の記述から始まる。

ちなみにこのメソアメリカ文明という言葉は中米地域の諸文明のみを指し、インカ帝国に代表される南米大陸の諸文明はアンデス文明として区別されるようです。

似たような名前が多くて、少々面倒ですが確認しながら読むと、まず東部メキシコ湾岸地域にオルメカ文明が前1200年から前400年ごろまで栄える。

ユカタン半島では、誰でも知ってるマヤ文明が前500年ごろからスペイン人による征服まで盛衰を経ながらも存続。

メキシコ高原地域ではテオティワカン文明が紀元前後から7世紀まで、その滅亡後トルテカ文明が11世紀まで繁栄。

その後チチメカ人が侵入してきて、その一派のアステカ族が15世紀にアステカ王国を建国、首都テノチティトランを築く。(上記のテオティワカンと混同しやすい。テノチティトランはテオティワカンのやや南西部にあり現首都メキシコシティ。)

アステカ人は別名メシカ人ともいい、これがメキシコという国名の由来となる。

1521年コルテスによる征服の後、約300年間スペインの植民地統治を受ける。

1810年神父イダルゴの蜂起が起こり、モレーロスが続く。

両者は共に捕らえられ刑死したが、スペイン王党軍指揮官のイトゥルビデが考えを変えて反乱派と妥協したことによって1821年独立達成。

最初スペイン王室の誰かを国王に迎える動きがあったが、スペイン側に拒否されたため、独立の翌年イトゥルビデが皇帝として即位した。

ブラジルがポルトガル王室の一員を戴いて帝国として独立したのは高校世界史の範囲内ですし、よく知られていますが、メキシコもごく短期間ながら帝国だったんですね。

結局即位直後から議会との対立が深まり、イトゥルビデは一年で追放。

その後は混乱が続き、実力者サンタ・アナが断続的に大統領となる。

その治世下、1836年テキサス共和国分離独立(45年アメリカが併合)、1846~48年米墨(アメリカ・メキシコ)戦争敗北とカリフォルニア割譲で国土の半分を失う。

高校世界史ではラテン・アメリカ諸国の中でこの国の歴史が一番詳しく教えられるようで、以後の歴史における主要指導者である、フアレス、マクシミリアン、ディアス、マデロ、ウェルタ、サパタ、パンチョ・ビージャ(ビリャ)、カランサ、カルデナスといった名前は、私も高校生の頃から知っていました。

それぞれの政治的立場と主要事件とその年代を確認しながら一歩一歩読めば、非常に有益でしょう。

メキシコ革命後も権力闘争が長年続く中、1946年広範な勢力を結集した制度的革命党が結成され、それが日本の自民党のような一党単独政権を2000年まで続ける。

コンパクトに要領よく叙述されたおり、読みやすくて良い入門書だと思います。

ただ前半部の面白さが後半になるとかなり落ちるように感じたのは気のせいでしょうか。

いずれにせよこのシリーズの平均は十分クリアしていると思いますので、お勧めします。

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宮本信生 『カストロ』 (中公新書)

カストロ、ゲバラの礼賛本など全く読みたくはないのだが、本書は元キューバ駐在大使の著者が共産圏崩壊後の1996年に、多くの点で批判しながらも基本的には擁護するというスタンスで書いた本なので、読んでみた。

なかなか良いです。

すごく面白いということもないが、基本的な史実を押さえながらわかりやすくキューバ現代史を叙述している。

偏りのない良質の入門書としてお勧めします。

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中屋健一 『ラテン・アメリカ史』 (中公新書)

1964年刊。こちらもアメリカ史研究の長老格の人が書いた中南米史。

古い本ばかりで恐縮ですが、どうもそういった著作の方が私には合っているようです。

19世紀初頭の独立運動以後を叙述対象にしており、それ以前は省略されています。

比較的最近の増田義郎『物語ラテン・アメリカの歴史』(中公新書)とやや内容が重複するところもありますが、2冊とも読めばそれなりに得るところがあるでしょう。

冒頭は著者の中南米紀行と(本書刊行時点での)政治情勢の描写ですが、それはそれで面白いです。

ボリバル、サン・マルティンらが主導した独立運動の経過は比較的詳しくて良い。

中盤以降、独立達成後の各国の歴史を点描する章になりますが、新書版の厚さで多数の国の概略を記していくので、少々まとまりがないように感じる。

しかし細かな内容は無理に頭に入れようとせず、19世紀を通じて自由主義派と保守派の対立で多くの国で国内が混乱し、しばしば専制支配者が現れた中南米の歴史の概要を捉えられれば良いと割り切りましょう。

最後の20世紀を扱った章は、メキシコ・キューバ・ブラジル・アルゼンチンの歴史を重点的に叙述している。

これはこの地域での四ヶ国の重みを考えると理解できます。

個人的に非常に苦手な分野なので、この程度の薄い本でも結構役に立ちました。

各国の政権担当者名などの、やや詳しいデータをメモする機会があれば、かなり使える本のような気がします。

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増田義郎 『古代アステカ王国』 (中公新書)

同じ著者の『インカ帝国探検記』の姉妹編。

コルテスによるアステカ王国征服を叙述した作品。

上記の本と同じく非常に良い。

特異な史実の展開が極めて面白いだけでなく、歴史評価についてもバランスが取れている。

スペイン人征服者の狡猾・残忍・強欲・独善に触れる一方、必ずしもそうとは言えない一面にも言及している。

またアステカ族についても、「無垢な犠牲者」という面だけで捉えてはいない。

孤立した文明圏で暮らしてきたがゆえにやむを得ない側面があったとはいえ、彼らが奇怪で恐ろしい宗教観・宇宙観を持っており、それゆえ残忍な人身御供の風習を続けていたこと、領土拡張や貢納要求のためでなく生贄として虐殺するための捕虜を得るため近隣部族に戦争をしかけ、そのため大きな恨みをかっていたことなどにも触れている。

(それら近隣部族はコルテスの征服行為においてスペイン人の有力な同盟者となる。)

話の展開が非常に面白い。初心者向けの本としては最高。

中公新書の創刊まもない1963年初版という古さだが、今読んでも極めて興味深い本。

これも重版再開して常時手に入れられるようにしてもらいたいもんです。

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増田義郎 『インカ帝国探検記』 (中公文庫)

フランシスコ・ピサロによるインカ帝国征服を叙述した本。

コンパクトにまとまっていながら、なおかつ内容は濃い。

インカ帝国史の概略からピサロの探検と遭遇、皇帝アタワルパを虜囚にした後の首都クスコ占領、インカの反乱と少人数ゆえのスペイン人の苦戦、征服者内部の対立と紛争およびインカ残存勢力との目まぐるしい妥協・対立、トゥパク・アマルを首長とするインカ勢力の最後の反乱とその鎮圧までが詳しく記述されている。

総合的に見て、これは非常に良いです。

史実の細かな経緯自体が興味深いだけでなく、評価のバランスも取れている。

スペイン人征服者の暴虐にももちろん触れているが、時にはそれと相反する事実も書き留めているし、インカ人を全く悪意の無い、無垢なユートピアに暮らしていた人々であるといった単純化された捉え方もしていない。

行間に侵略者への憎悪を漲らせて、終始糾弾口調で記された歴史はどうも読む気にならないので、個人的にはこのくらいの叙述がちょうど良かった。

本書のように淡々と史実を記した上で、結果としてスペイン人との遭遇は先住民にとって大きな悲劇をもたらしたと評価するのなら素直に受け入れられる。

同じ著者の『古代アステカ王国』(中公新書)も読みたくなった。ただ『メキシコ革命』(中公新書)はパラパラ見たところ、是非通読したいとは思えない出来でした。

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